8.〈星災〉
「……止めはしない。このまま続けていく。
それが、こうまで言ってくれたアキに応える誠実さだと思うし……。
そもそも今止めたところで、すでに私の思いや考えは、多くの人の心に蒔かれてしまっているんだ。
それを、我が身可愛さで投げ出すようなマネはしたくない。いや、してはならない。
だから、最後まで責任を持って――自ら選んだこの道を歩み、その先を見届けようと思う」
妹ロナの問いかけに、ランディははっきりと答えを示した。
そんな兄の、固い意志を秘めた視線を真っ向から受け止めながら――ロナはなおも問う。
「それが――〈星災〉へ至るとしても?」
その一言が、どれだけの意味を持っていたのか――ランディは眉を顰め、様子を見守っていたアキもまた動揺を露わにした。
「おいロナ、いくら何でもそんな……」
「行き過ぎ、考え過ぎ――って?
けれど、〈カタス〉がわざわざ止めようとするぐらいなのよ?
それを撥ね除け、なおも進もうとする先に何が待つか――これを考えない方が、よほど楽観的で非常識だと思わない?」
「……そうだな。ロナの言う通りだ」
ランディは、静かに一度頷く。
――〈星災〉。
それは、基本的には『自然災害』そのものと同義である。
唯一、その両者を分かつ要素――それが、『意志』の有無だった。
この星が、意志を以て起こしたと感じる災害――それを人は、〈星災〉と呼ぶようになったのだ。
誰に教えられたわけでもなく、誰が言い出したことでもなく……さらに言えば、証拠と呼ぶようなものもなくとも、ただ自然に、いつしか。
誰からともなく、きっとそうだと感じ、信じ――それが、子に孫にと伝えられて。
そして、かつての人がその『意志』を感じ取った原因が……『文明への回帰』だった。
滅亡以前の世界への回帰を人々が望むとき、それを成そうとしたとき――まるでそれを阻むかのように災害が起こり、事実、そうした流れはその都度途絶えることとなり。
ゆえに人は長い年月の果てに、いつしか古き世界への憧憬を捨て、過去の遺物を忌避し……やがて組織されたカタスの統括の下、変わらず廻る世界を生きるようになったのだった。
そうして平和に廻る世界が長く続いただけに、今や〈星災〉そのものが、もはや人々にとって遠いものとなってもいるが……。
そもそものカタスの行動規範と繋がっているように、決して、完全に失われた言葉でもないのである。
いわばそれは、今の人間にとって、本能的な恐怖の一概念とも言えるかも知れない。
「だけど、それは――〈星災〉が、真実考えられている通りのものであるなら、だ」
言って、ランディはついと視線を空に向ける。
……そこにまさに、この星を見続ける『意志』が存在するかのように。
「いや、あるいは……事実、〈星災〉がその通りのものであったとしても。
ならばなぜ、我々はそうして閉じられて廻る平和な世界の在りように、違和を感じるのか。このままではいけないと思えるのか。
――なおさらに、私たちは……それを見極めなければならないのではないだろうか」
「つまり……兄さんは。
〈星災〉が起こると分かっていても、止める気はないってこと?」
「それが確実で、なおかつ大規模なものだと分かれば――それはもう、即座に看板を下ろすつもりだけどな」
視線を妹の方へと戻し……ランディは、冗談混じりに笑ってみせた。
そうして、すぐに今度はアキに目を向ける。
「そんなわけだが……それでも私に付き合ってくれるか、アキ?」
「問題ないさ。
それに――ヤバいと感じて逃げるのは、きっと先生より俺の方が早い」
同じく、気負いの無い笑みを返すアキに頷き――改めて、ランディはロナと向かい合った。
「…………そう」
そしてロナは、そんな兄たちの応えに一言呟くと――。
「重い荷物を運んできた甲斐があったわね」
続けてそう告げるや否や。
いきなり、抱えていた大きな布袋をアキに押し付けた。
「何だよロナ――って、重っ!?
おい、これホントに何だよいったい!?」
「何、って……わたしの部屋にあった私物の一部だけど?
――あ、後でまた残りを回収に行くから、アキ、荷物持ちお願いね」
「! ロナ……まさか、お前……」
目を白黒させながらのランディの問いかけに……ロナは、ニッと笑って応じた。
「ええ、カタスなら辞めてきたから。これからはわたしも兄さんを手伝うわよ。
――ホント、『やっぱりもう止める』とか言われなくて良かったわ」




