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【新装版】 屍喰神楽 ~シニカミカグラ~  作者: 八刀皿 日音
4章 新たな世界へ

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 3.微かな違和感に


 ――〈庭都(ガーデン)〉には、人々の社会生活を統括する〈カタス〉なる組織が存在する。


 そう、『統治』ではなく『統括』だ。

 組織が行うのは、あくまで社会生活の取り纏めであり、上に立っての支配ではない。

 そもそも〈庭都〉には、支配者というものは存在しないのだ。

 ゆえに〈カタス〉のそれは、人々が、社会においてそれぞれの為せることを為していく上で、自然と形作られた枠組み……その延長線上と言える。


 そして、そんな統括組織〈カタス〉で働く役人――〈ツカサ〉に割り当てられた、庁舎の一室で……。

 〈カタス〉の一部署とも言える治安維持機関〈イクサ〉の一員である青年アキは、物思いに耽っていた。



「…………ん~…………」


「アキ……考えごとするのは勝手だけど、他所でやってくれない?」



 何らかの資料らしき紙片や書物が、整然と並び、あるいは積み上げられた――石造りの部屋の中。

 小さな木のテーブルに頬杖を突き、唸るような声をもらすアキに……部屋の主である少女は、いかにも鬱陶しいとばかりに不満を告げた。


「ん? まあそう言うなよロナ……他所だと気を遣っちまうだろ?」


「わたしにも気を遣いなさいって言ってるの!」


 片頬を引きつらせながら、アキの昔馴染みの少女――ロナは。

 水の入ったコップをテーブルにどんと叩き付けつつ、アキの向かいに腰を下ろす。


「なんだ、仕事はもういいのかよ?」


「休憩よ休憩! 誰かさんが邪魔するから!」


「? 邪魔にならないように静かにしてたろ?」


「…………。

 そうよね、あなたはそういう人間よね……」


 小首を傾げるアキに対し、絶句したロナは……。

 その後すぐ、毒気を抜かれたとばかり大きな溜め息をついた。



「でも、ホントにどうしたのよ? らしくない。

 あなたのことだから、〈イクサ〉の仕事のこととかでもないでしょ?」


「ん……まあな」


「そうね、ちょうど兄さんの様子を見に行ってもらってからだから……。

 兄さんに何か言われたの?」



 ――ロナは、アキが『先生』と呼ぶランディの実の妹だ。

 兄妹揃って幼い頃から聡明で、その才を買われて〈ツカサ〉としての招聘を受けたが……元来どこか超然としていたランディは仕事が水に合わなかったのか、早々に辞して野に下り。

 今はこうして、妹のロナだけが庁舎に残っている形だった。


 とはいえ、兄妹が仲違いをしたというわけでもないので……ロナは時折、比較的仕事に時間的余裕が出来やすいアキに、兄の様子を見てもらっていたのだ。



「……そんなところだな。

 先生は、『変人の戯言』だって流してたけど……どうしてもそのとき言ってたことが、頭に引っかかっちまってさ」


 自分の分のコップの水を見つめながら……アキは答える。


「兄さん、何を言ってたの?」



「…………。

 今の俺たち人間は、前へ先へと進んでいると思うか。

 やらなければならないことをやっていると思うか。

 そのことから、無意識に目を逸らしていないと言えるか――」



 一瞬のことながら、記憶に焼き付いたように残っていたその言葉を、アキは求められるまま口にする。



「………………」


「いや、そりゃあやってるだろ精一杯、って感じだけどさ。

 いかにも先生らしい戯言っつったらそれまでだけどさ。

 でも……なんか、引っかかっちまって。

 何て言うか、こう……何となくどこかにあった、違和感――そんな感じのものに、直に触れたって言うか……。

 うん、まあ……上手くは言えねえんだけど……」


 聞いていたロナが押し黙ったために――何ともいたたまれなくなったアキは、さらに矢継ぎ早にそんな思いをまくし立てる。


 すると、ロナは――アキを見ていながら、見ていないかのように。

 ぽつりと、その唇から言葉を紡ぎ出す。




「違和感――じゃあ、これが……?」




「おい、ロナ……?」



「――そうね。何となく分かるわ、あなたのその気持ち」


 アキが改めて名を呼ぶと、ロナは一つ頷き――今度はそうはっきりと彼に告げた。



「お前も……? そうなのか?

 なら、これは――」


「もちろん、ホントにただの戯言の可能性もあるけどね。

 兄さんらしい、いかにもな」



 妙に心を騒がせるこの思索に、何らかの答えが得られるのか――そう期待したような眼差しを向けるアキに、ロナはあっさりとした調子でクギを刺す。

 当然、分かりやすくガックリとするアキ。


 だが続けて……そんなアキの浮き沈みを手の平で転がして、仕事を中断させられた意趣返しでもしているのか――あるいは。

 彼女自身、自らの思いを持て余しているのか――ロナは真剣な表情に切り替わる。



「けれど……ホントに。

 兄さんだからこそ気付いた、わたしたちの在りように関わる――大事な何か、の可能性もある」


「ロナ……」


「そこのところはもう、本人に改めて聞くしかないわね。

 と、いうわけで――」



 ロナはおもむろに立ち上がると、アキの服を掴み、立てとばかりに引っ張り上げる。

 そして、渋々それに従って自ら席を立ったアキの背中を押して、部屋の出入り口へと追いやった。



「その辺も含めて、もうしばらく兄さんのお世話、お願いね」


「お、おう……。

 いや分かった、分かったから……押すなって!」


「――はい、もう行った行った! これ以上は仕事の邪魔!」



 大柄なアキをぐいぐいと外まで追い出し、ドアを少しばかり強めに閉めてやって。

 まったく、と小さく溜め息をついて――仕事用の机まで戻って。


 そうしてから、ロナは……何かを思い出すように。

 何も無い中空へと、視線をついと引き上げた。



「……〈白き黄金の方〉……。

 あなたは……これを……?」




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〈白き黄金の方〉……!? まさか……!
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