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勘違いなさらないでっ! 【48話後半】

少し投稿遅れました。

後半です。

「さて、もうひと頑張りしてくるか」

 やれやれといった感じで重い腰を上げ、サイラスは自分の足で立って、歩いて車椅子に座る。

 その様子を呆れて目を細めて見ているわたくしに、サイラスも口を曲げてふてくされたように言う。

「仕方ないだろう。お前もよぉーく知っている、マディウス兄上の命令でもあるんだ。アドニス兄上の提案に同意して、とりあえず人前に出る時は怪我したふりをしていろ、とな」

「……だからって、我が家でもふりをしていることはないと思うのだけど」

 誰に言われたわけではないが、我が家の家令やメイド達があれこれ心配して、目が届く範囲で常に影から見守っている。それを思うと余計な仕事を増やさないで、と言いたい。

 だがマディウス皇太子殿下の命令だとすると――。

「与えられた『仕事』が終わるまで気を抜くな、だそうだ」

 はぁっとため息をつきながらサイラスが言った言葉は、今わたくしが考えていたことと同じだった。


 ああ、あの魔王様なら言いそうだわ。身内にも容赦なさそうだし。と、なると、アドニス様が急に来られなくなったというのは建て前で、サイラスが怪我した情報をちょうどいいからと利用した可能性が高い。

 いやだわぁ~。イズーリ王家、怖い。


「……憐れんだ目で俺を見るな」

「あらいやだ、無意識に」

「……」

 何とも言えない表情をした後、サイラスは誰もいない方向に顔を向けて小さく舌打ちしていた。

「ふふふ、猫かぶりの演技を頑張ってね。いってらっしゃい」

 長椅子にゆったりと座りながら、わたくしは一足先に解放された笑みで見送る。

「馬車の手配をさせる。大人しく待っていろ」

「ええ。馬車は待つけど、あなたは待たないわよ」

「薄情な奴だな。まあ、いい。付き合わせて悪かったな、帰ってゆっくり休めよ」

「!」

 思いもよらないサイラスのお礼の言葉に驚くわたくしを残し、サイラスはまた仕事用の顔になって部屋を出て行った。


 誰もいなくなった部屋で、わたくしはしばらく黙った後ぽつりとつぶやいた。

「……絶対に何か()るわ」


 人間柄にもないことをすると、とんでもないことが起きるものよ。

 これから何が起きようと、それは絶対にサイラスがらみに違いない。

「……」 

 そっとわたくしは自分を抱きしめるように両腕を回し、そのまま馬車の用意ができたと連絡がくるまでじっとしていた。


 まったく、これ以上巻き込まないでほしいわ!!


★★★


 ジロンド家に帰ると、出迎えた執事のディストールやアンが目を丸くして驚いたあと、急にオロオロし出した。

 わたくし一人で帰ってきたものだから、サイラスと派手なケンカでもしたのではないかと思ったらしい。

 派手かどうかはわからないけど、ケンカなんて日常茶飯事じゃない。

 まあ、夜会の帰りにしては確かに早い帰宅だけど。

「疲れたの。ゆっくり休みたいわ」

 そう言って自分の部屋へと歩き出すと、アンはすぐに他のメイドに何かをいいつけてついて来た。

 部屋に向かって歩きながら、後ろをついてくるアンに尋ねる。

「そういえば、プッチィ達は?」

「少し前に様子を見に行きましたら、二匹とも寝ておりました」

「そう」

 少しがっかりしつつ、明日しっかり遊んであげようと部屋に戻った。


 久々の夜会で無意識のうちに緊張でもしたのかしら。わたくしはベッドに入るとすぐに眠ってしまったみたい。

 夜半過ぎに興奮したままのティナリアを連れて両親は帰宅し、ディストールから話を聞いてわたくしの部屋へ様子を見に来たらしい。

だけど、ぐっすり眠った姿を見てお互い微笑んでドアを閉めてしまったそう。

いくつになっても、親は子どもの寝顔を見ると安心するのです、とディストールが言ったのだけど。でも、わたくしとしては二十歳にもなって寝顔を見られるなんて、ちょっと恥ずかしかったわ。

 翌朝、そう口を尖らせて言うわたくしを見て、ディストールが目じりを下げて微笑んだ。 


★★★


 夜会の次の日はゆっくり過ごす。

 わたくしは早めに帰宅したから、いつも通りに過ごしており、軽めの朝食を一人でとったあとはプッチィ達と遊んでいた。

 ころん、と仰向けに寝転がったプッチィのお腹を右手でなでまわすと、気持ちよさそうに目を閉じて「みうぅぅぅ……」と小さく息を吐くように鳴く。

 クロヨンはあまり仰向けになるのが好きじゃないらしく、横向きになってわたくしの左手を両手で抱きしめている。


 本っっ当に、か・わ・い・過・ぎ!!


 この子達が毛皮目的で乱獲されていたなんて、聞いただけでゾッとするわ。

 今は厳しくなって保護されているけど、そのせいでウィコットの毛皮が高騰しているらしい。

 ふと思い出したのは、あの侯爵家のお嬢様のこと。目を輝かせていたけど、確かにこのかわいさを知ったら希少価値以上に欲しがる気持ちはよくわかる。

 だからといって譲らないけど。

 公爵家の圧力をかけても、この子達には(いちおう)イズーリ王子のサイラスがついているもの。下手に手出しはできないはず。

 でも「見せて」と言われたらご招待しないわけにはいかないし、お見せして強請られても面倒だし――やっぱり見せないのが一番無難よね。父やお兄様経由でお話がきたら考え物だけど。

「はぁっ」


 高価な贈り物って本当に大変だわ。

 まあ、プッチィ達はかわいいから苦労も惜しまないけど!


「どうかなさいましたか?」

 おもいっきりため息をついたわたくしに、アンが心配そうに尋ねてくる。

 夜会の次の日にため息をつくなんて、今までの経験上あまりよくないことだと知っているからだ。

「なんでもないわ。サイラスの介護で疲れただけよ。女性に車椅子を押させるなんて、本当にあの人は何を考えているのかしらね。背後は信頼ある者にしかつかせない、なんてもっともらしいこと言っていたけど。だいたい車椅子に乗ること自体が大げさな演出だっていうのに」

「え、そうなのですか!?」

「そうよ。みーんな、サイラスの演技に騙されているのよ。別にサイラスの演技が上手いわけじゃないけど」

「……そうなのですかぁ」

「そうよ。だから、あれこれ物陰から気を使って見守らなくても大丈夫よ」

「……お気づきだったのですね、お嬢様」

 言いにくそうなアンに「もちろんよ」とうなずく。

 あいまいに笑ってごまかしたアンを見て、あんなにわかりやすい見守り方も珍しいわよと言うのはやめておいた。

一生懸命やっていたと思うが、朝磨いた窓を昼も磨くメイドがいたら、さすがに気がつかないわけにはいかない。一度ディストールと話そうかと思っていたくらいよ。

こんなにわかりやすくていいの? と、ね。


 久々にゆっくりとプッチィ達と遊んでから部屋を出ると、良いか悪いかわからないタイミングでエージュがやってきた。

「シャナリーゼ様、お時間はございますか?」

 いつもの人のいい笑みを浮かべ、YESとしか言えない質問をする。

「……あるわ。どうせサイラスの呼び出しでしょ?」

「はい」

 悪びれもせずにっこりうなずくエージュを尻目に、わたくしは軽くため息をつく。

「ゆっくり寝ていればいいのに」

永久に、とは言わないけど、熱でも出して寝込んでくれないかしら。あ、そうなると滞在が長引くわね。

「シャナリーゼ様、サイラス様はめったに熱も出さなければ風邪もひきませんので」

「ひ、人の心を読まな……」

 ハッとして口を手で覆い、あわてて目をそらす。

 ニコニコしたままのエージュが恨めしいけど、何も言わずにわたくしは歩き出した。

「お、お嬢様、お着替えを!」

「必要ないわ」

 そうでしょう、とエージュを振り返ると、案の定

「はい。そのままで結構でございます」

と、笑顔の返事が返ってきた。


 そしてサイラスの滞在している部屋に行くと、長椅子に座るサイラスと、テーブルを挟んで座るアシャン様。そしてその後ろに控えるナリアネスがいた。

 すっかり演技を止めたらしいサイラスは、今日は堂々と足を組んでいる。

 わたくしはアンを後ろに連れたまま、サイラスとドアの中間辺りで足を止めた。

「よぉ、ゆっくり眠れたか?」

「誰かさんが心労をたっぷりかけてくれたおかげで、ぐっすりだったわ」

 フンッと腕組みして身構えていると、サイラスは「そうか」と軽く笑って、まったく違う話題をいきなり切り出した。


「牧場デートをしよう」

「は?」


 ――なぜそういう話になるのかしら?


読んでいただいてありがとございます。


アリアンローズ様のHPにて、③巻の詳細が出ております。

ええ、帯に「キス」とありますね。

そうですよ、やはり恋愛ジャンルには「キス」って表現が大事!!

やっと、やっと書籍版とはいえ、この【勘違いなさらないでっ!】にも久々にその表現がでるのですよ!!

 そんな貴重(大笑)な「キス」の表現が出る【勘違いなさらないでっ!】③巻は、今週(9/12)土曜日の発売ですっ!!


 どうぞよろしくお願いいたします。


 さ、また今週中に更新するぞ! がんばります~!!


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