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勘違いなさらないでっ!【41話】

ご無沙汰しております。

先週更新予定だったのですが、スマホが壊れて原文が消えました(号泣!)。

お知らせもあり、どうにかこうにか書き直しました。


☆お知らせ☆

 【勘違いなさらないでっ!①】が12/12より電子書籍配信されました。

 本はちょっと、という方でもお求めやすいかと(笑)。

 お求め先は、アリアンローズ様のHP、キャンペーンコーナーに載っています。

・Rakuten kobo様 ・BookLive様 ・BOOK WALKER様

・どこでも読書様 ・電子書店 パピネス様


こちらもどうぞよろしくお願いいたします。

「お姉様、そのあたりでお止めになって。お母様に知れたら大変よ?」

 じっくりとサイラスを説教していたら、ため息交じりのティナリアの声が後ろから降りかかる。

「ティナリア、どうしたの?」

 何でもないように振り返ると、ティナリアはクスクス笑いながら近づいてきた。

「サリーがオロオロしていたから、どうしたのって声をかけたの。サリーったら、かわいそうなくらい顔色が悪かったわ」

 そういえば、とケーキを運んだサリーのことをすっかり忘れていた。

「ほお。それはかわいそうに」 

 砂粒ほどもそう思っていないサイラスの憎たらしい声に、わたくしの額に青筋が浮かびそうになる。

 右手を腰に当て。サイラスに向き直って再び口を開く。

「あなたね、人のことが言える!? さっきも言ったけど、アシャン様のことといい、プッチィ達のことといいどうしてもっと人のことが考えられないの!? 花火だってそうよ。誕生祝いだっていうのに年齢以上の数を上げるなんて!」

「またそれを蒸し返すのか。 そろそろ仲裁役を頼もう。誰かジロンド伯爵夫人を呼んできてくれ」

「待ちなさい!」

 お母様、と聞いて慌ててわたくしは制する。

「お母様がどうしてでてくるのよ!」

「さっきティナリア嬢が言っていただろう。大変なことになると。どう大変なのかなぁ、と思って」

 にやりと意地悪く笑うサイラスを、わたくしは真っ赤な顔をしながら睨みつける。

「ふふふ。お母様のお説教は長いですものね」

「て、ティナリア!」

 余計なことを言ったティナリアを焦って振り返るが、その顔には笑みが浮かんでいる。確信犯だわ。

「ふーん。お前の説教の長いところは母親似なのか」

「!」

 ニヤニヤと顎に手を当てて笑うサイラスに、わたくしは「その腹黒さはイズーリ王室伝統ですのね!」と言いたいところをグッと抑えて耐える。

 だって言ったらまた長くなるわ。そのくらいわかるもの。それに同レベルで言い争ってはダメよ。

 そうよ。お母様とわたくしの違いは、話の切り上げができることよ!

 平常心、平常心と心を落ち着かせていると、またティナリアの呆れたような声がした。

「まぁああ! お姉様ったらエージュさんケーキをぶつけたの!?」

「すごい、一撃」

 事情をすっかり話したらしいアシャン様が、グッと親指を立てて褒めてくれる。

「部屋に入った時から気にはなっていたんだけど……」

「お気づかいありがとうございます」

 顔だけはきれいにふき取ったものの、服は生クリームケーキの残骸でべったりと汚れているエージュが、恭しく頭を下げる。

 そんなエージュを心配そうに見てから、ティナリアはわたくしに非難の目を向ける。

「お姉様」

「…………」

 気まずげに目線をそらすが、ティナリアはぷうっと頬を膨らませながら目線を送り続ける。

「わかったわよ、そんなに睨まないでちょうだい。エージュにしたことはわたくしに非があるわ」

「いやいや、その前に俺に当てようとしたことはどうなんだ」

「あなたに当てることは問題ないわ」

「…………」

 サイラスの無言の抗議には、片手であしらって背中を向ける。

 あらためてエージュを見ると、まあ派手に汚れたものだわ。全部わたくしのせいですけど。

 床にも大きなケーキの塊が落ちているし、掃除メイドは大変だわ。やっぱりわたくしのせいですけど。

「エージュ、ごめんなさい。すぐ着替えなければならないわね。その間わたくしがサイラスのそばにいて目を光らせているから、安心して着替えてきて」

「おいおい、どういう意味だ」

 背中からの声に、わたくしはわざと大きなため息をついて向き直る。

「まだきちんと治っていないのに、一体何をしに来たのって聞いてるのよ。ナリアネスなら心配ないわ。キビキビ動いているわ。部下のほうは多々あるけど、一人以外は大丈夫だし」

「……お前が手足のように使っている姿が見えるな」

「失礼ね。何もしてないわよ!」

 まだ、ね。ああ、あのシーゼットって男は、ティナリアに何かする前にどうにかしなきゃいけないけど。

「トキ、いいぞ」

 ふふっと、黒い笑みで思い出すアシャン様。

 これは絶対に仮装させようと諦めていない。

 そんなアシャン様を見て、サイラスが「おっ」と軽く目を見張る。

「トキ? 珍しいなアシャンが気に入るなんて。アシャンの専属兵に推薦するか」

「やめてあげて、サイラス」

 特にトキに悪印象を持っていないので、一応反対してあげる。

トキが自由な今がいいと言っていたのもあるけど、何よりトキの精神安定の為にもやめてあげて。世の中出世より大事なものがあるのよ。

 サイラスがひょいと器用に片眉を上げ、意外そうにわたくしを見る。

「お前まで気にかけるのか」

「別に気にかけていないけど、彼はナリアネスの下がいいって言っていたわ」

「ふーん」

 なんだかおもしろくなさそうな顔をして、サイラスはわたくしを越えてエージュへ目線を飛ばす。

「後で呼べ」

「かしこまりました」

「ちょっと、いじめたりしないでよ」

 王子が平民の一般兵を呼んで何を話すのよ。

 トキなんて多分カチコチに緊張して、ほとんど受け答えできないと思う。

「で? 今回はどんなご用?」

 気を取り直して聞く。

「何って、生誕祭への出席さ。外相と次兄が来るはずだったんだが、その次兄が間に合わなくなったんだ。だから代理で」

「ああ。また二の兄様、逃亡」

「逃亡!?」

 アシャン様の言葉に驚くと、サイラスは車椅子の肘掛けに肘をつく。

「そうそう。万が一にはお前が行けって言ってたいたからな。嫌な予感はしてたんだが、外交先でなんか目新しいもんみつけたんだろうよ」

「よくある」

 どうやら、行事をドタキャンする、とんでもなく破天荒な次兄王子様がいるみたい。

「まあ、とにかく準備はしておいてよかった」

「準備?」

 なぜかわたくしを見ながら言うので、首を傾げる。

「お前生誕祭にも出ないつもりだろう。まあ、親が出るだろうからいいんだが、俺が出席となればその相手役はお前しかない、というわけだ」

「は?」

「本当は別の機会に贈る予定だったが、間に合ってよかった」

「何が?」

「ドレスだよ。お前普段着で行く気か? その格好で俺の車椅子を押すのか?」

 ドレス、と聞いて驚いたけど、その後に続いた「車椅子を押す」って何よ!

 フルフルと震えながらわたくしは、自分の胸に右手を添える。

「わたくしが押す、ですって!? 介護しろって言うの!?」

「介助だ、介助」

 サイラスが嫌そうに訂正するが、わたくしにとってはどっちも同じ。

「お断りするわ」

「そう言うな。俺が出席したのに、お前が出席しないとなれば、ジロンド伯爵夫妻の顔を潰すことになるんだぞ。いいのか?」

「…………」

 わたくしは目をそらして考える。

 散々ジロンド家には泥を塗ってきた。

 最近になって、お兄様の仕事ぶりと気品、ティナリアの美貌でどうにか醜聞は薄れつつある。

 それをまた潰すことになるですって?――――冗談じゃないわ。

「そこまで親不孝ではなくってよ」

 サイラスとの縁が切れたら、わたくしは社交界からも貴族からも離脱するんだもの。最後の親孝行と思って行くしかない。

「……我が家の為に行ってあげるわ」

「それでいい」

 ニンマリと笑うサイラスを見て、ムカムカと悔しさが込み上げてくる。

「主要貴族の情報は頭に入っているか?」

「バカにしないで。でも念のため、今夜にでも最新情報をお母様から聞くわ」

「期待している」

 上から目線のその物言いにカチンときて、自由じゃないことをいいことにちょっとしたイタズラを思いつく。

 サイラスの座る車椅子の左横に行き、腰を曲げて顔をサイラスの頬に近づける。

 おもしろそうに目を細めるサイラスを見て、ついっと口角を上げ、治りかけの薄らとした傷を指先でなぞる。

「ずいぶん簡単に近づけるわね。これならあなたの顔に、直接たっぷりと生クリームを塗れそうね」

「きれいにお前が舐めとってくれるならな」

 そう言ってサイラスは、自分の唇を人差し指でなぞる。

 なんだかその指の動きにドキッとしたものを感じて、慌てて打ち消す。

「そんなことするわけないでしょ!」

「じゃあ俺が舐めてやる」

「!?」

 それが妹達の前で言う言葉なの!? 

 アシャン様はわかっていないけど、ティナリアなんて顔を真っ赤にしているわ。今頃ティナリアの頭の中では、とんでもない妄想が繰り広げられているに違いない。

 でも、相手はきっと――――わたくしじゃないわ。

「う、うふふ、なんだかお邪魔みたいですわ。急に読書をしたくなりましたので、退室させていただきますわ」

 いそいそとドアに向かうティナリアを、エージュがドアを開けて見送った。

「はは、刺激が強かったかな」

 軽く笑うサイラスは、きっと勘違いをしている。

 ティナリアの読書本のジャンルを忘れたのかしら。

 はははっと、笑うサイラスにわたくしは腕を組んで軽くため息をつく。

「なにを言っているのかしら。あなたあの子の趣味を知っていたはずよね?」

「ああ、それがな……」

 何かって言おうとして気が付いたらしい。

「な」と口を開けたまま固まり、どことなく顔色の悪くなるサイラスを、エージュが微妙な顔をして見ている。

 その様子にわたくしはニンマリと口角をつり上げ、腰両手を添えて勝ち誇って言い放つ。


「今日のお相手は誰かしらねぇえ?」


 やったわ! わたくしの完全勝利!!


。・☆。・☆。・☆。・☆。・☆



読んでいただいてありがとうございます。

いろいろあって、更新がおくれてすみません。

後半はどうにか年内にしたいと思っています。

また、来年何かしらお知らせできたらなと思います。


どうぞ皆様、体調に気を付けて、忙しい年末年始を乗り切ってください!



。・☆。・☆。・☆~ その後のティナリア ~。・☆。・☆。・☆


 足早に自分の部屋へと急ぎ、ドアノブに手をかけて辺りを見回す。

 誰もいないことを確認して、サッと部屋の中へと入る。

 カチャリと鍵を閉め、誰もいないことを確認して寝室へと駆け込む。

「きゃああああああああああ!」

 歓喜の声を上げながら、ティナリアは寝台へと勢いよく倒れ込む。

 うつぶせになったまま、口をシーツにおしつけて再度歓声を上げる。

 ガバッと顔を上げて、今度は仰向けになって自分の両肩を抱きしめて転がる。

 ドレスの皺とかよれとかも気にならない。

「いやいやいやいや! もう妄想が止まらないわぁああああ!!」

 これでもかというほど、ティナリアの顔は緩みっぱなしである。


(どうしましょう! お相手は……そうね、最近読んだ方がいいかしら)


 ドキドキしながら、目まぐるしく頭の中で相手役を探していると、急にピンとくる人物がいた。

 その人物はいつもサイラスのそばにいる。

 しかもおあつらえ向きに、生クリームまみれ(汚れ)だったではないか。


(エージュさんに決定~~~~っ!!)


 身分差バチコイ! お堅い仕事の上下関係なんて、○女子の大好物よ、とばかりにティナリアは最高潮に萌えた。


(シナリオ書かなくっちゃ!)


 相手役が決まれば、あとは脳内動画スタートだ。

 想像して楽しむだけのはずだが、ティナリアは最近それを文章に書き起こしていた。

 シナリオ、となるそれを持って、ティナリアは親友でありボーイズラブ作家のリンディのところへ行く。


「ティナリア様は文才がありますわっ!」


 一年前までまったくの無垢な少女だとは思えないシナリオを元に、リンディは『ポリーヌ』の名でその舞台を描く。


 ――――そのポリーヌの横に『原案:レイラ』と書かれるようになるのは、そう遠くない未来の話。



【お詫び】

 ティナリアのシナリオとサイラスの生クリーム(笑)については、完全に『お月様』仕様です。


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