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勘違いなさらないでっ! 【98話】

遅くなりました


「もうすぐ、シェバート公爵様(トリアス様)から提供された中和剤がまかれるはずです」


 そう言いながら、ギュギュッと、エージュがホードル卿を締め上げいく。


 まあ、これってアレね。アンバーの実家の『アシドナの宿』の厨房で見た、吊り下げられた燻製肉! 固くって柔らかさなんてないけれど、チップとかいう木の屑で燻してあるから焼けばとっても香りが良くて、噛めば噛むほど味が出てくる。

 最初とても噛むのに時間がかかって、顎がつかれて食べきれなかったわぁ。

 まっ、こっちはとても美味しそうには見ないけれどね!


 そんなことを考えていたら、ようやくどこからかシューと音がしてきた。

 おそらく中和剤が投入されたみたい。

 エージュは縛り上げたホードル卿の横に立ち、わたくしは手近にあったイスに座って中和剤が効くのを待った。

 ドンと音がして、同時に大勢の人が駆け込んでくる音が聞こえた。


 ああ、やっとこの美味しくない葉を捨てられるわね。


「シャーリー!!」

「!?」


 先頭を切って入ってきたのは、軽装備姿のサイラスだった。

 他の騎士達が部屋中に散らばる中、二人の重装備の騎士を従えて走ってくる。

そのままわたくしの足元に膝をつくものだから、付いてきた騎士達がギョッとしたように不自然に立ち止まった。

サイラスはわたくしの手を取ると、ほっとしたように息を吐く。

「無事か? シャーリー」

「バカですの!? 王族がなんて格好を!」

 目をつり上げて怒っているのに、サイラスときたらまるでトンチンカン。自分の軽装備のことを言われたと思ったらしい。

「ああ、ちゃんと装備はしてきたが、シャーリーを迎えに行くのに邪魔だからこの部屋の前で脱いだ」

「そんなことを言っているんじゃないわ」

 イライラしながら言って騎士達を良く見ると、一人の手には剣とサイラスが脱いだと思われる装備があった。

「いいじゃありませんか、シャナリーゼ様。しっかり待てたのですから。――おい、起きろ」

 待てができた、とばかりに言うエージュだったが、後半はひどく冷めた声を出してホードル卿に何かを嗅がせて腹部を蹴る。

「ぐぎゃっ!――あっ!?」

 痛みで起きてみれば、自分はきつい縄に巻かれ、騎士が部屋中をウロウロしている――そんな状態を見てとりあえず口をポカンと開けて呆けている。

「なっ、これは一体! 貴様ら出て行けっ!!」

「出て行くのはお前だ、メデルデア国()外相殿」

 ホードル卿が振り向く前に、サイラスはわたくし手を持ったまま立ち上がる。

「こちらの侯爵家には、すでに権限はない」

 それは大きな声ではなかったのに、捜索をしていた騎士達がいっせいに手を止めるには十分な威圧感と威厳が込められていた。

手を止めた騎士達は、この断罪に参加するかのように起立してこちらを見守る。

「何をっ、……わたしはメデルデアの大臣だぞ!」

「『元外相殿』と言ったはずだが?」

 冷たく見下ろされてやっと反撃したのに、とうとう身震い迄し始めた。


 ああ、この声。ナリアネスのお屋敷で見つかった時の第一声と同じね。自分に向けられていないからあまり怖くないけど。


「な、なにを……」

 脂汗ダラダラでまだ悪あがきをしようとするホードル(もう呼び捨てでいいわね)に、サイラスは鋭く冷えた目つきはそのままに口角をつり上げる。


 もう悪役が逆転している……。


「そうそう、お迎えが来ているぞ、元外相殿」

「……は?……迎え、そうか!」

 急に元気になるホードルに、サイラスはうなずく。

「ええ。あんたのせいで想い人ととの挙式が延びるかもしれない、とたいそうお怒りな様子のトリアス・ヤール・デ・シュバード公がお待ちだ」

「!!」

 とたんにホードル卿の顔色が変わり、汗も鼻水もとりあえず何の液体かはわからないけど、びっしょりと湿ったまま凍りつく。

「……ば、ばばば……バカな」

 かすかに呟いた一言だったが、もちろんサイラスは聞き逃さない。

「シュバード公爵をバカ扱い。おい、これも報告書に付け足せ」

「かしこまりました」

 装備を持っていない騎士が返事をする。

「ちがっ! 何を勝手に!! くそっ、覚えていろ。必ず……」

 喚き散らすホードルだったが、またサイラスから睨みを受けて押し黙る。

「かってに? そうだな。お前はかってにご禁制の品を持出し、祖国に恥をかかせたんだ。すでに祖国でのお前の地位、財産は没収され、一族全員が聴取されているらしいぞ」

「あ……そんな」

 まだ祖国に戻れば何とかなると思っていたのか、やっと大人しくなる。

「メデルデア国の貴族には死刑がないと聞いた。きっとイイ(・・)結果になると思うぞ」

「!」

 ぐらっとホードルの体が揺れたので気を失いそうになったのだと分かったが、すかさずエージュが腰のあたりを蹴って防ぐ。

「腰が痛くて歩けない、なんて言いだすわよ、エージュ」

「大丈夫でございます、シャナリーゼ様。この辺りは場所さえ間違わなければ背筋が伸びる信号が脳から出るだけでございますから」

 

痛みでしょ、ソレ。


「これ以上待たせると、こちらにまで被害が及ぶからな」

 サイラスがそう言うと、エージュがグイッと縄を持ち上げホードルを立たせる。

 うぐうぐと呻きながら、まるで歩く気がない様子だったが、エージュがひざの裏を蹴るとぴょんと飛び上がって渋々ながら歩き出した。

「さて、俺達も行くか」

「そうね」

 そう言われてふと気が付くが、あの真剣な断罪の中、サイラスはわたくしの手を握ったままだった。


 ちょっと、それってどうなの!?

 黙って思わず聞いていたわたくしがバカみたいじゃない! いえ、むしろ悪役令嬢……。

 それを突入した全騎士達に見られたってことでしょ!? ありえないわ!! 勘違いなさらなでっ! と思いっきり叫びたいんですけど……。

 

「~~」

 目をつぶって深く息を吐けば、サイラスが再び覗き込むように身をかがめる。

「どうした? 気分が悪くなってきたのか!?」

「違うわよ! だから、そうやって軽々しく膝をつくんじゃないって言っているのよ!!」

「お前だから膝をつくんだ。それのどこが悪い」

 ムッとした様子もなく、当り前だろうという顔を向けられて、わたくしは周りの騎士達にどんな勘違いをさせているんだろう、とさらに頭が痛くなる気がした。

「……もう、いいわ。わたくしは大丈夫だから、早くこの気持ちの悪い部屋からでましょ」

「もちろんだ。シュバード公爵がお待ちだ」

 そう言って立ち上がり様に手を引かれた瞬間、忘れていた痛みが構える暇もなく全身にはしる。

「!」

 声はもらさなかったものの、一瞬強張ったわたくしの違和感を感じとり、サイラスは眉間にしわを寄せる。

「ケガをしたな? どこだ」

「大したケガじゃないわ」

「そういえば、履物に細工をしていたようだ、と報告がありました」

 少し先からエージュが言えば、サイラスはすぐにわたくしの足を掴む。

「ちょっと!」

 勝手に触るな、と批難の声をあげるけれど、その先は続かない。

 近くにいる騎士達はサッと顔の向きを変えようとしたが、運悪くガラスを仕込んだ方の靴を先に脱がされて視線が集中する。

 凝視するサイラスに、ばつが悪そうにわたくしは目をそらす。

「……ガラスを仕込んだのか」

「大したケガじゃないわ」

 そっぽを向いたままそう言ったが、実は今でもジンジンと痛みが響いている。

「無茶をするな。傷が残るぞ」

「別にいいわよ。気にしないわ」

「そうだな。俺は傷跡なんて気にしない」

「は?」

 ポカンとしている間に、サイラスは血まみれ(だと思う)の爪先に懐から出した布を巻き付け、処置が終わるとつけていたマントをわたくしにかけ、そのまま膝下に腕を通して抱き上げた。

「え、ちょっと!? 歩けるわよ」

「そんなわけないだろうが」

 わたくしの反対を押し切ってズンズンと足早に歩き、あっという間に部屋を出る。

 とっさに首に手を回すはめになったのだが、サイラスの後ろを付いてくる二人と目が合って、気まずくなってため息をつきながらサイラスの右肩に額をつける。

「……恥ずかしくて気を失うって、そうそうできないわね」

「何が恥ずかしいものか。ホードルやその他の捕縛はシャーリーのおかげだ。お前にケガをさせたことこそ、俺の恥だ」

「だから、気にすることないって言ったじゃない」

「そう言うわけにはいかない」

「……頑固ね」

 男のプライドとか全然わからないわ、と目線を前方へ向ける。

 少し間が空いて、ホードルを引きずるように時々手荒く先を急がせているエージュの後ろ姿を見てから、もうすぐあのビーとか言う無愛想な男がいた場所だと気が付く。

 エージュが角を曲がってから、そういえば、とサイラスに言いかけた時だ。


「ああああ!」


 錯乱したような奇声を上げ、隠し通路でもあったのか、壁のタペストリー裏から短い刃物を持ったビーが突然走ってきた。

 がチャッと後ろの騎士二人の鎧の音がしたが、それより先に扇を持ったわたくしの右手が振り下ろされる。

「ギャッ!」と悲鳴が上がったようだが、ほぼ同時にサイラスも蹴りあげており、あっという間にビーの体は廊下に転がっていた。

「あら、ビー。まだいたのね。もう逃げたかと思っていたわ。そんなに『お薬』が恋しいのねぇ」

「知っているのか?」

「この屋敷に入った時に、一般客を地下に案内していた無愛想なビーという男よ。ほら、あの壁」

 わたくしが指差せば、騎士の一人に縛り上げられたビーがまた奇声をあげたので、口もふさがれてもがいている。

「地下にたくさんあるんですって」

「そうか。その男も連れてこい」

「ハッ!」

 そうやってお荷物まで増えて、ようやく玄関ホールまでやってきた。

 来た時とは違い赤々と明かりがともされ、あちこちでたくさんの人が動く気配がする。

 玄関ホールの真ん中では、大きな塊のようになったホードルがひざを折って座らされており、そのすぐ近くに白いマントの美丈夫が立っていた。

 薄い青色の長い髪はゆったりと飾り紐で毛先で結って肩に垂らし、薄茶の鋭い目で侮蔑を込めてホードルを見下ろしていたが、わたくし達に気が付くとその険しい顔を一転させ、目を見開いて歩み寄ってくる。

「王子、その方がシャナリーゼ嬢か? 怪我をしているのか?」

「“聖杯”に負けまいと、靴にガラスを仕込んでいたようでして」

「なんと無茶を! ディーがあなたはあっと驚くようなことをする令嬢だと言っていたが、こんなことまで……」

 眉を寄せたシュバード公爵は、すぐさま衛生兵を呼ぼうとした。

「シュバード公、こんな場所では彼女も落ち着かないし、治療もあるのですぐに帰してもいいだろうか。彼女からの聴取は明日といことでお願いしたい」

「もちろんだ。だが貴殿には残ってもらわねばならない」

「ええ、わかっています」

 白い見慣れない紋章をつけた騎士とイズーリの騎士が、忙しそうに動き回る中、すいすいと合間を縫って何かを持ったモーテルが姿を現す。

 どうしてここへ、と思って視線を投げるとニッコリと微笑まれ、彼女が手にしていたのは車イスだとようやくわかった。

 サイラスは優しく車イスにわたくしを下ろす。

「痛い思いをさせてすまなかったな、シャーリー。ありがとう」

 そう言って、自然な形で額に軽いキスをして立ち上がる。


「……」


「モーテル、後を頼む」

「かしこまりました」

 わたくしの頭上で簡単やり取りがあり、気が付くとイズーリの護衛騎士に囲まれて馬車に乗り込むところだった。

 モーテルと御者に手伝ってもらい馬車に乗り込み、静かに現場を後にする。

 カーテンで閉め切られた窓の外から、馬の蹄の音がするので護衛も何人かいるみたい。

 ケガをしている足は下に下ろさない方がいいと言われ、行儀は悪いが膝を曲げて座ることにした。

「おケガに響きませんか? 速度を落とさせますが」

「ええ、大丈夫よ。でも、あなたが来るなんて思わなかったわ」

「うふふ」

 笑って駒化しているが、どうやら普通の針子じゃなさそう。

 おそらく靴の細工をエージュに報告したのも、彼女じゃないかなって考えている。まあ、邪魔しなかったからいいけど。

 ふとキスをされた額を思い出し、思わずその場所を押さえると、モーテルが何かを思い出すように口元に手を当てた。

「そういえば――サイラス様のキス、なんだか手慣れておりましたね」

 そう言われると、ついつい意地悪く口角が上がる。

「あら、やっぱりあなたもそう思うかしら」

「サイラス様の恋愛歴はほとんどございませんが……。これも王族の嗜みでしょうか」

「それが本当ならどんだけ女タラシなのよって話だわ」

 クスクス笑うわたくしに、モーテルもつきあって笑ってくれた。


 でもね、この時わたくしは別のことを考えていたの。


額にキスが落ちた時、――あの時ちょっとだけわかったものがあった。

 車イスにわたくしを乗せたサイラスは、去り際に手を握っていた。その手がね、少しだけ震えていたの。

 思い出したのは、最初の婚約で無茶をするわたくしに、何度も苦言を言ってきたお兄様の姿だった。

 苦言ばかりだったお兄様が、婚約破棄になったとたんに謝ってきた。――わたくしの手をきつく握りしめて、震えながら涙を流していた。

 自分に怒りながら、口では謝罪するお兄様。

 そんなお兄様にわたくしも謝罪しながら、心のどこかで少し安心していたの――ああ、まだわたくしはここにいていいのね、と。


 あの時のお兄様とサイラスが重なってしまったわ。


 傷ついた足を、そっとドレスの上からなでる。



 心配させ過ぎたみたい。 ――ごめんなさいね、サイラス。



 言えなかった一言を心の中でそうつぶやき、もう一度あの冷たい唇の触れた感触を思い出して目を閉じた。




☆☆☆




 あれから、わたくしはキズが治るまでモーテルの世話になった――というか、発熱してしまって移動することができなかった。

 途中、泣きそうな顔をしたアンがやってきて、やはりモーテルの肌とか年齢とか、年とか、トシ……に声が出ないほど驚いていたわ。


 レジーはあの晩寝ずに待っており、わたくしのケガを見てお医者様が来るより先に、適切な手当てをしてくれた。お店をしているとよくあること、なんですって。

 手当中は、ぶつぶつと「なんでここまでするのよ。お嬢様でしょ!」と言っていたけど、あとで来たお医者様も太鼓判を押す処置だった。

 そんなレジーは早々にお迎えが来てしまい、十分な挨拶ができないままお屋敷を去っていた。

 傷から発熱したわたくしが目覚めてからでいい、と渋ったそうだが、あの(・・)マディウス皇太子殿下に直に強請った褒美がもらえるのだから、会って数日のわたくしのことなんて放っておいていいのに、と思った。

 レジーはきっと根が優しいのだろう。――口は悪いけど。


 サイラスは外交担当の次兄のアドニス様と一緒に、今回の件をシュバード公爵様に報告、後始末に追われているらしい。もちろん今回の件はひっそりと、あくまでメデルデア国への貸しになるらしい。

 ちなみに、ホードルが実検した被害者の子ども達は、本来の仕事に戻ったキース達によって全員が診察を受け、異常がないことを確認された。


 そして、あの晩から一週間経ち、わたくし達はサイラスのお屋敷に戻ることになった。

 護衛が付き、昼間で目立つ馬車の中で、モーテルがレジーについて口を開く。


「え? レジーのお願いって、貴族になることだったの?」

 

 てっきりお金だと思っていたが、レジーが望んだのは自分の身分だった。

 レジーは七才の時に二才の弟と、とある地方の孤児院に入ったらしい。

 彼女の育った孤児院は寄付経営で、常にその状態は不安定であり、流行病の時は全てが後手に回って最悪の結果を数多く迎えてしまったそうだ。

 結局その孤児院は封鎖され、その後、王都にある貴族有志による孤児院に入った彼女は、そこで将来の夢を決めた。


 弟達のお墓を取り戻す。


 孤児院で亡くなった子ども達は、例外なく裏の共同墓地に埋められた。流行病が大流行してしまい、そのほとんどの子ども達も今はそこに眠っている。

 だからこそ、孤児院が閉鎖された後も買い手がなく放置されているのだ。 

 どんな手を使っても資金を集める、とレジーは貴族や金持ちの愛人となったり、商売をしたりとさまざまなことをして、十年ほど前にとうとうその孤児院の土地を手に入れた。

 朽ちた建物が墓標ではかわいそうだ、とレジーはさらに資金を溜め更地にし、終の棲家を建てる寸前で今回の事件に巻き込まれたらしい。


 終の棲家、というのは自分の妥協だったとレジーが気付いたのは、マディウス皇太子殿下に望みを聞かれた時だったという。

 自分が死んだあと、弟たちのお墓はまた路頭に迷うから、前の孤児院のように代々の孤児が見守っていけるようにしたい。

 花を絶やさず、姿も名前も知らなくてもいいから、かつてここで暮らした子ども達がいることを、どうか忘れないでほしい、と。

 きっとレジーは国経営の孤児院を建てて欲しいと思って行ったのかもしれないが、それには時間がかかる。


『では、お前が建てなおすがいい』


 無茶苦茶だけど、それが一番早い方法だ。


「それで、レジーどうなったの?」

「彼女の所有する土地の領主に爵位はございませんでしたが、最近材木商としての長年の功績が目に留まり、男爵位を授けることが内定しておりました。

 領主は奥様に先立たれて長いことから、レジーを形式上の後妻とすることとし、爵位授与報奨金を上乗せし、孤児院の再建費用とすること、レジーを院長として置き、今後も見守ることを条件になさったのですが……」

 モーテルの伏せ目がちになったので、まさか叶わなかったの? と不安を抱えて聞くと、急に「うふふ」と満面の笑みを見せた。

「それが、謁見に来られた領主様がレジーに一目ぼれされまして!」

「え? あ、そう」

 性格はキツイし年は上だが、見た目は艶めかしい女性だし、ないことはないだろうけど……。

 孤児院の件はずっと父である先代領主も後悔していたらしく、だからこそあのままの姿で放置して自分の戒めにしていたらしい。

 十年ほど前に購入の話が来た時は、先代も亡くなっていたし、妻もなくし身辺整理を兼ねて手放す決意をしたとか。

 それがまた自分の仮初の妻になる女性が持っているのだから、これも運命だとか舞い上がって、息子が止めにかかる勢いで連日押しかけているのだそう。


「レジーは嫌がっているの?」

「いいえ。最初は戸惑っていたようですけど、皇太子殿下にはこのまま進めて欲しいとあらためてお願いしたようです」

「そう。まあ、レジーがいいならいいんじゃないかしら」


 そう言ってわたくしは口を閉ざし、なんとなく窓の外へと視線を投げる。

 そんなわたくしを、アンが不安そうに見ていたのだった。



読んでいただきありがとうございます。


またどうぞよろしくお願いいたします。

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[一言] 作者さん、お元気でしょうか、体調や精神はお元気でしょうか、どうか元気で幸せだと嬉しく思います。もし、もうなろうにいらっしゃらないとしても、今後戻る事が無いとしても、末永く、作品の彼ら彼女らの…
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