特別小話~どういうことよっ!~1/5話
このたびアリアンローズ様より2巻発売の運びとなりました。
HPでは載せられていますが、2月の予定です。
今回前半100ページほどをほぼ書き直させていただきました。
どうぞよろしくお願いいたします。
今回は、本編が間に合わなかったので、書下ろし外伝にしようかと思っていた話を全4話で投稿します。
2巻発売と電子配信お礼特別小話です。
「サン・タクロース?」
「サ・ン・タ・ク・ロー・ス。サンタクロースだよ、お嬢さん」
深夜、ふと目が覚めたわたくしが起き上がると、部屋には赤い衣装に白の縁取り、白い長いひげの小太りのお爺さんがいた。
肩に担ぐように大きな白い袋を持っているけど、泥棒かしら? 警備はどうしたのよ。
だけど、不思議と怖くなかった。
まるでそのお爺さんがいることが当たり前のように、わたくしは冷静だった。
「いろいろ気苦労の多いお嬢さんに贈り物だよ」
「前置きがすっごく気になるんですけど」
笑顔で言われたって騙されないわ。
「まあまあ、これをどうぞ」
そう言ってお爺さんが、担いでいた白い袋の中から小瓶を取り出した。
「小瓶?」
気になって、わたくしは寝台からおりて歩み寄る。
お爺さんが持っていたのは、片手で握れるほどの小瓶。中身は怪しい。だって、ピンク色に輝いている。
「これは何?」
「飲んでごらん。ただし半分だ」
これを飲むの!?
見た目にはとても怪しい色をしているし、美味しそうとは思えない。
「残りは後で飲むんだよ」
それじゃあ、とお爺さんは火の消えた暖炉へと近づく。
「あ、待って!」
あわてて呼び止めたのだけど、ボワンと白い煙を残してお爺さんは消えてしまった。
「……き、消えた?」
茫然としばらく立ち尽くしていたが、急に部屋が冷えていたことに気が付いてブルッと震える。
まだ温かいであろう寝台に潜り込み、手の中に小瓶があるのに気が付く。
「本当になんだったのかしら?」
じっと小瓶を見ていると、なんだか無性に喉が渇いてきた。しかもこの小瓶の中身が飲みたい。
「…………」
どんどん強くなる渇きに負け、ちょっとだけ、と小瓶の中身を飲む。
「あら、お水だわ」
無味無臭。色はなんなのだろう。
半分も飲めば、乾きは嘘のようになくなる。
そして急にまた眠くなる。
ふあっとあくびをして、わたくしは目を閉じる。
思えば今日は災難続きだったわ。
。・☆。・☆。・☆。・☆。・☆
家のためとはいえ、イズーリまで絹の買い付けに付き合わなきゃならないのよ。
しかも相手は領地じゃなくて、王都にいるって道中に言われたわ。わたくしがイズーリの王都、アマスティに行きたくないのを知っているくせに!
確かに絹の新規取引先としてプレイジ辺境伯(27話後半参考)と面識があるけど、結局わたくしが来ても意味なかったじゃない。お父様ったら、早々にプレイジ辺境伯と意気投合しちゃって、今夜の宿探しをして来いって追い出して。
しかたないから言う通りに探しに出たら、一件目の宿でなぜかエージュと出会った。
もちろん嫌な予感はしたわ。
『宿をお探し? ああ、大きな市、バザールが開催されておりますから、なかなか難しいかもしれません。良かったらご案内させていただきますが』
確かにアマスティの宿屋事情には詳しくない。
しかもエージュのことだから「サイラス様の私邸にお泊り下さい」とでも言うかと思ったのに、意外にも宿探しを手伝ってくれるらしい。
『あなた仕事じゃないの? っていうか、何しにここにいたのよ』
『仕事でございます。本日はバザール開催においての、市場調査の一つを行っております』
『それが宿屋の調査?』
『はい』
そういういきさつでエージュにあちこち案内してもらったのだけど――行く宿屋全部満室ってどういうことよ!?
父に護衛もいるから安い宿には泊まれない。
エージュもそれなりの宿を探してくれるけど、結局見つからなかったわ。
日が暮れだしたので、一度王都のプレイジ辺境伯のお屋敷に戻る。
そして、わたくしは耳を疑った。
意気投合した二人は、そろってプレイジ辺境伯の領地へと向かったらしい。
――――わたくしを置いて。
父の置手紙には、馬車を用意してもらっているから後から来なさい、とだけあった。
どういうことよ、お父様っ!!
今から出発じゃ、王都の門が閉まってしまう。
どうしようかと考えているわたくしに、エージュが近づく。
『どうでしょうか。今夜はサイラス様のお屋敷にお泊りになりませんか?』
『嫌』
『大丈夫です。今夜はサイラス様のお戻りはありません。明日の朝、お早めに立たれたらお顔を合わせることはないでしょう』
その提案は正直嬉しいけど、ついエージュを疑いの目で見てしまう。
エージュは苦笑する。
『さすがにシャナリーゼ様をだますようなことは致しません。サイラス様の信用評価が落ちますので』
そうね。これ以上落ちたらジロンド家に出入り禁止だわ。
しかも今日から明後日まで、イズーリでは家族で祝う行事があるらしく、家人も少ないという。
そんなわけで主であるサイラスに内緒で、こっそり泊まることになった。
。・☆。・☆。・☆。・☆。・☆
……ノックの音がする。
ぼんやり覚醒していくと、はっきりとノックの音がして、エージュの声が聞こえた。
「おはようございます、シャナリーゼ様。お時間です」
さっきも言っていただろう言葉に、わたくしはここがどこだったかを思い出して目が覚める。
「す、すぐに支度するわ!」
あわてて寝台から下りようとして――――足がつかない。
「きゃあっ」
すでに立ち上がろうとしていたので、そのまま床に転ぶ。
え?
倒れたまま首だけひねって寝台を見ると、妙に大きい。
そのまま自分の体へと目線を下ろして――――わたくしは悲鳴をあげた。
「きゃああああああああああ!!」
「シャナリーゼ様!?」
バタンと大きな音がして、寝室のドアが開かれてエージュが入ってきた。
そして、その細い目をこれでもか、と大きく見開く。
「え、エージュ……わたくし……」
自分の声もいつもと違うことに気づき、視界が涙でかすむ。
「しゃ、シャナリーゼ様?」
困惑したエージュが見たわたくしの姿は、――――五、六才の少女の姿だった。
これは一体、どういうことっ!?
お読みいただきありがとうございます。
本年も大変お世話になりました。
また来年もお会いできますよう、精進いたします。
それでは、よいお年をお迎えください。
上田リサ
次回は1/2予約してます。




