表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新装版】 屍喰神楽 ~シニカミカグラ~  作者: 八刀皿 日音
4章 新たな世界へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

111/114

 5.思うがままに


 アキが、ランディの部屋から外に出てみれば……早くも日が傾いていた。

 夕焼けの街を、家路につく人々が行き交う。


 ランディに渡された、現代語訳の古書を入れた麻袋を抱え直して、アキは――そんな人の流れと同じに素直に家へと戻るのではなく。

 遠回りをするような形で、小高い丘の方へと足を向けていた。

 ……少しばかり、頭を整理したかったのだ。


 そして丘へ登れば、彼の望み通り――冷静にものを考えるにはちょうどいい、涼やかな風が吹く。



「…………」



 ここで視線を巡らせれば、〈庭都(ガーデン)〉の石造りの街並みと、それを取り囲むように広がる麦畑が――夕日に照らされて、金色に輝いていた。



 人間たちは、ここで生まれ、生き――。

 そしてやがて個としての命を終え、〈イカバネ〉を経て、いずれ星へと還りゆく。



 そのサイクルを、アキの生まれる前からずっと続けてきた。

 そしてそれは、さらにずっとはるか前から続いていて……この先も、いつまでも変わらず続いていくものだとアキは思っていた。


 いや、今でも思っている。

 そう思っているのだが……。



「……まさしく、『違和感』だな……」



 麻袋に視線を落とし、アキはぽつりと呟く。


 争いというほどの争いも無く、慎ましやかに正しく廻るサイクル――あまりにも『当然』であるそれらを、『当然』とすることへの……そこはかとなく胸を過ぎる、焦燥感や罪悪感といったものに近い、微かな衝動。


 決して大きなものではないのに、しかし無視も出来ない――刺さったままのトゲのような感覚。

 それと気付かなければ、意識もしなかったかも知れない――しかし一度認識してしまえば、もはや忘れ去ることなど出来ない感覚。



 ――先生には、その答えが見えているみたいだったが……。

 俺にも、同じものが見えるんだろうか――。



 麻袋の中にある、〈新世生命論〉なる古書。

 それによって、ランディは『気付き』を得たという。


 ならば自分も、これを読むことで同じ気付きを得られるのだろうか。



「いや、そもそも……。

 俺は本当に、その答えを見るべきなのか?

 ――見たいと、そう思っているのか……?」



 何とも言いがたい、複雑な感情を溜め息一つに任せ……アキは麻袋から目を上げる。

 そして、そろそろ戻ろうかときびすを返して――




「――こんにちは」




 そこに、人が立っていたことに気が付いた。


 小柄な、恐らくは少年と――その少年と手を繋ぐ、より幼い少女。

 揃いの、フード付きのケープを羽織った二人がいることに。


 治安を守る〈イクサ〉として、ごくまれに暴れることがあるイカバネや、人々の諍いを腕っぷしで押さえ込む――そんな仕事のために、訓練によって感覚を磨いてきた自負があるアキ。

 そんなアキだからこそ……自分が気付くことなく、こんな子供たちに背後を取られたことにまず驚きがあった。


 だがそれは、それほど深く物思いに耽っていたというだけかも知れない。

 そのことよりも――。



 ……このあたりに、こんな子たちが住んでいたか……?



 そんな疑問の方が、アキの思考を占める割合は大きかった。

 考えてみても、まるで思い当たらない。


 しかし、その疑問は――少年が今一度挨拶を投げかけたその途端、消え去ってしまう。

 ――アキ自身、それを不思議と感じることも無く。



「あ、ああ……こんにちは、少年。

 ――あ~、いや……もうそろそろ、こんばんは……か?」


「そうだね。難しい時間だ」



 アキのおどけたような返事に、少年もフードの奥で微かに笑っていた。



「いや、あるいは――総じて悩みというのは、そういうものかも知れないね」


「……はは、これはまた大きく出たな。

 だが……どうしてそんな風に思う?」


「案外、当人は答えを分かっていて……けれど状況がそれを分かつところとか、かな。

 同時に――当人が決めたどちらをも、正しいと言えるところなんかも」



 少年の答えに、アキは小さく唸る。


 ……いかにも言葉遊びで、煙に巻かれていると取れなくもなかったが……なぜか、そうだと切り捨てる気にもなれなかった。


 それどころか……妙に、胸にしみ通るように感じる。

 何が、という明確な理由もないが――どこか、腕の中の古書に通ずるものがあるような気がして……アキは自然と、麻袋に再び視線を落とした。



「だから――キミの。キミたちの、思うがままに。

 その『違和感』の正体に気付いたとき、どの道を選ぶのかは。

 きっとその根ざすところは、すべての人たちもまた――同じはずなのだから」



「――――!?」


 少年のその言葉に――自らの心の内を見たかのような言葉に、アキは反射的に目を上げるが……。


 そこに、少年と少女の姿はなかった。

 まるで、そもそも初めから誰もいなかったかのように。



「……今のは……」



 まさしく、幻でも見たかのようだった。

 だが――そうではないと、彼の感覚が訴えていた。


 それは、驚きや恐怖ではなく――



 ……懐かしい、と。



 初めて出会い、僅かに言葉を交わしただけであるのに――。

 アキの胸には、そんな思いが残ったのだ……強く。


 まるで……惑いの中にある自分の背に、そっと。

 古い友人が、手を添えてくれたような――そんな気がしたのだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
最早神様ですね( ˘ω˘ )
カイリ達まだ存在してた! いやしかし、時間の概念が変わってしまえば、数千年だろうと大した時間ではない感覚になるんですかねぇ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ