特別小話~どういうことよっ!~3/5話
トラブルがあって、更新時間がずれました。
ちょっと付け足しました。
ロリコン疑惑……サイラスは小話になるとイメージが崩壊する……。
「いやぁああああ! ロリコン、変態、最低王子っ!!」
気が付いたら大声で叫んでいた。
わたくしのロリコンのトラウマを忘れたとは言わせないわ。
真っ赤な顔をして怒鳴るわたくしを、サイラスは笑いながらあやすように軽く上下に揺らして落ち着かせようとする。
「落ち着け、ちょっと話を聞くだけだ。俺も着替えたいし、お前が逃げないように目の届くところに置いておこうと思っただけだよ。あと、俺はロリコンじゃない」
「変態と最低は認めるのね!?」
「認めてたまるかっ!」
「まあまあ、落ち着いてください」
腕に抱かれたまま興奮しているわたくし側に立ち、エージュがサイラスを厳しく見つめる。
「サイラス様、今の状況は『幼女を連れ込む不審者』です」
「不審って、こいつはシャーリーだろうが」
「見た目は幼いお子様です。それに、短い間ですがご様子を見ていたところ、大人のシャナリーゼ様というより、子どもらしい感情が強いように思われます」
「つまり、性格もある程度子ども化しているってことか」
「おそらく」
お互いうなずいてわたくしを見る。
確かに……昨日までのわたくしとは違った心境がないわけじゃない。さっきのエージュの件だって、ほっとけるはずだし、まずノックの音にこの状況で相手を確認せず嬉しくて声が出るなんてありえない。
じっと口をつぐんで目線を下げつつ睨むわたくしを見て、サイラスが首を傾げる。
「お前、昔っから気が強かったのか」
「何ですって!?」
「確かに俺の目を見ないな」
「!」
……気づかれたわ。
今まで特に「目つきが悪い」くらいにしか思わなかったけど、さっきから目を合わせるのがちょっと怖い。子どもから見れば、本当にこの人の目つきって怖いのね。
「子どもはチョロチョロして、目を離すとあっという間にいなくなるからな。それにまた部屋に閉じこもられたんじゃ、話もできない」
「しかしサイラス様。子どもは探索好きでもあります。重要書類や機密書類、それに『大人の』機密書類を見つけられたらどうしますか」
「お前……」
しれっと真顔で妙なことを心配するエージュに、サイラスは呆れた目をして頬が引きつっていたが、わたくしはもっと呆れた目をしてサイラスを見た。
「……オーソドックスに、寝台の下とか隠してるんじゃないわよね」
「妙な検索をするな!」
図星かしら、とわたくしは顔をそらして「はあっ」とため息をつく。
「と、いうわけでシャナリーゼ様はこちらに」
ひょいっと、今度はエージュに取り上げられる。
「あ」
「あ、ではありません。サイラス様は早く着替えて、お部屋でお待ちください。シャナリーゼ様には、既製品ですがお洋服をご用意しました。これから着替えていただきます」
着替え、と言われて自分の今の格好を思い出す。
「すぐ着替えるわ!」
「では」
「……ちゃんと連れてこいよ」
「はい。ご心配なく」
渋々承知したサイラスを置いて、わたくしはエージュに抱かれたままさっきの部屋へと戻った。
。・☆。・☆。・☆。・☆
着替えた後連れてこられたサイラスの部屋の応接間で、わたくしは恥ずかしくてずっとうつむいている。
「似合うじゃないか」
「……」
そう褒めてくれるが、わたくしはじっとしている。
エージュが用意してくれたのは、淡いピンク色のドレスで、ふんわりとしたスカート部分にはリボンとレースがたっぷり使ってあり、袖にも小さなリボンがいくつもついている。用意された白い靴も、レース靴下も、小さな帽子のような髪飾りも真っ白で、リボンがついているかわいらしいものだ。
こういうドレスを着るのは好きだったけど、ティナリアが着るようになってからずっとさけていた。だから、わたくしが自分で着た記憶もほとんど覚えていない。
今は、とにかく恥ずかしい! それだけよ。
用意された紅茶を一口飲んで、サイラスがまだこっちを見ているのに気が付く。
「……いい加減見るのはやめて」
「いいじゃないか、減るもんじゃあるまいし」
減るわ、わたくしの精神が……。ガリガリ削られていく。
テーブルの上にはサイラスのための軽食なのか、サンドウィッチやカットフルーツ、クッキーや数種類のケーキが並んでいる。
「食べなさいよ。好きなんでしょ、糖分」
「そうだなぁ。まあ、今はいらんかな」
そういってサンドウィッチだけ食べる。
いまさらなんだし、ケーキでもなんでも食べればいいのに。
「とりあえず、その……タクロース、だったか? そいつにもらった瓶を探すのが先だな」
「では、もう一度探してまいります」
控えていたエージュが、わたくしのそばに片膝を付いてしゃがむ。
「シャナリーゼ様、お部屋に入る許可をいただけないでしょうか?」
「それはいいけど……」
言いかけて、サイラスにチラッと目線を送る。
ああ、とエージュもわたくしが言わんとしていることに気が付く。
「大丈夫でございます。サイラス様はロリコンではありません。先程は誤解を招く発言をされましたが、言葉が足りなかっただけでございます」
「……そうかしら?」
疑いの目を向けると、口を曲げてサイラスが目を細める
「今は家人が少ない時期だ。他の奴らに任せられないんだから、しかたないだろう。それから、俺は幼女に興味はない」
「……疑惑は残るけど仕方ないわね。エージュお願いね」
「かしこまりました」
「おい。エージュと俺との態度があからさまじゃないか」
「疑惑が残るって言ったでしょう」
ふんっと思いっきり顔をそらせてやる。
「あのなあ」
呆れたサイラスの声がしたが、エージュが「失礼いたします」と出て行ったので会話が途切れる。
シンとした室内で、じっと座り続ける。
サイラスはいくつかテーブルの上の物を食べ、ふと思い出したかのように立ち上がる。
ピクッと反応してわたくしが顔を上げると、サイラスもわたくしを見ていた。
「書くものを取りに行くだけだ。お前に必要なものをそろえないといけないだろう」
「必要なもの?」
「お前のことはひとまず箝口令を出す。元に戻るまでここにいた方が安全だし、またその……タクロースが現れるかもしれないだろう?」
「……そうね」
「くっ」
なぜか笑いを堪えるサイラス。
さっきも「タクロース」というたびに笑いそうなのを堪えているみたいだけど、一体なんなのかしら。
結局その日、小瓶は見つからなかった。
お昼過ぎに、サイラスが包装箱を持ってわたくしの部屋に来た。
渡された包装箱の中身は、洋服など生活用品の一式。全部信頼できる年配のメイドに頼んだらしい。ちょっとだけロリコン疑惑が薄れたわよ。良かったわね、サイラス。
。・☆。・☆。・☆。・☆。・☆
結局居座ることになり、サイラスはわたくしの父宛に手紙を書いた。
内容は非っ常に納得いかないけど、とりあえずかいつまんで言えば「親睦」ということになった。慣れ合うつもりはこれっぽっちもないわっ!
ちなみに父からの手紙には「くれぐれもよろしくお願いいたします」の続きで、テンションがあがったのか、余計な文が散乱していた。
時間は気にしなくていい、とか。この先数か月大きな行事はないし、手伝いにアンを呼んではどうかとか。
それってどういうことよ、お父様っ!
厄介払いよろしく、勝手に妄想しないでくださいませ!!
こうなったのも、もとはといえばお父様がわたくしを置いて行ったせいなのよ。元に戻ったら、しばらく口きいてやらないんだからっ!!
サイラスの執務室でお父様からの手紙を読んで怒っているわたくしに、エージュがプリーモのチョコレートで作ったケーキをすすめてくれた。
「おいしいわぁ」
ついつい緩んでしまう顔を隠せず、わたくしはお父様からの手紙をポイッとテーブルに投げ捨てる。
「サイラス様も休憩されませんか?」
「ああ、そうする」
わたくしの向かい側……ではなく、横にケーキとコーヒーが用意され、ここ数日ですっかり定番になった位置にサイラスが座る。
最初は抵抗したけど、膝にのせるぞと脅されてしまったわ。
こんなかわいらしい少女を脅すなんて……元に戻ったら覚えてらっしゃいよ!! ピンヒールで今度こそ踏みつけてやるんだから!
「そうだ」
ケーキを二口食べたところで、サイラスが立ち上がって執務室のクローゼットを開ける。
そこからリボンのついた一抱えもある、大きな袋を取り出す。
「ほら」
わたくしの膝に乗せられたリボン付きの袋は、大きすぎて顔の部分まで覆われる。
「なぁに、これ。開けていいの?」
「ああ」
そんなに重くないけど、明らかに贈り物だと思われる袋を開ける。
中から出てきたのは、薄茶色の大きなかわいらしいウサギのヌイグルミ。赤のチェックのリボンもついている。
「お前一人だからな。これで遊べ」
「こ、子ども扱いしないでっ!」
嬉しそうに抱いていた手を離し、サイラスを睨む。
「それから服も部屋に運んでおいたぞ。あとでちゃんと見ろよ」
「え? もういらないわよ」
「せっかくチビになったんだ。昔着れなかったひらひらドレスを堪能しろよ」
カッと顔が熱くなる。
隠していたつもりだったけど、用意されたリボンとレースたっぷりのドレスを着るたびに嬉しかったのは間違いない。今日のドレスも、淡い黄色のドレスで、花柄がついている。
選んでくれた年配メイドのナリーが、見るたびに「お似合いですよ」と褒めてくれるからうれしくて仕方ない。
ちなみにナリーだけは事情を知っている。
「……うるさいわね」
小さくつぶやいて、ぎゅっとウサギのヌイグルミを抱きしめた。
もうっ、なんだってこんな恥ずかしい目にあわなきゃならないのよ! こうなったのは全部お父様のせいよ!! いっそのことこのままの姿で帰って、みっちりと問い詰めてやりたいわっ!
もう一度ぎゅっとウサギのぬいぐるみを強く抱きしめ、ふと顔を上げると、サイラスがじっとわたくしを見ていた。
「なによ」
「いや、お前……ちゃんとかわいい子供だったんだな」
「はっ!?」
『ちゃんとかわいい』って……どういうことよっ!!
。・☆。・☆。・☆。・☆。・☆
この姿になって六日目。
最近気づいたのは、サイラスが意外に甘いものを多量に食べないということ。
わたくしの前だから無理をしているのかと思ったけど、ヨーカン丸かじりしている姿を見たことがあるので、それはないわねと思う。
エージュに聞いてみたら、やっぱりいつもより控えめですと言う。でも本人は「普通」としか言わないから、ただ甘いものを食べない時期なんだろうと思っている。
……そんな変化はどうでもいいわ。
早くわたくしの変化よ、訪れてちょうだいっ!!
今日はサイラスが早朝から仕事で出ている。
家人達も戻ってきているから、あんまり部屋から出られなくて、エージュもなんだか忙しそうだから部屋にいようと思ったけど……。じっとしていられないの。子どもの好奇心ってことかしら?
そぉっと部屋を出て、ウサギのヌイグルミをお供に静かな廊下を歩く。
玄関ホールは吹き抜けになっており、この廊下の先から下を見下ろせる。
初日入ってきた時、玄関ホールの床の絵が気になっていたの。だから、今日は上から見下ろそうと思う。
そうやって、ちょっとドキドキしながら廊下を進んであと少しっていうところで、誰かの話し声がした。
一度立ち止まって耳を澄ませると、どうやら誰か玄関ホールにいるみたい。
誰かしら?
手すりの間に身を潜ませ、こっそりと下の玄関ホールをのぞく。
「!」
あわてて頭を引っ込ませたけど、見間違いなんてしてないはず。
ど、どど、どうして――王妃様が来てるの!?
読んでいただいてありがとうございます。。
☆すみません、5話に変更します。詳しくは、活動報告で。
次回9日更新、11日最終話です。




