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幕間 破滅人の復活、十

フギト編最終回です。そして1000話を突破しました。

『ああ、この辺りだろうか。我が口を挟むとすれば』


 アリエスの力によって気を失っていたフギトの脳内に誰かの声が響く。

 その声は男性のものにも女性ものにも聞こえ、音階すら正確には聞き取れないものだった。

 だがフギトは理解した。

 この声の主は、あまりにも遠い存在だと。


『いくつか話しておくことがある。まずは感謝を。お前のおかげで「二つ」の事実が明らかになった』


 二つの真実? そうフギトは疑問を投げかけようとした。しかし声が出ない。というよりは、声を出す体がないと言うべきか。フギトの体はここにはない。どちらかと言えば意識を交わして会話しているような感覚だ。

 だからこそ、そんな疑問は会話の相手に伝わる。


『うむ。よもや準正規特異点が、「究極特異点」であり、あろうことか第四の特異点、「超自然特異点」までもこの時代に出現していようとは、さすがの我も驚いた。まあ、ある意味「必然」であったということだが』


 フギトの辞書に特異点という文字はない。だが似たような言葉は聞いたことがある。それはフギトが愛した女性が持っている能力の名前。


『特異眼、か……。確かにあの力は世界の特異点として機能する。とはいえ、正規特異点や超自然特異点と比べるとさすがに純度が落ちる。究極特異点については言うまでもない。……たったひとつでも世界に存在していればファーストイデアの歴史を大きく変えるはずの特異点が同じ時代に四つも存在しているという事実は、かなり奇怪。それゆえ次の戦いが最も苛烈を極める。これは容易に予想がつく事実である』


 と、そこで一度その声は聞こえなくなった。そしてどこか後悔が滲んだような声でこう続けてきた。


『そして謝罪を。お前には辛い思いをさせてしまった。すまなかった。イレギュラーとは世界の意思が生み出したものではあるが、その在り方は酷く歪んでいる。さしずめ、未完成の特異点と言うべきか。それゆえ不幸な運命をたどるきらいがあるのだ。我の意図したことではないが、全ての原因は我にある』


 その言葉をフギトは否定できなかった。

 イレギュラーと呼ばれたフギトがどのような人生を歩んできたのか、それを一番知っているのはフギト自身なのだから。

 と、その時。

 頭を何かで殴られたような衝撃がフギトに伝わってきた。無論、ここにフギトの肉体はない。だがそれ以外形容できないような感覚が走ったのだ。


『ふむ。時間切れか。……むしろここまで会話できたという事実そのものが奇跡か。まあ、よい。今後、お前は静かに生きることができる。それは我が保障しよう。だがもし』


 そして告げられる。

 今後の世界の行く末を。




『お前の居場所が壊れそうになったその時は、もう一度立ち上がってくれるか?』




 そんな声が頭に響いた瞬間。

 この空間は消失する。

 そして最後に見えたのは、黄色の長い髪に銀色の瞳を持った神々しい女性だった。












「もう行くのか?」


「ええ。あなたたちには世話になったわね。でも、もう歩き出さなきゃ」


「……そうか」


 ルモス村の入り口。

 爽やかな風が吹き抜けるその場所に、新たな門出を迎える男女が立っていた。

 出会った時はまったく違う晴れやかな顔を浮かべた二人は少しだけ嬉しそうにしながら、こう呟いてくる。


「それじゃあ、私たちは行くわね。ハクとアリエス、あなたたちにはどれだけ感謝してもしきれないわ」


「そうだな。俺たちはお前たちに救われた。これは紛れもない事実だ。ありがとう」


「あはは、気にするなよ。俺たちはそんな大層なことはしてないさ。な、アリエス?」


「そうそう。というか今回はまたハクにぃの病気が出たというか、なんというか……」


「なっ!? それはひどくないか!?」


「だって! 誰が見ても危険な場所に一人で飛び込んでいくなんて、普通じゃ考えられないの! もっと反省してよ!」


「ふふふ。でもそんなハクのおかげで私たちは今もこうして生きてる。それにレントも」


 そう言ってペトナは少しだけ視線を斜め上へ上げた。おそらくこの場にいないレントのことを思い浮かべているのだろう。

 レントときたらフギトとペトナが無事だとわかった瞬間、あとの処理を俺たちに押し付けて帰宅したのだ。

 曰く。


『この戦いは完全なボランティアだ。あとはEXランク冒険者のお前が責任持って片付けろ』


 ということらしい。


 ……ったく、レントはレントでユノアがいないと本当にじゃじゃ馬だなぁ。あの性格でユノアとはうまくやれてるっていうのはいまだに信じられないぞ……。


 そんなことを考えながら、俺はフギトとの戦いから今に至るまでの出来事を思い返していく。

 アリエスが俺たちを救った後、俺とアリエスはフギトとペトナを連れてルモス村へ帰還した。理由は現状の確認と今後の方針を決めるため。

 ペトナは自身の力で邪気を振り払ったが、フギトはその力をカラバリビアの鍵で封じ込めることで決着がついた。とはいえ、フギトの力は人神化した俺すらしのぐ力だ。いくら封印できているとはいえ、それが完璧なものか確認する必要があったのだ。

 だが、それは杞憂に終わった。

 神姫化状態のアリエスが施した封印は俺ですら解除不能なレベルの高度な封印だったのだ。つまり、今後フギト自身はもちろん、誰であってもその封印を解くことはできなくなった。

 アリエスが封印したのはフギトの邪気を集める能力そのものだ。最後の攻撃で全て邪気を出し切っているため、その能力を封じることで事態は収束した。

 となれば。

 あとは二人が今後どうしたいのか、その確認になる。

 結論から言えば、二人は旅に出るらしい。

 今度こそ自由にこの世界を生きてみたいのだとか。


「……で、行き先は決まってるのか?」


「それはまだだ。だが、ゆっくり決めるさ。なにせ時間はたくさんある。そうだろう、ペトナ?」


「ええ。私たちの時間はこれから動き出す。私とフギトもハクとアリエスみたいに幸せになってみせるわ」


「うん、そうだね。……あ! 結婚式は呼んでね! 世界のどこにいても駆けつけるから!」


「ぶっ!? あ、アリエス!? いきなり何を!?」


「ははは、珍しくフギトが驚いてるな」


「も、もう! 二人ともからかわない!」


「悪い悪い。……そう言えば、一応俺たちで用意できるものは用意したけど、これで大丈夫だったか?」


「ええ。十分すぎるくらい。本当にありがとう」


 フギトとペトナの背後にある馬車にはかなり大きな荷物がたくさん積み込まれていた。その中には旅に役立ちそうな道具や武器、食料などが詰め込まれている。

 特に食料に関してはあのシルにまで手伝ってもらって用意したものだ。衛生上保存食になってしまうが、あのシルお手製だ。味は俺が保障する。

 そしてついに。

 フギトとペトナは前を向いて歩き出す。


「それじゃあ、またどこかで。今度会った時はゆっくり食事でもしましょう」


「そうだな。二人とも元気で。陰ながら応援してるよ」


 と、そこにフギトが真剣な面持ちで近づいてきた。


「……フギト?」


「……」


 ペトナが少しだけ不安そうな顔を覗かせるが、その心配は杞憂だ。フギトは俺の前に拳を突き出すと力のこもった声でこう呟いてくる。


「今度戦う時は決着をつけよう。今度は絶対に勝つ」


「ああ。俺だってもうお前には負けない。次は俺が勝つ」


 フギトの拳に自分の拳を付き合わせた俺は、その後少しだけ微笑んだ。そしてフギトとペトナの背中を力強く押し出す。


「さあ、行ってこい。お前たちの旅は今、ここから始まるんだ」


「ああ」「ええ」


 そして二人はルモス村から旅立っていった。その姿が見えなくなるまで俺とアリエスは手を振り続け、そして最後は俺とアリエスだけがこの場に残された。


「……行っちゃったね」


「ああ」


「さみしい?」


「少し、な」


「でも、お別れじゃないよね」


「ああ、もちろん」


 俺はそう返すと思いっきり腕を空に向かって伸びをすると、今の今までずっと気になっていたことをアリエスに聞いてみた。


「そういえば、旅行はどうなったんだ?」


「え?」


「俺とレントがフギトたちと戦ってる時って、アリエスたちは現実世界で旅行中だっただろ? それを放り出して駆けつけてくれたわけだから、その旅行はどうなったのかなーって」


「……それ、ハクにぃが聞いちゃうの?」


「い、いや、俺も悪かったって思ってるよ! 反省してます、はい……」


 するとアリエスは少しだけ恥ずかしそうにこう語り出した。


「みんな現実世界で待ってくれてるよ。シルには料理のこととかで少し手伝ってもらったけど、他のみんなはまだ旅行先にいるんじゃないかな」


「え!? でもフギトと戦ってから一週間以上経ってるぞ!? どうやって……」


「それはほら、カラバリビアの鍵で時間の流れを変えて」


「あ、ああ、な、なるほどね……。もはやなんでもありだな、その力……」


「でもやっぱり」


「ん?」


 そこでアリエスは言葉を切った。そしてこう続けていく。


「みんな私に気を遣ってるなーって思っちゃって。少し肩身が狭かったというか、なんというか……」


「アリエス……」


 アリエスがアナの世界から帰還してまだそれほど経っていない。つまり今は気丈に振る舞っているものの、その心にはまだ大きな傷が残っているのだ。

 そんなアリエスを励ますための旅行だったはずなのだが、それがむしろアリエスに負担をかけていたらしい。

 これはどうしたものか、と俺は思考を巡らせていたのだが。


「だ、だから、今度はハクにぃも一緒に参加しない? だ、ダメかな?」


「え?」


「多分レントやラミオさんも声かければきてくれると思うし、それに……」


「それに?」


「フギトとペトナを見てたら、また昔みたいにみんなで冒険したくなっちゃった」


 その時、アリエスの顔に浮かんだ笑顔は、とても自然で柔らかで、そして明るかった。

 そんな顔を見せられては俺も黙っているわけにはいかない。少しだけ笑みを顔に浮かべた俺はアリエスに近づいてその体を持ち上げる。


「え、ちょ、ちょっと、ハクにぃ!? いきなりどうしたの?」


「どうしたも何も、戻るんだよ、現実世界に。俺もフギトたちに感化されたのかもな。アリエスと、みんなと冒険したくなった」


「ハクにぃ……!」


「さあ、いくぞ。出発だ!」




 こうして一つの戦いが終わった。

 そして俺たちの冒険は続いていく。




 次に俺たちを待つ戦い、それは最後の戦いだ。

 文字通り世界の全てをかけた戦い。

 俺たちの物語の終わりがそこにある。




 それまでしばしの休息を。

 その終わりとともに冒険は始まるのだ。
































 ピー!

 がががががガッ!

 ジジジジ……。


 色域……の、か………、認証、しま、した……。

 これより。








色域(ワールドカラー)候補を選定します。

識域(バーストカラー)候補を選定します。









長らく投稿が止まってしまい、申し訳ございませんでした。

応援の感想、ものすごく勇気付けられました。

感想に返信ができていないのですが、全て確認しています。

とても元気が出ました。本当にありがとうございます。

ゆっくり、ゆっくりと執筆のペースは戻しているのですが、

なかなか元に戻すのは難しいですね。

1週間に1話ずつ本編を更新しょうと思っています。


ちなみに妃愛の物語は最後までプロットは完成しています。

このお話と一緒に上がっている予告にて今後の投稿日時を記載していますので、

よろしければご確認ください。

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