表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユニティ□キューブ!  作者: (仮名)
『転:天地創造RTA』
18/42

『天地創造RTA(2)』


 曰く、創造主ははじめに天と地を創造しました。

 

 これは、まっさらな空間(scene)とユーザーが立つべき足場(コライダー)のことで、まだ地となる足場には平板な姿(かたち)しかありません。

 

 そして次に創造主は『光あれ』と言いました。そうして世界が光と闇に分けられて、足場や空といったものの姿が照らされて見えるようになったのです。

 そして豆腐が初めて触った製作ソフトには、それら全てが用意された白紙の世界ことSample sceneが用意されていました。


「さて、これで天地創造の一日目はショートカットできましたね」


と、果てしなく広がっていく平らな地面の上に立ってニラヤマは言います。


 豆腐が製作してアップロードしたSceneデータに、一時間ごとにニラヤマと集合して打ち合わせをする形でワールド製作を進めているのでした。

「だが、ここから我が“お告げ”のためのワールドを創るだと?たった七時間で何を創るべきか分かるわけがないだろう!」と、豆腐は久々にアクセサリーに扮した姿から解放されて、ニラヤマの前でくるくる回りながら言いました。

 ニラヤマは「んー」と組んだ手に顎を乗せる(つまり、ニラヤマは現実では机の前などに座っていて、そこに肘をついている状態なのでしょう)と、豆腐にこう質問します。


「それじゃあ質問なんですけど、例えば豆腐にとっての理想郷が“カナン”という名前であったとしましょう。あんたは何故そこに行きたいんですか?」

「どういうことだ?」


 豆腐の質問に、ニラヤマは「何かしらの理由がなければ、行き方も定かではない“カナン”のコミュニティを目指したりだとか、ワールドを創りたいだなんて考えたりしないんです。つまりですね、あー……」と考え込んでから、

鼻に指を沿えて「例えば最初にミズナラに会ったコミュニティ、そして“ソドム”のことも知りましたよね。あんたのやりたいことは、ああいう既に知ってる場所ではできないと思うようなことなんですか?」と続けました。


 出会い方が悪かった――ニラヤマがそういう時に居合わせるよう仕向けただけで、ミズナラが長い間居たということは最初に向かったコミュニティにも良い部分は沢山あるのでしょう。

 そして“ソドム”のような場所を求めて、楽しんでいる人が居るからこそ、まさに “魔窟”としてのEDENが人々の声として外の人間たちにも知れ渡っているのでしょう。

 

 それでも豆腐は、ミズナラが見せた美しい景色の中で人々が綺麗な衣装を纏い、言葉を交わすことなく通じ合えるような場所を求めてEDENに訪れたのだと考えました。


「……大聖堂だ、我と司祭たるミズナラが託宣(はいしん)を行うための」


「と、言いますと」と、ニラヤマは先を促します。


 豆腐は言いました。

 街中の雑踏で託宣を叫んでも傍目からは迷惑な障害物にしか見えないし、アイドルだってライブステージがなければ自分たちに注目させることは難しい。

 だけど写真を見た誰もが一度は訪れたいと思うような美しい内装で、そこが自分たちのお告げを行うためだけに用意されているとしたら?


 室内では荘厳さを保つためという名目で私語を禁止にしておけば、お告げも託宣もその場所を観光したい人にとってのBGMで良い。

 過激な内容でなければ景色の美しさと同調してプラスのイメージで受容される、そういう『場所』が欲しいのだといいました。


「いいですね。そこまで目的がはっきりしてると創りやすい」

「意外だな、何か文句を言われると思っていたが」


 ふん、とニラヤマは反り気味な姿勢(椅子の背もたれに寄り掛かったのでしょう)で鼻を鳴らします。


「ワールドっていうのは多かれ少なかれ、頭の中の自由にできる世界を具現化したものなんですよ。誰も他人の頭の中にまで文句を言われる筋合いはないでしょう、気に入らないなら覗きに来なければ良いだけの話ですから」


とまで言ってから、ニラヤマは「これが、イベントの会場だとか誰かのインスタンスに訪れるアバターみたいに、簡単に他者に作用できるものだと暗黙の了解で、やってはいけないことや共通の価値観みたいなものが出てくるんです。それもコミュニティによって変わるんですけど」と付け加えます。


「大聖堂は隅々まで作り込まれた市販品(アセット)がある、多少値がはりますけど。もしも豆腐にとって“荘厳さ”や細かな構造の注文がなければ、そういうのを使った方が早い。ただ“お告げ”の内容を守るなら、今回はCubeとstandardシェーダーで創らないといけないんでしたっけ」


「むう……」と考え込んでいる豆腐に、ニラヤマは「アセットの使い方とかは私の方が慣れてますし、次の一時間分はやってきますから。豆腐はミズナラの方を見て来てください」と言います。


「簡単に言ってくれるな」と豆腐が言い返したのは、豆腐一人でインスタンスを移動してもミズナラと合流することが簡単でないからです。

 箱型のアバターは止まっていればミラーのスイッチ、動いていても誰かのアクセサリーに見えますが、ミズナラに気付いてもらおうと声を発せば他のユーザーにも存在を気付かれてしまいます。

 あまつさえ『ネームプレートのない箱型アバター』の不正ユーザーが居るという、根も葉もある噂が広まっている中で豆腐が出歩くのは簡単なことではありません。


 しかしニラヤマに急かされた豆腐が、ミズナラの居るインスタンスに移動した先で見たのは思いもよらない光景でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ