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特別小話~どういうことよっ!~4/5話

全4話→全5話に変更。

宣言通り出来なくて、ごめんなさい。

次回1/11絶対完結します。

 いつもの緑と黄色のドレスを着た侍女二人に、数人の護衛騎士を連れて立つ王妃様。

腰を折る執事と家令、そしてエージュの三人を威厳たっぷりに見下ろしていた。

「親が息子を訪ねるのに理由がいるとでも?」

 ご機嫌が悪いのか、声に棘がある。

「いえ。失礼いたしました」

 黒ひげが特徴の壮年の家令がお詫びし、三人がまたそろって頭を下げる。

 わたくしは再びこっそりと、先程よりも慎重に下をうかがう。

 確かに親としては当然の理由だけど、王妃様は『母親』より『王妃』業を優先させる方のはず。そんな方が先振れもなしに突然やってくるなんて、よっぽどのことがあったんだわ。

 ……サイラスったら、二十歳過ぎて何やらかしたのかしら。

 玄関ホールのピリピリとした雰囲気に、わたくしもまるで自分が怒られているかのように身を小さくする。

「サイラスの戻りはいつなの、エージュ」

「二時、となっております。現在メルアド地区の……」

「ああ、いいわ」

 帰宅時間がわかればいい、と王妃様は黙らせる。

「三時間は時間があるわね。それだけあれば十分」

 ね? と同意を求めるように背後に立つ侍女二人を振り向くと、彼女たちもしっかりとうなずく。

 顔色を変えない三人に、再び王妃様は鋭い視線を向けた。

「出しなさい――サイラスの隠し子を!」

 ビシッと持っていた扇でエージュをさす。

 

 か、隠し子ですってぇええええええ!?


 とんでもない力が腕に込められ、抱いていたウサギのヌイグルミの首がねじ切れそうになる。

 今のわたくしは小さいとはいえ、なかなかの力だわ。

 サイラスが帰ってきたら、王妃様より先にその顔ひっぱたいて出て行ってやる! 

 ウサギのヌイグルミが気の毒なほど形を変えている頃、玄関ホールは沈黙に包まれていた。

 扇で指名されたエージュは、いつもと変わらない様子で静かにこたえる。

「王妃様。サイラス様にお子様をいらっしゃいません」

「あらそう。でも最近、幼い子供の服を買っているそうね。最初は既製品。急に必要なことでもあったのかしら」

 それを聞いて、わたくしの体がビクッと震えた。


 ……それってわたくしのことかしら。え? 隠し子ってわたくしのこと!?


 パッと手の力を緩めたせいで、ウサギのヌイグルミが危機を脱する。

 顔色を変えない三人を。王妃様はじっくりと一人ずつ目に止める。

「砂糖の消費量も減っているそうね」


 そんなことまで知っているんですか、王妃様!

 この家、全然安全じゃないわ! むしろいろんな意味で危険!! 監視されまくりじゃないの。サイラスのこと信用してないってことかしら……。


 王妃様がわたくしのことを探しに来た、とわかってさっきから震えが止まらない。

 本能的に逃げなきゃ、と思ってしゃがんだ姿勢から四つん這いになって後ろに下がり、そぉっと立ち上がってゆっくりと足音を殺しながら離れる。


「鬼ごっことかくれんぼは大得意なの! 息子達を泣かせた手腕を見せてあげるわっ!!」


 玄関ホールに響いた王妃様の宣言に、わたくしは一目散に駆けだした。


 息子達を泣かせたって――どういうことよっ!


。・☆。・☆。・☆。・☆。・☆


 ――――。

 暗闇の中、ドキドキが止まらないわ。

 虫除けのハーブの香りが漂う真っ暗なクローゼットの中で、わたくしはウサギのヌイグルミをぎゅっと抱きしめて身を縮めている。

「…………」

 柔らかいウサギのヌイグルミの感触が、ほんのわずかわたくしに安心感を与えてくれる。

 この大きなウサギのヌイグルミは逃げるのに邪魔だから、本当は途中で手放そうと思ったのだけど、そうしなくてよかったわ。まあ、早々に放り出しても良かったんだけど、子どもがいるって証拠になるなって思ってやめたの。

 でも、ここに隠れる前のとある部屋の寝台の下で、廊下から聞こえた声でその考えも浅はかだってわかった。


『お部屋を発見しました!』

『やっぱり!』

 侍女のどちらかの声に、王妃様は俄然張り切った声を出す。

『思ったより大きい子ね。三才くらいかと思ったけど……このくらいの年なら、思わぬところに隠れていてもおかしくないわね。たとえば寝台の下、とか』

 ……王妃様の推理に、ビクッと震えたわ。

『王妃様、こちらを』

 別の侍女がまた何かを見つけたみたい。

『母親まで滞在しているなんて情報なかったわ! 予想外だわ』

 いやああああ! わたくしのトランクが発見されたみたい。

 わたくしは震える足に力を込めて動かし、そっと寝台の下から出る。開けられたカーテンが束ねられた裏にもぐり、ウサギのヌイグルミの耳を口にくわえて、両手を使って上へのぼる。

 昔こうやって隠れたわ、と思い出しつつじっと息を潜めていると、程なくして侍女と王妃様の探索が開始されたが、見つかることなくやり過ごした。

 だが、ここに長くはいられない。腕も疲れるし。

『その部屋には一人残りなさい』

 わたくしの使っている部屋に侍女を残し、王妃様は別の場所を探しに行った。


 そんな部屋の隣に潜むのは、正直怖すぎる。

 だから勇気を出して、わたくしはまた場所を変えて隠れることにした。途中、エージュに見つかり、泣きそうになったけど、彼はすぐ隠れる場所を教えてくれた。この――サイラスの部屋を。

 機密文書がどうとかって話もあったけど、そんなことかまっていられないわ。

 サイラスの部屋の、しかも寝室に入りこむ。寝台と添えつけのクローゼットと、サイドテーブルの上には数冊の本と書類があったけど、別におかしいところは何もない。

 寝台に潜り込むのは……嫌だったので、クローゼットを開けた。

 衣装が並んだ先には奥行きがあり、さすがに息子の部屋をあちこち開けないだろうと思って中に入って息を潜めた。

 ――そして冒頭に戻る。

 さっさとサイラスが帰ってこないかしら、といつもなら考えられないことを祈って膝を抱えてウサギのヌイグルミを抱いていた。

 カチャ。

「!」

 ドアノブの音がして、ビクッと体が震える。

「ここは大丈夫そうねぇ。鍵もかかっていたし。その鍵はあなただけが持っているの?」

「はい。今朝、サイラス様からお預かりしました」

 鍵なんてかかってなかったわ……つまり、エージュがあとからかけてくれたのかしら?

「……まあ、いいわ」

 衣擦れの音がして、寝室を出る気配がする。

 ホッとした時、なぜか「えっ」というエージュの声がして、「失礼」という侍女の声がした。

「?」

 その瞬間、わたくしは間違いなく気が緩んでいた。

 だから、素早く開けられたクローゼットの扉の音に反応できず、突然目の前に現れた白い右手に驚いて声をなくした。

「みぃ~つけた」

「!!」

 衣装の隙間から、王妃様の笑った唇だけが見えて、わたくしは恐怖でぷっつんと何かが切れたらしい。

「いやぁあああああ!!」

 叫ぶと同時に、持っていたウサギのヌイグルミを王妃様めがけて投げつける。

 反射的に受け止めた王妃様の横をすり抜け、これまたなぜか侍女に抱き着かれているエージュのいるドアへと走る。

 驚いている二人とドアの隙間は狭かったが、わたくしはかまわず体当たりして強引に通ろうとした。

「つかまえた!」

「きゃあ!」

 なんと、後ろから王妃様が抱きしめるように飛びついてきた!

 ペシャッと床に倒されるけど、王妃様がぎゅっと抱きしめていたから痛くもなんともない。


 ――こうして、わたくしは捕まった。


。・☆。・☆。・☆。・☆。・☆


 捕まったわたくしは、じっくり、それは穴が開くほど観察された。

 王妃様に両腕を握られ、わたくしはおとなしくうつむく。

「……なぜかしら。シャーリーちゃんにそっくり」

「ご本人です、王妃様」

「え?」

 エージュが観念したように事情を話す。

「シャナリーゼ様は、お父上の商談の都合でイズーリにいらしたそうです」

「知っているわ。プレイジ辺境伯のところにでしょう? で、確かお酒の勢いでシャーリーちゃんを置いて行ったのよね」


 ええっ!? それは知らなかったわ! てっきり、商談に盛り上がってのことだと思ったのに、お酒ですって!? どういうことよっ、お父様!!


 父の愚行に唖然となるわたくしの前で、王妃様がころころと笑う。

「プレイジ辺境伯にはわたくしがシャーリーちゃんを保護するからって伝えて、お屋敷に泊めないように言ったの。すぐ使いを出したのに、あなたに巻かれてしまって。まあ、どうせサイラスの所だろうと思ったら、子どもがいるって報告があって驚いたわ」

「偶然居合わせたものですから、王妃様の使いの方とは知らず失礼いたしました」

 頭を下げるエージュだが、どうせ知っていたに違いない。

 王妃様も別に咎めるつもりはないらしく、再びわたくしへ目線を戻す。

「で? どうしてお子様なのかしら」

「シャナリーゼ様は『聖夜の祝福』をお受けになったようです」

「まあ!」

 パッと王妃様の目が輝く。

 と、いうか『聖夜の祝福』って何? わたくしがこうなった関連話、一つも聞いてないわよ!!

 黙っているわたくしの顔を見て、王妃様が微笑む。

「聖夜っていうのは、夜空にたくさんの流れ星が現れる夜のことよ。その夜に『サンタクロース』という妖精が現れて、楽しいイタズラをするの。それが『聖夜の祝福』。それを受けた人は幸せになれるって言われているわ」


 タクロースが妖精!? おじいさんの妖精なんて初めて聞いたわ! しかもサンタクロース……名前間違ってるじゃない。サイラスが笑っていたのはそのせいね。

 ちなみに楽しいイタズラって言いますけど、わたくし全然楽しくありません。むしろ不幸です。


「ふふふ。いーわぁ。このまま連れ帰っちゃいましょうか」

 つんつんとわたくしの頬をつつき、王妃様が楽しげに抱き上げる。


 どこへって王城ですよね!? と、いうことは、あのお試し好きの腹黒皇太子様もいらっしゃいますよね!?

 断・固・お・こ・と・わ・り・で・す!


「あの、歩けます!」

 そうして下ろしてもらったら、すぐ逃げます。

「あらあ、ダメよ。下ろしたら逃げちゃいそうだもの」

「!」

「ふふふ。本当に子どもなのね。すぐ顔に出ちゃって。さっきもカーテンの上にのぼっていたでしょ?」

「!!」

「二度三度見逃してから捕まえる、というのがかくれんぼの楽しさの秘訣よぉ」

 ネチネチと追いつめる、の間違いではないでしょうか!?

 王妃様に抱かれ、肩ごしにエージュを見れば小さくうなずいて、懐中時計を取り出して時間を確認する。

「王妃様、そろそろサイラス様がお戻りになるころです」

「あら、じゃあ早く逃げなきゃ」

 わざとらしく驚いたふりをして、王妃様が歩き出す。

「王妃様」

「サイラスによろしく、ね」

 王妃様に続こうとしたエージュの前に、さっき抱きついていた侍女が割り込んで道を塞ぐ。どうやら先ほども邪魔をしたらしい。

「今日しか遊べないのね。残念だわ」

「え?」

 歩みを止めることなく、王妃様が教えてくれる。

「『聖夜の祝福』の効果は七日。明日の朝には消えてしまうのよ」

 残念そうにその後も「もっと早く来れば良かった」と言う王妃様の腕の中で、わたくしはグッと小さな手を握りしめる。

 

 明日には戻れるのだわ!

 

 嬉しくて周りを見ていなかったら、あっという間に玄関ホールに来ていた。

「あの、わたくしここに」

「あら、サイラス」

 王妃様の歩みが止まる。

 目線を王妃様から前に向けると、いつもより厳しい目をしたサイラスが黒い外套(コート)を羽織ったまま腕を組んで仁王立ちしていた。ただ、その足元にある大きな赤い包装箱は何かしら……。

「母上」

 不機嫌そのものの声に、わたくしは反射的にビクッと震える。

 それを感じ取って、王妃様がわたくしの頭を優しくなでる。

「大丈夫よ、シャーリーちゃん。――サイラス、怖がらせないでちょうだい」

「勝手にどこへ連れて行く気です」

「あら。最後の一日くらいおもてなししたいと思ってるだけよ」

「シャーリーを玩具にしないでください」

「なによ。あなただって、あれこれ買い与えて楽しんでるじゃない。わたくしだってしてあげたいことがあるんです」

「そんな暇はありませんよ」

 そう言ってサイラスは懐から一通の手紙を出すと、そのまま王妃様に突きつけた。

 ムッと口を曲げたままの王妃様の横に侍女二人が追いつき、エージュもウサギのヌイグルミを持って(どうして持ってきたの?)かけつける。

 緑色のドレスの侍女にわたくしを預け、王妃様がサイラスから手紙を受け取る。

 不躾ながら、そっと中身をのぞいてみると、そこには短い文が書かれていた。


“帰ってきて”


 …………イズーリ国王陛下だろう。ええ、間違いないわ。

 手紙を読んだ王妃様は、仕方なさそうにため息をつく。

「しょうがないわね。今回は諦めるわ」

 名残惜しそうにわたくしの頬を撫でて、エージュに目で合図する。

 侍女からわたくしを抱っこしたまま譲り受けると、持ってきたウサギのヌイグルミをわたくしのお腹の上に乗せる。

 ぎゅっと握りしめてホッとしていると、王妃様がうるうるした目でわたくしを見ていた。

「悔しいわっ! こんなチャンスを逃さなきゃならないなんて!」

「母上、父上がお待ちです。お早くお帰り下さい」

「はっ! さてはあなたが仕組んだわね!? この手紙、タイミングが良すぎるわ」

「城からの使いが来たので、父上に会いに寄っただけです」

「もう! せっかく陛下には内緒にしておいたのに!!」

「父上に隠し通せるわけないでしょう。さ、お帰り下さい。さようなら」

 さっさと王妃様の背中を押して追い出すと、サイラスは自分で玄関の扉を閉めて深く息を吐く。

「……疲れた」

「お疲れ様でございました」

「お前は早くシャーリーを下ろせ」

「ああ、そうでした」

 悪びれることなく、エージュは片膝を付いてわたくしを下ろしてくれた。

 わたくしはキッとサイラスを見上げて、つかつかと歩み寄る。

「ちょっと! あなたわたくしが子どもになったことに、心当たりがあったんじゃない!? 黙っているなんて卑怯よ!」

 いきなり怒鳴られたサイラスはちょっと考えて、目をそらして「ああ」と思い出す。

「『聖夜の祝福』か」

「知ってたなら教えなさいよ!」

「タクロースは知らん。イズーリの有名な妖精は『サンタクロース』だ」

「ライルラドにはいないんだから、聞き間違ったってしかたないじゃない!」

 ぼすぼすとウサギのヌイグルミを振り回して、サイラスの足に当ててやる。

「悪い、悪かった。だが、イタズラをとく方法は本当に知らないんだ。七日経ったら解けるらしいが、言っても言わなくても時間は変わらないだろう?」

「知ってるのとそうでないとじゃ、全然違うわよ!!」

 どれだけわたくしが、自分のこれからについて悩んだかわかってないのね。

 より一層ウサギのヌイグルミを振り回して攻撃してくるわたくしを止めるべく、片膝を付いて抱きしめる。

「すまん、俺が悪かった」

 少し硬い手でわたくしの頭を撫でる。

 ウサギのヌイグルミを右手に掴んだまま、わたくしは頬を膨らませてそっぽを向く。

「……当然ですわ」

 よしよし、とばかりに何度が頭を撫でられ、ようやくわたくしは我に返る。

 ハッとしてサイラスの腕から逃げ出し、キッと睨む。

「こ、子ども扱いしないでっ!」

 真っ赤な顔をして怒鳴ると、ふと先ほども見た赤い包装箱が目に入った。

 そんなわたくしの視線に気づき、サイラスが箱を持って立ち上がる。

「ちょっと来い。お前に買ってきた」

「いらないわよ」

「そうか? 外を見たらきっと欲しがるぞ」

「外?」

 一階のどこかへ歩き始めるサイラスの背中を見ていたら、エージュが隣に立って無言で催促してきたのでついて行く。

 サイラスが入ったのは、庭が見渡せるテラス付きの広い部屋だった。

「わあ」

 庭が一面白い雪で覆われている。

「昨夜から降っていたが、イズーリでこれだけ雪が降るのは珍しい」

「すごいわ」

 おもわず窓際に駆け寄る。

「しかもこの雪、この辺りだけ降ったみたいだぞ」

「そんなことが……もしや、この雪も『聖夜の祝福』でしょうか」

「聖夜からずいぶん時間が経ってる。たぶん偶然さ」

「そうでしょうか」

 どこか納得できていないエージュをよそに、サイラスは満足そうにわたくしを見ていたらしい。わたくしったら、窓の外の雪に夢中でちっとも気が付かなかった。

「そこで、これだ」

 言われて振り返ると、サイラスがテーブルの上に包装箱を置いた。

「開けて見ろ」

「……ええ」

 何かしら、とウサギのヌイグルミを長椅子に置き、包装箱を開けてみる。

「まあ」

 中に入っていたのは、白い毛のふわふわコートにケープ。そして手袋に帽子とブーツ。どれも手触りが良くて、気持ちいい。

「それをきれば外に行けるだろう」

「そうね!」

 雪を見てこんなに興奮するなんて、思いもよらなかったわ。きっと体が子どもなせいね。

 それにこのシンプルだけど、丸みを帯びたコートにケープ一式は、本当にかわいらしいわ。さりげなくついているボンボンもかわいい。

 急いでコートとケープを羽織る。ブーツに履き替え、そして帽子を取り出してふと手を止める。

「なにコレ」

 さっきは気が付かなかったけど、白いふわふわ帽子にはネコミミが付いている。――しかも触ると柔らかな毛の下に硬い感触が……。

「お、気が付いたか」

 にやりと意地悪い笑みを浮かべつつ、サイラスは嬉しそうに言う。

「発注をかけてすぐ思いついたんだ。すぐさま手配して、薄い鉄板を耳に入れさせた」

「……へえ」

 わたくしは無表情のまま、その鉄板ネコミミ帽子をかぶる。

「子どもの武器なんて頭突きじゃないか。な? それピッタリだろ」

 どーだ、と自慢げなアホで変態で最低腹黒ロリコン疑惑王子に狙いを定め、わたくしは言われた通りに試すことにした。

「お待ち、サイラス! 突き刺してやるわ!!」

「恐ろしいことをいうなよ」

 笑いながらサイラスは部屋を逃げ回り、とうとう窓を開けてテラスへ出る。

 わたくしも追いかけてそのままテラスへ出ると、今度は前から雪の塊が投げられた。

「きゃあ!」

「ははは!」

 皮の手袋を装着し、サイラスがまた雪玉を作る。

 わたくしも急いで足元の雪を丸めて、おもいっきり投げる。

 が、――全っ然とどかない!

 その間にも、サイラスから雪玉が投げつけられる。

「きぃいい! 絶対許さないんだから!!」

「ははは! まだまだ行くぞ」

 ムカッとしたわたくしは、足元の雪を救い上げて大きな雪玉を作る。

 走って近づいて投げつけてやる! と思ったのだけど、雪に足が取られてうまく走れない。歩くのさえ遅い。

「それ」

 またしても投げられる雪玉に、わたくしは目をつぶる。

 ――だけど、雪玉はこなかった。

 そっと目を開けると、エージュがわたくしの横にいた。

「子ども相手に大人げないですよ、サイラス様。あ、シャナリーゼ様、手袋をお忘れです」

「あ、ありがとう」

 手袋を受け取り、もう一度雪玉を作る。

「加勢いたしますよ、シャナリーゼ様」

「あら、ありがとう。お願いするわ」

 白い薄手の手袋のまま、雪玉を作り始めるエージュ。もちろん、服も執事服のまま。

「寒くないの?」

「大丈夫です。身軽な方が勝てますよ」

 そう言って笑った顔が、なぜかサイラスと同じ黒い笑顔だった。

「行くわよ、エージュ」

「はい」

 かまえるわたくし達に、サイラスが片手に何個も雪玉をかけて迎え撃つ。

「本気で行くぞ!」

「どうぞ」

「負けないんだから!」

 

 それからは、もう何が何だかわらかないくらいに雪玉が乱れ飛んだ。


読んでいただきありがとうございます。

次回1/11:0時予約済みです。

よろしくお願いいたします。

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