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小話 ~ ベラートの話 ~

ちょっと前話の裏側を書いてみました。

 ベラートはエージュの母方の叔父にあたり、妻はメイド長のナリーである。

 代々王家に仕えてきた一族として、三人はサイラスのことを知っているはずだった。


「ナリー、サイラス様が」

「ええ、ええ。お話には聞いておりましたが、本当にこちらにいらっしゃるとは。前もって準備はしていましたよ」

「では、あとは頼む。お茶はわたしが運ぶ」

「あら、珍しい」

「自分の目で見なくては、わたしの気が落ち着かないのでな」

 わずかに焦りを見せる夫を見て、ナリーは目を細める。


 そんなに心配しなくてもいいと思うけどねぇ。


 少しぽっちゃりした体型の妻は、それより相手のいないエージュが心配だわと心の中で呟いた。



☆☆☆



 な……なんだ、コレはっ!!


 ベラートはワゴンを押してきたものの、あまりの光景にその場で膝から崩れ落ちそうになっていた。


「いいから、わかったから顔を上げて!」

「良いんだな?」

「ええええ、もうどうでもいいから、これ以上わたくしに変な噂をつけないでちょうだい!」

 

 焦る令嬢の前で、さっき一瞬だけ見た限り、サイラス様はテーブルに頭をつけて懇願していなかっただろうか?

 ――いや、していたはずだ。今も両手はテーブルについたままだし、頭も低い位置だ。


「サイラス様、お召し物を隣室にご用意しましたのでお着替えください」


 顔には出ていなかったはずだ。とにかくこの場から離れたほうがいい気がする。 


 ベラートの声掛けにも、サイラスはすぐに動こうとしない。

 

「そうよ、サイラス。風邪をひくわ」

「いや、大丈夫だ」

 良くないわよ、とシャナリーゼが顔をしかめたように、ベラートには見えた。

 とにかくなんとか重い腰をたたせることに成功し、ベラートは隣室へと案内した。


 濡れた髪をふき、テキパキと着替えを手伝っていると、ふいにサイラスがため息をつく。

「……明日の予定をキャンセルしたい」

「無理です」

 驚きながらも、口は間髪入れずに動いていた。

「だろうな。キャンセルなんぞしたら、倍返しで接待を要求されるな」

「何度も、こちらのお屋敷での晩餐をご希望でいらっしゃいますからね」

「絶対嫌だ。無視していろ」

「もちろんでございます」

 ブスッとしたままもう一度大きくため息をつくと、サイラスは姿見の鏡の前でじっと自分をみていた。

「……ひどい顔だな」

「将が焦りを顔に出すなど厳禁でございます。まあ、今回はお見逃しいたしますが」

「シャーリーの件もだ」

「それは保留にさせて頂きます」

 キッとサイラスの目が鋭くなったが、ベラートはひるむことなく立っている。

 ベラートはマディウス側の人間である。

それはサイラスも承知していることではあるが……。

「キースがしくじりましたので、すぐに他の者が動きます。隠すのは無駄かと思われます」

「シャーリーには面倒をかけたくない」

「無理でございます。あの方はいるだけで人を集める方です。社交界ならば大輪の華を咲かせられるでしょう。そんな方が隠れるなど不可能です。現に皇太子殿下には評価されておいでです」

 ムッと口を閉じたサイラスに、ベラートは当然とばかりに言う。

「シャナリーゼ様はお早くご帰国をお望みです」

「わかっている」

「こちらの手の内には女性が少なく、少々不自由をしておりました」

「……何が言いたい」

 剣呑の色を濃くした鋭い目がベラートを射抜く。

 その気配に感嘆しつつ、ベラートは頭を下げる。

「シャナリーゼ様にご協力が不可能であるならば、お側にいらっしゃるエシャル嬢をお使いになられたら、と思います」

「シャーリーをダシに使えと言うのか」

「エシャル様もサイラス様の婚約者候補として名が挙がっておりましたから、十分あちらの動揺を引き出せるかと」

「アレにそんな演技ができるかどうか」

 妥協案として受け入れたのか、サイラスはため息をつく。

「ビルビート家のご令嬢を、他の令嬢とご一緒になさってはいけません」

「……そうだな」

 渋々ながらサイラスは考えてくれるようだ、とベラートはひとまず安心する。


 が。


 聞きたいのはこれからだ。

 いや、聞けるかどうかもわからない。

 まず自分がさっきの光景に納得していない。


 サイラス様、さっき頭下げていませんでしたか?


 サラッと明日の天気を聞くくらいに言えたらいいのだろうが、エージュでなければ聞けまい、とベラートは今この場にエージュがいたらと強く思った。

 悶々としている間に、サイラスは時間が経っているのが気になったらしい。

「おい、話は終わりか? いつまでもシャーリーを一人にしてはおけない」

「エージュが控えております」

「それも嫌だ」

「は?」

 今度こそベラートは目が点になった。


 これは――アレか!? ウィコット事件と同じだろうか? いや、わたしはウィコット事件のことは聞いただけで、エージュのようにその場で見ていたわけではないが……。


 王妃様が原因で何かに『プッツン』され、ウィコットを溺愛するようになった事件。

 それ以来、ウィコットの保護と罰則は飛躍的に進んでおり、今現在も密猟者が出たと聞けば一目散に飛び出していく。

 そんな一面をかわいく思っていたのだが、それが『人』に向けられたことはなかった。


「戻るぞ」


 隣室だと言うのに、そわそわと立ち上がって急ぐサイラス。

 そんな彼の後を追いながら、ベラートは思った。



 王妃様に続く『爆弾』を見つけてしまった――! と。


 王家に深く仕える一族として、あらゆる情報が裏で飛び交っている。

その中に、あのご令嬢の名前もきっちりと上がっている。

きっとシャナリーゼ様はご存じないだろう。


王妃様、皇太子殿下、アシャン姫、そしてサイラス様の四人の交友関係重要人物としてマークされていることを……。

サイラス様のコレが知れ渡れば、きっとシャナリーゼ様の重要人物としてのランクは上がる。サイラス様に至っては最上位に君臨するだろう。

いや、だからこそ中途半端な報告は避けるべきだ。今は様子を見よう。


報告のタイミングはベラートに一任されている。彼は様子を見ることにした。


その後、様々なことがあって――ようやく自室に戻ったベラートは、着替えを持ってきた妻のナリーに弱弱しくつぶやく。


「今日、わたしは十年分の寿命が縮んだよ……」

「?」


何言っているの? とナリーは目を瞬かせる。

あんた殺したって死にそうにないくせに、と言いたかったがやめておき、それよりも、と客人女性のことを考えて笑みが浮かびそうになるのを堪える。


楽しみだわ、ふふふ。


 妻が素知らぬ顔でほくそ笑んでいることすら気づかず、ベラートは『爆弾』となってしまったシャナリーゼに振り回されるようになるのだ。



読んでいただきありがとうございます。


シャナリーゼはどこに行っても遠慮しません。

ナリーが悪乗りするかもしれませんねぇ。

そんなこんなで、マディウスへの報告が後手になるベラートでした♪



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