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ユニティ□キューブ!  作者: (仮名)
『転:天地創造RTA』
22/42

『森とタタラ場(2)』

そして実を言うと、豆腐たちのやり取りは『知恵の実』を通してミズナラに丸聞こえでした。


 “契約の箱”の持ち主であるミズナラは豆腐のアクセサリーを介して、通話していない時でも音声と映像を一方的に受信できるのです。そのことを豆腐とニラヤマに明かさず盗み聞きをしていたのは、ミズナラが彼らにまだ隠し事をされていると感じていたからでした。


 そしてミズナラは一番有効に活用された『契約の箱』の持ち主がEDEN内の願いを叶えられ、そこでニラヤマが“カナン”の破壊を願うつもりであったと知ってしまったのです。


「ちょっと前に、昔の知り合いがEDENのこと聞きたがってて、ほら僕……今は休職中だから家族以外だとEDENで知り合った人としか話す機会もないし、ここで再会できるのを楽しみにしてたんです」とミズナラが話した相手は、これまたムロトでした。


 悩み相談をしやすい人とは往々にして聞き上手であるというだけではなく、自分の不安や愚痴を聞かせることに負い目を感じないで済む人で、そういう他人の悩み事を肴にして酒を飲めるような人にほど『プライベートな事情』が舞い込んでくるのです。


「ふぅんリアルでの知り合いか、僕だったら自分の現実(リアル)を知ってる人には絶対会いたくないかな」


と笑うムロトに、ミズナラは「僕の同級生なんです。ほとんど不登校だったんですけど、僕だけはプリントとか届けに行ってる時にお話しもしてて。それで、その人は今ではプロの漫画家になってるみたいです。だから僕は……」と言いかけて「関係あるか分からない人のこと喋り過ぎちゃいましたね、忘れてください」と笑いました。


 ニラヤマの『契約の箱』にまつわる物騒な願いと、自分の願いが叶えられるならぼんやり旧友との再会を考えていることなど、まだムロトに話すわけにはいかないと考えたのです。


 豆腐と二人きりの時に確認すれば済む話ではあるのですが、ミズナラは豆腐たちのワールド製作に参加することはできないのです。その事実にもどかしさを感じていたから、ムロトに相談したのかもしれません。

 その時ポコンという音が鳴って、ミズナラの画面にニラヤマからの招待アイコンが表示されます。招待への承認許諾を決める前に、ミズナラの『知恵の実』に音声通話を繋いだニラヤマが「製作途中の“お告げ”用ワールドを見てもらいたくてさ。今取り込み中なら空いてる時で良いんだけど」と要件を告げます。


「ああ、ごめんなさいね。今ちょっと取り込み中で」


と咄嗟にミズナラが言ったのはムロトと二人きりで話しているところを見られたくないからで「豆腐さん、そっちのワールド製作はどうですか?」と話す相手を変えたのは、長らくワールド製作にかかりっきりのニラヤマと配信に勤しんでいる自分では共通する話題がないからでした。


 そして自分が居ないところで豆腐とどう過ごしているのか、また何時ものように言い争っているなら自分が取り成してやらないと、という気持ちもあったのです。

 

 だから豆腐が「ミズナラよ、貴様も“祭司”の使命を果たした後に自室用のワールド等を作ってみないか?そうすればニラヤマと過ごす時間も増やせるだろう」と勧誘してきたのは予想外のことでした。


「どうしても言葉や身振りを交わすだけでは、その人間の上辺より深くを知ることは難しい。けれどワールドなどの製作物として『頭の中の世界』を共有することで、我とニラヤマはお互いに新しい側面を知ることができた。ニラヤマよ、貴様もそう思わないか?」


 なりたい姿になって好きなものを創り、世界中の人々と交流できるのがVR-EDENという世界だと公式のサービス概要には記されています。

 例えば小説や絵や映画――そして漫画にも触れず現実の世界を生きて行くことは可能ですが、このEDEN(せかい)に存在するなら必ず何かのアバターを着用して、どこかのワールドに居るということでした。

 それは誰かがEDENを楽しむ過程の中で、自分の創作に触れてもらえる機会が必ずあるということです。


 その言葉は理屈としては間違っていないにせよ、豆腐は何故それをミズナラに話しているのか自覚していませんでした。

 元同級生と関係をやり直すための“カナン”を守る使命を果たそうとして、その道中で会ったミズナラとは『神の使者』として接しなければなりません。

 けれど創作を通して『VR-EDENのミズナラ』ではなく現実の元同級生としての、既に知っている姿を見ることができたらと思ってしまったのかもしれません。そしてワールド製作に関しては、ニラヤマも同じ考えだろうと思って話を振ったのでした。


「別にミズナラはワールド製作しなくても良いと思うよ。前にそう思ってた時はあったけど、今は豆腐も居るからさ」


とニラヤマは言いました。それは、まるでワールド製作をしている友達として豆腐が得られたから、もうミズナラは必要ないと聞こえるような言い回しでした。「お……おいニラヤマよ」と豆腐が言うよりも早く、ミズナラの呟く声が『知恵の実』から聞こえてきます。


「……頭の中の世界、ですか」


ミズナラは少しの間は黙って、やがていつも通りに笑って言いました。


「ふふ、僕にはそんなものないですよ?」

「……そっか」


 会話を中継していた豆腐は、ニラヤマの表情が蔭った気がしました。


 この二人の会話で、想いを秘めたミズナラが唐変木なニラヤマの言葉に人知れず懸念したり沈むことはあっても、その反対があるのは珍しいなと思いましたが、わざわざ口にすることはありません。

 そして『知恵の実』による通話が切られた後、ミズナラの「やっぱり同じことをしていないと、同じ場所に居ちゃいけないのかな」という呟きを聞く者は誰も居ません。

 

 結局、ミズナラは一般公開(パブリッシュ)されるまで豆腐たちの“お告げ”用ワールドに訪れることはありませんでした。

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