7.その道の、その教えの、是非
「……気付けば、結構な人が来るようになったなあ」
50人ほどの聴衆が、空き地から立ち去っていくのを見送りながら……アキは、彼らを相手に自らの思いと考えを語っていたランディに歩み寄る。
――そもそもは教師として、子供たちにささやかな知識を教えていたランディ。
そんな彼が〈新世生命論〉をきっかけに、新たな『人の在り方』についても教え、諭すようになり……。
やがて、子供たちから伝え聞くその教えに興味を抱き――直接に話を聞いてみたいと彼のもとを訪れる大人たちも、徐々に増えて。
今ではこうして……手狭なランディの家ではなく、近場の空き地で講演を行うほどになっていたのだった。
もちろん、そもそもが過去の知識に興味を持つ『変わり者』と知られていたランディである、その言動を〈庭都〉にとって『よくないもの』として避ける者もいたが……むしろそちらの方が、今のところは少数であるらしい。
そして――ランディの講義を聴いて、帰って行く人々は。
その多くが、何かが腑に落ちたような、同時に何かを考え込むような……そんな表情をしていた。
それを見ると、アキは……大なり小なり誰もが同じだったんだな、と思う。
誰もが、自分のそれと同じような『違和感』を、心の奥底に隠し持っていたのだ――と。
……以前、あの不思議に懐かしい少年が、言っていたように。
「お疲れさん、先生。
今日も好評だったみたいで良かったよ」
「好評、という言い方が正しいかは難しいところだけどな」
アキに声を掛けられ、ランディは苦笑混じりに答える。
「けれども、みんなが真剣に耳を傾けてくれるのはありがたいことだ。
――それもアキ、君が私に賛同してくれたお陰だよ」
まだ残っていた子供が、自分に手を振ってくれるのに応じて手を振り返しながら……ランディがそう告げると。
「俺はただ、俺が正しいと思ったようにしただけさ」
それだって、あの少年が背中を押してくれたからだしな――。
そんな続く言葉は飲み込み、アキは小さく肩をすくめた。
「だが君が賛同してくれなければ私は、こうして、自分の思うことを行動に移していたかどうか分からない。
……それにねアキ、君は君が思う以上に、人を惹きつける人間なんだ。
そんな君が、私の一番の賛同者として協力している――その事実も大きいんだよ」
「おいおい先生……そんなに俺を持ち上げたって、出てくるのは昼メシ代ぐらいだぞ?
それも、ごくごくたまに、だ」
答えてアキは、子供のように快活に笑うと――自らの二の腕をぽんと叩く。
「すべては、先生がちゃんとみんなの――人々のためにって、真摯に向き合ってるからだよ。
俺が出来ることなんてせいぜい、難癖付けて腕尽くのケンカ吹っかけてくるようなヤツがいたら、ブン殴って止めるぐらいのことさ」
「――なら、近いうちにそっちの方でも活躍するときが来るかもね」
唐突に投げかけられた、見知った声に二人がそちらを振り返ると……。
そこには、何の荷物なのか――大きな布袋を抱えた、見知った少女が立っていた。
「「 ロナ!? 」」
「何よ、そんなところまで仲良くお揃いで……妬けちゃうわね?」
声を合わせて驚くアキたちの様子に、ロナは冗談混じりに苦笑する。
「何でお前、ここに……〈カタス〉の仕事は?」
「いわば、これがまさにその仕事の一環――ってやつよ」
アキの問いに答えつつ、ロナはランディに目を向けた。
そして当のランディは、それで妹の言わんとしていることを察したらしく、なるほど、と頷く。
「……私のしていることを、カタスが煙たがり始めた――ということかな。
その上で、妹のお前を説得に向かわせた、と。
いずれは、そういう話も出るだろうとは思ったが……」
「思ってたよりも早かった?
じゃあ、それだけ影響が広まるのも早かった――ってことでしょうね」
ロナは兄に頷き返すと――そのままアキに視線を移す。
「……っていうかさ、アキ、あなたは〈イクサ〉の方で何か言われてないの?
兄さんの活動に関わることで、注意とかさ」
「うちの隊長は、ああ見えて大らかだからな……。
仕事をちゃんとこなして、なおかつ、直接的に人々の生活を脅かすようなマネをしないなら、この程度のことで首突っ込んできたりはしねえよ。
……まあ、こうしてカタスが、先生の妹のお前を遣いに寄越すぐらいだ……この先どうなるかは分からんけどな」
言葉通りならそれなりに大ごとのはずだが、ちょっとした日常の些事のように軽く語って――アキは小さくパキンと指の骨を鳴らす。
いざとなれば、それこそ先にロナが仄めかしたように、力に力で抗するのも覚悟の上だと言うように。
「おいアキ、君は――」
「今さら『もう関わるな』は無しだぜ先生。
……さっき言ったばっかりだろ?
俺は、俺の正しいと思ったことをやるだけなんだよ」
ランディが表情を曇らせると――アキは気負い無く軽やかに笑みながら、その背中を叩いた。
「ま、アキ――あなたならそんな風に言うだろうとは思ってたわ。
……で、肝心の兄さんはどうする?
こんなアキを巻き込んででもこのまま活動を続けていく?
それとも――もう止めにする?」
「私は――」
妹の問いに、しばしの間を置いて――。
ランディは改めて、その目を見返した。




