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勘違いなさらないでっ! 【26話】

こんにちは。

活動報告には書きましたが、只今多忙につき時間がなかなかとれません。


3/7 26-2を加筆(約500文字)して、26話としました。主に描写の加筆だけで、特別流れは変わっておりません。26-2については、削除するとサーバーに負担がかかると規定にあったのを思い出し、そのままにしております。次回これを27話と上書きします。ややこしいですが、よろしくお願い致します。


 想定外の珍事に、ライアン皇太子はしばらく待機を命じて馬車に乗り込んで座った。 

 わたくしは中腰でアシャン姫に白い布を肩にかけ、この方に合うドレスがあったかしらと考えていた。

 なければ毛布でも何でもいいので、寒くないようにとりあえず着せないといけない。ドレスは次の滞在先でどうにか手を尽くしてもらうしかない。

「姫様、とりあえ……」

 と、言いかけて固まった。

 なぜならアシャン姫が抱きついて来たからだ。

「姫様?」

「アシャン」

「……アシャン様、お着替えなさいませんと冷えます」

 こうなっては明日引き戻すことになるのだろうな、とわたくしは考えていた。

 アシャン様はゆっくり顔を上げると、キッパリと言った。

「ついていく」

「は?」

「シャナリーゼの家に行くっ」

 今までで1番強く長く言うと、わたくしに抱きつく手の力が強くなった。

「し、しかし……」

 一国のお姫様をこのまま連れて行くのもどうかと思う。まぁ、ご両親の許可のようなものは取れているようだけど……。

「おぉおおっ! これが百合という奴かっ!?」

 なぜか興奮しているライアン様を、それはそれは冷たく睨むと、コホンと咳払いして小さくなった。

「……ついに義妹にまで手を出したのか……」

 目線はそらしたまま、ボソッと呟いたバカ王子を再び睨みつける。

「聞こえていましてよ、ライアン様。それに義妹ではございません」

 もう1度ビクッと怯えたライアン様だったが、アシャン様に目線を移して反論してきた。

「し、しかし現実にここにいるではないか。誰かが手引きでもしない限り、そこのそんな狭い場所に入れるわけがない」

 確かに、とわたくしもアシャン様が出てきた椅子の下を見る。

 黙ったわたくし達に、アシャン様が顔を上げて言った。


「手引き、いる。ナリアネス」


 くぅううううまぁあああああっ!!


 今すぐ怒鳴りつけて頭を地面に押し付けて鞭で打ってあげたい。


 だが、それよりもっと早く打ちたい人間が側にいた。


「ナリ……それは確かシャナリーゼが軍門に下したという中隊長か!?」

 人聞きの悪いことをいうライアン皇太子を、わたくしはさらに目力を込めて睨みつけるが、彼の勢いは止まらない。

「サイラスから聞いた。確か『犬』になったと。つまり相手から裏切り者を出させて手引きさせるとはっ!何たることだっ」

 ああっ!と頭を抱えて苦悩するライアン皇太子。

 落ち着いて、わたくし。アシャン様が見ているわ、と必死で堪えるものの「あぁっ!そんなっ!なんということだっ!」と、何度も繰り返すライアン皇太子を視界の隅で見ているうちに、つい()が出た。


「お黙り下さいませ、ライアン様」

 苦悩しながら段々近づいていたライアン皇太子の右靴を、いつもの強化ヒールでグリッと踏みつける。


「っくぁっ!」


 苦悶の表情で右足を庇うように崩れ落ちるライアン皇太子を無視し、わたくしは今だ腰にしがみつくアシャン様の肩に手を添えた。

 ちなみにアシャン様は、いつもの冷めがちな目線で痛みに耐えるライアン皇太子を見ていた。

「騒々しくて申し訳ありません。ですが確認したいのですが、本当にあのナリアネス隊長様が手引きなさったのですか?」

 顔をわたくしに向け、こくっとうなずく。

 

 ……決定ですわ。今すぐにでも引き返し、明日にでも熊を打ち据えますわっ!


「でも、指示、(いち)の兄様」


 ……は?


「ここに隠れる、母様の案」


 ……はぃいいいい!?


「お、王妃様に一のお兄様と言いますのは、ま、マディウス皇太子殿下ですか!?」


 ひきつったわたくしに、アシャン姫はまたこくりとうなずいた。

 体から力が抜け、ガクリと膝をついた。

 見下ろす形となったアシャン姫が、じっとわたくしを見つめていると「あっ」と何かを思い出したように、ライアン皇太子が涙目で顔を上げた。

「すまん、それは今朝俺が言ったからだろう」

 ギロッと無言で睨むと、ライアン皇太子はあわてて落ち着け、と手を振った。

「王妃様に『可愛い子には旅をさせよ』という言葉をどう思うかと聞かれたので、苦労をして学んだことは忘れないものです、と答えたんだ。多分それで」

「全っ然お話が繋がりませんわよ!?」

 もはや自国の皇太子ということを忘れ、怒りを滲ませ怒鳴る。

 落ち着け、と手を前後させるライアン皇太子を睨んでいると、少し大きなアシャン様の声がした。


「望んだ」


 その声にわたしはアシャン様を見上げた。

 少しだけ目を伏せ、アシャン様は少し遠慮気味に言った。  

「ついて……行きたい」

「ですが」

「手紙」

 言われてわたくしは2通目を開けた。



 ……開けなきゃ良かった。



 中身は几帳面にびっしり書かれた文字。

 アシャン様の希望を叶えて同行させて欲しいこと。

 護衛をつけるので問題ないこと。

 滞在費や旅費については、護衛に資金を持たせること。

 そして何よりアシャン様の希望をかなえてやって欲しいとのことだった。

「一の兄様から」

 

 もう文面からしてそうだと思っていましたわっ!

 読んでるだけで悪寒がします。

 

「殿下っ!」

 外から切羽詰ったような兄の声がした。

「後続から馬が4騎近づいております」

 にわかに険しくなる雰囲気に、わたくしは急いでアシャン様を座らせて抱きしめた。


 やがて警戒するわたくし達の前に現れたのは、イズーリ国の紋章も入っていない軽装備姿の4人の男達だった。

 窓から様子を伺っていたわたくしは、おもわず馬車から降りた。

「アシャン様の護衛ってあなた方なの!?」

「はいっ」

 先頭のナリアネスが頭を下げた。

 続いて後方の3人も下げる。

「一時職を預け、姫様の護衛の任を受け持ちました。後ろの3人共々ご同行致します!」

 顔を上げた3人からは不機嫌そうな(こっちがよ!)、怯え(どうしたの?)、熱い視線(……何で?)の三者三様の視線を受けた。


 あまり覚えていないけど、もしかしたら問題の3班の隊員かしら? 


 どちらにせよ、来てしまったものは仕方ない。

 しかも命じたのは手紙の内容からして、あのマディウス皇太子殿下だ。突っぱねようにも後が怖い。


 その後ナリアネスとライアン皇太子は少しやり取りし、長い休憩となったが男爵家へと進み始めた。

「シャナリーゼ」

「はい」

 アシャン様はそっと後方の小さな窓の外を指差した。

 そこには最後尾を守るナリアネス達がいた。

「兄上が、あれ、頼むと」


 ピキッとこめかみに青筋が浮き出たとしても、それは仕方のないことだと思う。


 ……3度目ですが、申し上げますわ。

 

 勘違いなさらないでっ!

 わたくし調教師では、あ・り・ま・せ・ん・わっ!!



。・☆。・☆。・☆。・☆。・☆



 わたし達は、どうにか夕闇が落ちる前に、目的の男爵家にたどり着いた。


 隣国の王族を迎えると緊張していた壮年男爵がアシャン様の姿に気づき、緊張の壁を通り越したふくよかな奥方が血相を変えて、挨拶を無視して使用人にドレスを調達するよう言い、まずはと寒くないようにと毛皮のコートを持ってきてアシャン様を包んだ。

 玄関先でてんやわんやとなった様子を、わたくしはじっと傍観していた。

 男爵夫妻のあわてっぷりも仕方あるまい。


 護衛隊長と兄、それからナリアネスだけがわたくし達と一緒に玄関から中に入った。他の者は馬や馬車をとめるため、男爵家の家人に案内されて行った。

 客間に通され恐縮する男爵夫妻を前に、ライアン皇太子は礼を言い、隣に座るアシャン様はコートを羽織ったままお茶を無言で飲んでいる。

 その横になぜか腕をつかまれたままのわたくしが座り、酔っているレインはセイド様に支えられて、先に部屋に入った。ちなみに護衛隊長とナリアネスは部屋の隅に待機し、兄は廊下に立っている。


 小柄なアシャン様がふわふわの毛皮のコートに包まってお茶を飲んでいる姿を見て、まるで小動物のようですわ、とほほえましく思っていた。まぁ、かの方々に押し付けられたことを、忘れたわけではありませんけどね。


 ただ黙々とお茶を飲むアシャン様の様子を気にして、男爵夫人が声をかけた。

「姫様、お寒くありませんか? 当家には娘がおらず、今用意させてますので、もうしばらくお待ち下さいませ」

 体型があわず自分のドレスも貸せなかったと、男爵夫人は本当に申しわけなさそうに頭を下げた。

 男爵もアシャン様の言葉を待つように、じっと見つめた。

 対してアシャン様は相変わらずの無表情で、飲んでいたお茶を静かに皿に戻すと、いきなり顔半分をコートの中に隠してしまった。

 まさかの反応にライアン皇太子はギョッと目を見張った。そしてサッと顔色が悪くなった男爵夫妻を見て、わたくしは顔を隠したアシャン様にゆっくりと尋ねた。

「アシャン様、今日はご用意して頂くもので大丈夫ですわね? 明日は店も開きますので、旅の準備のお買い物を致しましょう」

 毛皮の中から見えている黒髪の頭が、わずかにこくっとうなずいた。

 とてもわかりづらかったので、わたくしは対面に座る男爵夫妻にうなずいた。

「アシャン様は大丈夫ですわ。それより大変申しわけありませんが、アシャン様はお疲れのようです。先にお部屋へご案内をお願いしても?」

 いい加減挨拶が面倒になったわたくしは、アシャン様をダシに退出を願う。

 すると男爵夫妻は焦ったように首を上下に振った。

「も、ももも、もちろんです! すぐに案内を」

 どもる男爵。その横で夫人がベルを鳴らした。

 わたくしは同じ長椅子に座る、ライアン皇太子と顔を合わせた。

「では殿下、アシャン様をお連れします」

「わかった。姫の護衛を」

 そう言って顔を上げると、扉の前に立つナリアネスは心得たように頭を下げた。

 ベルに呼ばれた執事がすぐに現れ、男爵が用件を告げると執事は深く腰を折り「御案内させて頂きます」と手を扉へと差し出した。

「さぁ、アシャン様」

 肩を抱くように立たせると、顔を隠したままのアシャン様を連れナリアネスを従えて部屋を出た。


 案内されたのは一階東側の一室。

 茶色の絨毯、白で統一された調度品は華美なものではなかったが、長椅子にかけてある黄色く着色された毛皮のカバーがやけに目立っていた。

 すでに暖炉には火が入れてあり、部屋は充分暖かい。

 アシャン様のコートでは暑過ぎるかもしれない。

「奥が寝室でございます。御用の際はベルをお鳴らし下さい。専用のメイドが参ります」

「わかったわ」

「では、失礼致します」

 執事が去った後、わたくしはアシャン様を長椅子に座らせた。

 すぐにアシャン様は顔を出し、じぃっと部屋を観察していた。

 わたくしは部屋に不信なものがないかと、あちこち調べていたナリアネスを呼んだ。

「はっ!」と返事をして、なぜか見えない尻尾を振るように嬉々としてやって来ると、そのままわたくしの前で片膝をついた。

 いちいち仰々しくてため息が出そうになる。

 ナリアネスがやってきた様子を、興味深く見ていたアシャン様は、再びコートの中に口元だけ隠すとゆっくりと目を細めた。もしかしたら、にんまりと笑っていらっしゃるのかもしれない。

 その顔が目つきは違えど、アシャン様の兄達そっくりなことに気づき、わたくしは改めて胃が痛くなった。

「シャナリーゼ様?」

 アシャン様に気をとられていたわたくしに、ナリアネスが「どうしました?」と太い首を傾けた。

 ため息代わりにふぅっと浅く息を吐いて、わたくしは片膝をついたナリアネスを立たせることなく見下ろした。

「アシャン様のお荷物はどうしたの。本当に護衛の任務と資金だけ持ってきたんじゃないでしょうね?」

「はい、それだけです」

 あっさりとした返事に、わたくしは頭が痛くなった。

 一国のお姫様の旅に荷物無し。しかも日帰りではなく何泊するかもわからないというのに。

 自慢じゃないが、わたくしはほとんど荷物の手配をアンに任せているので、アシャン様に何が必要か最低限しかわからない。護衛もつけるなら侍女の一人くらいつけて欲しかった。

「男ならまだしも、女性の旅をなんだと思っていらっしゃるのかしら」

 はぁっと今度こそ深いため息をついて、わたくしは右手で頭を抱えた。

 返答後頭を垂れるナリアネスに何を言っても始まらない。まずは服。それから化粧品の類はわたくしのもので我慢していただいて、明日は領地内の店でいろいろ買い物しなくては……、とわたくしは必要なものを考えていた。

「シャナリーゼ」

「はい」

 長椅子に座るアシャン様を見る。

「脱ぐ」

 すでに毛皮のコートを放り投げ、ついでに足もお行儀悪く長椅子に放り出していた。

「え?」

 顔を上げそうになったナリアネスに気づき、わたくしはその頭をぐいっと床に押し付けた。

「伏せっ! 顔を上げたら承知しないわよっ」

 夜着のような薄手のワンピースだけになったアシャン様を隠すべく、わたくしはとりあえず奥の寝室に走り、寝台の上に用意されていた厚めのローブを見つけて戻ってきた。

 ちなみにちゃんとナリアネスは伏せっていた。

 そんな彼を素通りしてアシャン様にローブを着せる。

「もういいわよ、顔を上げても」

「はっ」

 ローブを着たアシャン様は、またナリアネスをじぃっと観察していた。

 何が彼女の興味を引いているのかしら。このくらいのことなら、マディウス皇太子殿下やサイラスの側でも見れると思うのだけど。

「アシャン様、何か欲しいものはございますか?」

「シャナリーゼ」

「えぇっ!?」

 過剰反応して飛び上がったのはナリアネス。顔が赤い。灰色に白熊、赤熊となかなか色とりどりに変化する。黙らせるために青くするにはどうしたらいいかしら。

 そんな熊を「おだまり、伏せっ」と念を込めた目でギロッと見下ろすと、青くはならなかったが、とたんに大人しく顔を伏せた。

「アシャン様、わたくしはわたくしのものですので差し上げられませんわ。他に必要なものはございますか?」

「レイン」

 またも人名。

「……わかりました、参りましょう」

「えぇっ!」

 またも過剰反応をする熊は放っておき、わたくしはベルを鳴らした。

 執事の言ったとおり、メイドはすぐにやってきた。

 レインの部屋を尋ねると、彼女はすぐに案内してくれた。


 思ったとおりすぐ近くの部屋だった。

 ノックをして待つと、扉を開けたセイド様がわたくし達を見て軽く驚いた。

「アシャン様がレインに会いたいそうですわ」

「姫君が?」

 セイド様はわたくしにしがみついたままのアシャン様を見て、扉を大きく開いて中へと勧めてくれた。

「あなたはそこで待機よ」

「かしこまりました」

 ナリアネスを外に待機させ、わたくしとアシャン様は中に入った。

 基本的にアシャン様の部屋と変わらないようだったが、違うのは長椅子の毛皮のカバーが赤ということだろうか。

 扉を閉めたセイド様は寝室へと歩き出した。

「レインは起きてますの?」

「だいぶいい。こちらでいい薬をもらったからな」

 黙ってついてくるアシャン様と寝室に入ると、寝台の上ではゆったりとした黄色いドレスに着替えたレインが上半身を起こしていた。

 だが、顔色はまだ少し悪そうだ。

「まぁ、アシャン姫にシャーリー」

 力なく微笑むレイン。

「まだ具合が悪そうね」

「いえ、もうだいぶいいわ」

 そしてレインはローブ姿のアシャン様を見る。

「このようなところから失礼致します、アシャン姫」

「いい」

 多分「そのままで」ということだろう。

「アシャン様のお荷物が何一つないの。欲しいものを聞くとレインを、と言われたので来たんだけど」

 ピクリと反応したのはセイド様。だが友人の妹相手に敵意を出すことはしなかった。

「まぁ、わたくしに御用ですか?」

 寝台の上のレインに向かい、アシャン姫はうなずいた。

「欲しい、シャナリーゼ」

「まぁ、そうですか」

 やはり王妃様が絶賛するように、レインとアシャン姫の間では会話が成立したらしい。

 レインはわたくしに目線を合わせ微笑んだ。

「アシャン姫はしばらくあなたの側にいさせて欲しいそうよ」

「え? 側に?」

「観察……わたし、変わる……」

 段々弱くなった声に、レインは微笑みながらうなずいた。

「アシャン姫は御自分を変えたいそうよ。そのためにあなたについて行こうと思ったんじゃないかしら?」

「変わる?」

 どこを、とアシャン様を見ると、あの夜のように顔を少し赤らめて目線をそらし、もじもじとしていた。

 あぁ、なるほど。恥ずかしがり屋を治そうというわけね。でもわたくしを観察して変わるものかしら? まさか変わるまで帰らないとか……いう場合はサイラスへ連絡だわ。強制的に連れ帰ってもらおう。

 まずは一週間くらい様子見ね。退屈で「帰る」と、言い出すほうが先になるかもしれないけど。

「きっと変われますわ、アシャン姫」

 応援するレインにこくっとうなずいて答えたアシャン様は、そのままわたくしをじっと見上げた。

 大きな黒目、と思っていたけど、少し青みがかった色合いをしていた。そういえばサイラスは青い目をしている。隔世遺伝とまではいかないものの、少し先代陛下の面影が出ているようだ。

 わたくしはくすっと笑った。

「いいですわ。でも特別なことは何もありませんよ?」

 はい、本当に特別何もしません。

 そもそも恥ずかしがり屋の修正ってどうするか知らないもの。

「いい。ただ見る」

 わたくしが了承したことにホッとしたのか、幾分柔らかい表情のアシャン様を見ることができた。


 それからしばらくアシャン姫との会話をセイド様を交えレインから習った。なかなか難しい講義だったが、とりあえずわかったのは、アシャン姫は結構前向きな考え方をする方だということ。

 恥ずかしがり屋で言葉足らずであることを、「だって」とか「どうせ」とかで終わらせず、もっと自分を表現したいと思っていることについて好感を持てた。

 わたくしもあの時、運命だからと諦めていたら、今頃どうなっていただろう。……考えたくもありませんけどねっ!


 しばらくして、寝室のドアがノックされた。

「はい」

 レインが返事をしてセイド様が開くと、メイド二人がドレスを数着手に持って立っていた。

「姫様がこちらにいらっしゃると伺いまして参りました」

「まぁ、ではこちらへ」

 レインが入るように勧める。

「あぁ、でもお着替えならお部屋にお戻りになりますか?」

「いい」

 首を横に振る、アシャン様。どうやらまだまだ、みんなと会話を楽しみたいらしい。

 メイド二人は言われるがまま、寝台の上に持ってきたドレスを広げた。

 閉まっていたかもしれない既製服の店から用意した三着のドレスは、シンプルなレースが少しついただけの青いドレスと、レースで作った花が数個ついた黄色いドレス。そして薄いピンク色のレースが多めについた、かわいらしいドレスだった。そしてそれぞれに合うような靴や、揃えられるだけの髪飾りも箱に入っていた。

 それらをじっと見ていたアシャン様は、目線をドレスに向けたままポツリと言った。


「地味」


 その一言に、ドレスを持ってきたメイド二人は、顔色を悪くして硬直した。

 確かに王族のドレスとしては派手さはないし、生地も悪い。だがこの夕闇迫る時間で用意できるものといったら、こうした既製品しかないのも事実だ。

 やはりお姫様はそうした事情など知る由もないのね。大事に育てられた王家の姫だから仕方ないわ、とただ単純に思ったわたくしは、説明するかと姿勢を正した。

 でも次の瞬間、レインがシンと静まった部屋でクスクスと笑い出した。

「違うんですよ。アシャン様はシンプルなものがお好きと言われたんですわ」

 それはわたくしを含め、みんなへの説明だった。

「王妃様がおっしゃってたように、アシャン様は恥ずかしがり屋さんなのであまりお話にならないわ。ですが姫様、今の言葉はちょっと難しかったようです」

「……そう」

 うなずいたアシャン様は、レインの言った通り一番飾り気のないシンプルな青いドレスを掴んだ。

「これ」

 メイドに突きつけると、彼女達はハッと我に返り頭を下げた。

「かしこまりました!」

「で、ではお着替えを」

 慌ててメイドがドレスを受け取る。

 その様子を見て、これから先のことを思いやられたわたくしは、おもわず横を向く。すると偶然にも、セイド様も何か言いたげにこっちを向いた。

 そしてお互い顔を付き合わせるようにして、ひそひそと話し出した。

「さすがレインですわね」

「一緒に住むようになってすぐ我が家でも家人に慕われ、緊張すると言っていたお茶会などでもどんどん知り合いを作っているようだ」

「とんでもない奥方ですわね。ご友人が多いのは良いことですわ。でもセイド様を虎視眈々と狙う女性がまだいることもお忘れなく。そこのところはセイド様がお守り下さいませ」

「もちろんだともっ」

 強く言い切ったセイド様は、不本意ながら見つめ合うかたちとなっていることに気がついたらしい。みるみる顔を赤くしてサッと距離をとった。

「おっ俺はお前と馴れ合う気はないからなっ!」

「同感ですわ、セイド様」

 顔色も変えず動揺もしないわたくしがさらに恨めしく思ったのか、セイド様はますます興奮した。

「おっ俺はサイラスの友人だが、お前とレインが友人というのも疑っているからなっ!」

「お好きにどうぞ」

 やっぱり冷めたわたくしの態度を見て、セイド様は悔しいのか真っ赤な顔のまま睨みつけてきた。

 レインのためにと散々つきまとって、女性不審一歩手前まで追い込んだわたくしがまだまだ苦手らしく、年上らしくもないその姿にふっと笑いが出そうになった。

 と、その時だ。

 わたくし達の間に静かにアシャン様がやってきた。

 そしてセイド様、わたくしと見て言った。


「修羅場」


「勘違いです(わ)っ! アシャン様っ!!」


 見事に被ったセイド様とわたくしの台詞に、アシャン様は初めてニヤリと少しだけ笑った。


 その黒い笑み、イズーリ王室特有ですかっ!?

 シャナリーゼは「猛獣使い」ですww

 26話1/3投稿しました。

 読んでいただきありがとうございました!!前回の活動報告にエージュへちょい質問書きましたww


 

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