勘違いなさらないでっ! 【95話】
遅れてしまいました。
久々8200文字(笑)
ミス・レジーは上機嫌だ。わたくしが驚いたから、と思っているから。
もちろん驚いたわよ――サイラスがキースのふりをしてやってくるなんて、ね!
しかもミス・レジーも、キースをあのマディウス皇太子殿下の子飼いと知っているからか、疑いなんて持っていなかったみたい。しっかり見ればわかりそうなのに、違いがわからないなんて……。
わたくし、その点でも二重に驚いてしまったわ。
――この作戦、本当に大丈夫かしら? と。
レジーとモーテルと一緒に店を出て、数日滞在するという宿泊場所へと向かう。
ちなみにキ……いえ、サイラスは一階でお茶をして時間をずらして合流するらしいわ。
滞在先として案内されたのは、ポルケッシュの館というところ。
どこかで聞いたわねぇ、と思っていたら、サイラスの祖父である大公殿下が滞在している場所だった。
態度にも出さずにいたが、心の中では全力でお断りしたい衝動にかられていた……。
警備兵の守る二重門と重厚な壁に囲まれた敷地に、高低差をつけた木の柵と門で囲ったお屋敷が何件も建っている。
もちろん、それぞれのお屋敷の門にも警備がついている。
「初めて見たわ、こんな所」
「ここは地方の貴族の方も社交シーズンだけ滞在するのに使ったりするそうですよ。高額ですが、王都にお屋敷を建てたり維持したりするくらいならお安いのかもしれません」
「そうねぇ。お嬢様はともかく、針子のあなたじゃ二度とこんなところに来られないでしょうね。せいぜいしっかり目に焼き付けておくことね」
レジーが意地悪そうに笑うと、モーテルは「そうですね」と微笑んだ。
「三十五年生きたかいがございましたわ」
「さ……!?」
サラッとやり返したモーテルは、見事にレジーに一泡吹かせたのだった。
この後、レジーがモーテルに必死に若さの秘訣を質問していたのは言うまでもない。
☆☆☆
借りてあったお屋敷には、三十代くらいの眼鏡の執事とメイド達が手配されていた。
「この人たち全員ボスの子飼いよ。気をつけないと、あっという間に弱みを握られるわ」
意地悪な笑みでわたくしに忠告したレジーは、片手をあげて「じゃあ、またね」と二人のメイドを連れて去って行った。
シャンデリアが照らす暖かな玄関ホールで、わたくしは執事から歓迎の挨拶を受け部屋へと案内される。
豪華な天蓋付きベッドと丸みを帯びた背もたれが印象的な長椅子の応接セット。ドレッサーも三面鏡も曇り一つなく輝いている。
「シャナリーゼ様。お疲れのところ申し訳ございませんが、これより採寸をさせていただけますでしょうか?」
「ええ、いいわ。夜会のドレスはできているのでしょう?」
モーテルの言葉にわたくしがうなずくと、メイドの二人がそえ付けのクローゼットから金糸の刺繍がされた赤いドレスを取り出してきた。
「それから、こちらが仮面になります」
「仮面?」
モーテルがクローゼットから持ってきたのは、箱に入った赤い羽根のついた黒い仮面。
「仮面夜会だったのね」
「表向きは匿名の者通しの交流会ですが、ほとんど誰が何者かは知られている状態のお遊びになります」
わたくしは、先ほど受け取っただけだった招待状を見た。
「主催はフクロウ伯爵? 会場の場所も記載されていないわ」
「夜会は匿名で開催されます。そしてその都度主催者は変わりますが、お互い詮索をしないのがルールです。会場も直前まで伏せられております」
「そう。きっとろくでもない者ばかりが出席するのでしょうね」
モーテルの微笑みが「その通り」と言っていて、わたくしはあらためてため息をついた。
夜会用のドレスの採寸が終われば、次は普段着の採寸です、と結局終わったのは日が傾いてきた頃のこと。
キースに成りすましたサイラスも到着していたらしく、レジー曰く「二人で打ち合わせてね」と別室にて夕食を一緒にとることになった。
「全然打合せにならないと思うのだけど」
あなたの正体がバレるから、と遠まわしに言って、琥珀色のスープをすくう。
「ああ、別にどう呼んでもかまわないぞ。面倒なことになる前に、ここの使用人には通達済みだ」
「……それを早く言いなさいよ。妙な気を使ったじゃないの」
「あの女には黙っているがな」
「あ、そう。まあ言う必要はないでしょうね。他人に使われているあなたを見るのもおもしろいかもしれないし」
「ふぅん」
なぜかニヤニヤしているサイラスを見て、思わず手に取っていたパンを置く。
「別に興味があるわけじゃないわよ。それより彼女は元売人なのでしょう? 信用していいのかしら」
「あの方がそう判断したからそれでいいさ。俺もちょっと見せてもらったが、彼女は中途半端な売人でな。多くの売人が客から金を巻き上げることしか考えないが、彼女の客に廃人はいない。どうやら長く顧客として迎えられるように、ご丁寧にも薬の濃度を調整していたらしい」
「そういえば、憂さ晴らしの場の提供とか言っていたわね。あと合法、とも」
「違法だ」
ムッと眉を寄せたサイラスは、カトラリーを置いて腕を組む。
「大目に見ていたわけじゃないが、彼女はマシなほうだと判断されて後回しになっていたのは本当だ。今回の件にしてはそのことがどこからかホードル卿の耳に入ったらしく、彼女の店に部下どもが接触を試みたのを確認した。
その接触を彼女は二度断っている。抜けを知っている女、とでも思われたのか狙われたこともあり、とうとうこの計画にひきこまれたというわけだ」
「あなたに成りすましたキースが、彼女の怪しい店に通っていたって言うのは?」
「作戦の一つだ。あいつら、俺に薬を売りたいらしい」
「……あの人たち、バカなの?」
まともな頭では考えられない、とわたくしは苦しげに目を閉じてこめかみに指を当てる。
「今までのことを整理すれば、もともとは密売ルートの開拓だけだったが、レジーに接触してきたから俺というエサをしかけてみた。そしたらものの見事に考えを変えたんだ。本当は俺に姫を嫁がせて裏から流そうとしていたんだが、それが見込み薄になったから、今度はお前を狙ってきた。一応、あいつらの中じゃ、お前も俺の共犯と思われているからな」
「とんでもない醜聞だわ! 彼女、本当に信用できるのかしら」
「金銭欲の強い女だが、彼女にはもう一つ絶対に欲しいものがあったらしい。それを褒美に強請って許可されているから、彼女は絶対裏切らない」
「欲しいもの?」
「口止めされているから言わないぞ」
浮かんだのは宝石とかの装飾品だったが、サイラスは意味深に笑って口を閉じた。
☆☆☆
昔、まだ少女だった頃に、誰も知らない人が開催する秘密の夜会のお話を聞いたことがあった。
交友を深めるための、小さな令嬢達のお茶会の席でとある令嬢がまことしやかに話すものだから、ついついわたくし達も顔見合わせて落ち着かなくなった。
夢を見ている間に誘われるのではなくて? とクスクス笑いながら、とある令嬢が言ったことをきっかけに、その場にいたわたくし達は盛り上がった。
今夜から大事なものを入れたバッグを枕元に置いて寝るわ、とか、お気に入りのドレスがすぐ見つかるように用意しておかなきゃ、とか。
怖い、と思ったけど好奇心も同時に出てきて、それこそ物語に出るような妖精の使う魔法のようなすてきな夜会だとばかり思っていた。
ああ、純粋なわたくしの少女時代の夢だったわ……。
本当にどうして誰にも知られずに会場、人員、料理など様々なことが手配できるのか不思議でたまらない。
大人になるにつれていろいろなことがわかるようになると、魔法という言葉では片付かないものがたくさんあり、それは楽しい物だけでなく怖い物もふんだんに含んでいるとわかっている。
開催される会場も今朝届いた手紙によって初めてわかり、今も少なくない人数がやってきている最中だ。
主催のフクロウ伯爵なる人の挨拶もない。
ただ手配された楽団も給仕も全てが簡易の仮面をまとい、階級関係なく好きに踊って、飲み、食べ、歓談している。
「不気味ね」
「仮面の夜会は初めてか?」
「いいえ。でも、こんな秘密だらけの夜会は初めてだわ」
夜会といえば、質の良い物、高価な物、珍しい物を競って身に着けるのだけど、ここではほとんど真逆だ。
ドレスやスーツもたしかに上質のものだが、ある程度のお金をかけると手に入るくらいのものが多く、装飾品もシンプルなデザインのものが多い。
参加者の多くは仮面の他に鬘を使用しているようで、イズーリに多い茶や黒系の髪以外の色が多数いる。
じつはサイラスも鬘は被っていないが、襟足に黒髪を足して一つに束ねている。
さりげなく近づいてきた給仕から、サイラスが飲み物をとる。
小さなグラスを渡されて飲まずにいると、フッとマスク下から見える口角が上がる。
「それは大丈夫だ。ただし、俺が渡すもの以外は念のため口にするな」
「了解したわ」
どうやらサイラスはこの夜会の裏と繋がりがあるみたいだけど、そこは聞かずに黙って従うことにする。
グラスに口づけながらレジーを探していると、誰かが楽団にリクエストしたらしく曲が変わった。
「溶け込むぞ」
「え、ちょっと……」
グラスを置くと、サイラスはわたくしの手を引いてフロアへと引っ張っていく。
すでに六組のペアが集まっており、流れに沿ってその輪の中に入る。
「強引ね。少しは待てないのかしら」
「踊らないで、ボーっとしているだけの方が目立つからな」
「……無理しないでよ。まだ完治してないんでしょ」
「おや、心配してくれるのか?」
「あなたの介護なんてまっぴらごめんですからね」
くるっと回って男性の胸の中におさまるターンだったので、一度上目づかいで睨んでおく。
「……わかった」
そう言ったサイラスの顔(口元しか見えないけど)が、なぜかほんのり赤くなっていた。
照れる場面じゃなくってよ!
ここで、なにかしらの面倒なスイッチが入ったらしい。
ダンスが終わっても、サイラスはいっそ馴れ馴れしいくらいにぴったりわたくしに寄り添っていた……。
まあ、微妙な距離感のある男女なんて、何かの思惑があってきたんだと感づかれるからこの方がいいのかもしれない。
少しずつだが移動しつつ「こんばんは」と、サイラスが声をかける。
この夜会では自己紹介などしない。ほとんどが名前を呼ばずに会話をするらしい。そうしてサイラスが、三組とたわいのない話しを終えた頃だった。
「こんばんは」
わたくしの後ろからレジーの声がした。
首をかしげるようにゆっくりと振り向くと、そこにはオレンジと茶色のドレスを着て黄色の花を散りばめた仮面をつけた女性が一人で立っていた。
「星の便りはまだですの?」
口元を扇で隠して、あらかじめ決められた合言葉を言う。
「熟すのをいまかと待っております」
釣れたわよ、と言う意味の合言葉が返ってきた。
わたくしはサイラスの腕に自分の腕をからめて合図を送り、ゆっくりと体ごと振り返る。
「黄色の身が赤く色づきそうですの」
ホードル卿は警戒心より焦りが多い、とレジーが言う。
「まあ、ぜひ見たいわ」
チャンスじゃない? と返して、サイラスを見る。
「熟れ過ぎよりいいだろう」
逃すな、という合図でレジーが動き出した。
人混みの中にまぎれたかと思えば、体格のいい男性の腕にしなだれかかって歩いて行く。
その二人をさりげなく追って歩き出すと、サイラスがそっと顔を近づけてきた。
「二人、別の方向から様子をうかがっているな」
「あらそう。でも危害を加えるつもりはないのだから、堂々としていればいいのよ」
「お前らしいな」
クスッと笑われてしまったが、わたくしだってある程度なら数をこなしておりますので、こんなところで妙な緊張をして失敗なんてしないわ。
どうやらレジー達は、会場の奥に用意された長椅子に座るつもりらしい。
給仕から飲み物をもらってくつろぐ二人へ、同じ給仕から飲み物をもらって近づいて行く。
「こんばんは」
「こんばんは。こちらへいかが?」
わたくしが声をかけると、レジーが並ぶ長椅子へ座るよう促す。
小さな丸いサイドテーブルを挟んで、わたくしとレジーが横に並ぶように座る。
こうすることで、話の中心は女性だと周りに思わせるのだ。外側に座るお互いのパートナーは、女性に付き合い座っているという見方になるだろう。
レジーと打ち合わせたのはここまでだ。この先は自分で考えて成功させてちょうだいな、とずいぶん上から目線で言われた。
だから、わたくしらしくいかせてもらう。
「そうそう、この間雛鳥を助けたの。元気だといいのだけど」
レジーに伝わらなくても、ホードル卿にはちゃんと伝わったのだろう。
ぐふっと気味の悪い吐息とともに、ゆっくりとこちらを向く。
「あなたのような美しい方に助けらえたのなら、その雛鳥は誰かに自慢したくて騒いでいるかもしれませんな」
ええ、ええ。言いたいことはわかるわ。
今まで従順だった姫様が、今は自分の意志を曲げずに堂々としていて厄介だと言いたいのでしょうね。でも、それが普通だと思うけど。
「親鳥からお礼を頂いたから、いつかお礼を言わなくてはと思っていますの」
「どのようなお礼をお考えで?」
「そぉですわねぇ」
わざと考えるように言葉を切り、クスリと笑って扇で口元を隠す。
「鳥は踊りが好きなのかもしれません。一曲くらいなら、お付き合いしてもいいかと」
「あなたのような方と踊れるのなら、鳥は喜んで舞うでしょう」
ああ、今夜帰宅したら、あの贅沢なお風呂の湯を入れ替えるほど思う存分使わせてもらわなきゃいけないわねぇ。
フロアの曲が変わる。ダンスへと誘い合う合図だ。
ホードル卿が重そうなお腹を抱えて立ち上がり、わたくしの前へと手を差し出す。
その手を取って、わたくしはフロアへと向かった。
ゆっくりとしたテンポのダンスを踊りつつ、わたくし達は目を合わせることも、話しかけることもない。
ああ、この人がデブで良かったわ。痩せていたり、中途半端な体型だと、密着したら体のほとんどをふれ合わせなきゃならなくなるもの。
そこいくとホードル卿のお腹はよく出ている。彼との密着する接点は、たっぷりと身のつまっていそうなその部分のみ。
「まずは今までのご無礼を」
突然始まった会話に、わたくしはゆっくりと目を合わせる。
「いいえ、気にしてはおりませんし、お立場を考えると正しかったかと」
「寛容なお心をお持ちで! わたしの仕える姫にもお聞かせ致したいものです」
「姫様の婚約はもうよろしくて?」
「ええ、それはもちろん。あなた様のように国を渡って追ってくるお相手様がいらっしゃるのですから、我が国の姫では役不足かと身に染みております」
「ふふふ。ありがとう」
いい感じに勘違いしているから、今はこのままにしておくわ。
「……わたくし達のことを嗅ぎまわっておいでのようですけど」
「嗅ぎまわるだなんて。ただ、お役にたてれば、と思ってのことです」
「……彼女はあなたの話を聞くに値すると判断したようだけど」
チラッと長椅子に残っているレジーを見て、意地悪く口角をあげる。
「どんなお役にたてるのかしら? 他の国でも失敗したそうじゃない」
「そ、それはあなたのような方がいらっしゃらなかったからですよ! 最初は乗るのですが、すぐに怖気づいて言葉を濁すばかり……」
わたくしが知らないとでも思っていたのか、ごにょごにょと語尾を小さくし、フーフー言いながらうめいている。
「情報の少ない国から来られたのですもの。わたくしだって警戒しますわ」
「知られていない国だからこそのモノがあるのですよ」
焦りを誤魔化し、自信たっぷりに笑みを浮かべる。
「あの方の率いる兵の統率力はすばらしいものです。ですが、我々はあんな統率力が成人してすぐの者にないことも知っています。ですから、これは我が国の神殿兵の統率の仕方と同じだ、と気が付いたのです」
その物言いに、嫌な予感がして口から笑みを消す。
そんなわたくしを自分のいいように解釈したらしく、ホードル卿はやや音を外しつつも一生懸命に足を動かして笑顔を見せる。
「どんなものも長く使えば免疫ができてしまいます。ですが、我が国の秘匿とされるモノは中毒性もなく、多様な使い方ができるのです。きっとお気に召されるかと。あとは」
「ああ、終わってしまったわ」
拍手とともに、それぞれがフロアの中央から去って行く。
ぐぬっと不服そうに噛みしめながらも、型通りにわたくしを連れて歩き出す。
たしかに時間は足りなかったし、まだもっと興味を持たせてからと言う気はしたが、これ以上の接近はこの夜会中には見込めない。
しかたない、とわたくしはエスコートしている手に指をからめる。
それにこたえるようにホードル卿が歩みを緩めたので、わたくしは少しだけ寄り添う。
「わたくし、刺激がほしいの。先に試させてくれないかしら?」
「楽しい夢をみるような甘いものですよ」
「すてきね。でも、あの人に見せる前に感じておきたいの」
ごくっとホードル卿ののどが鳴ると同時に距離を保ち、サイラスへと片手を上げる。
「青の時間に、と彼女へ伝えて。期待しているわ」
ささやくように言い残し、わたくしはするりとホードル卿の側から離れて行く。
立ち上がったサイラスに腕をからめ、再び顔を見せることなくわたくし達は夜会を後にした。
馬車に乗り込んで仮面を外すと、予想通りの仏頂面があった。
「すごい皺ねぇ」
おかしくて、おもわず指でサイラスの眉間をなでてみる。
その手をパッととられて、サイラスが唸るように言う。
「くっつき過ぎだ」
「あら。今回はお腹が立派だったから、そうでもなかったわよ?」
「指を絡めただろう」
さっきとったわたくしの手を自分の頬に当てる。
「妬かないでちょうだい。あれは必要なことだったのよ。これ以上妬くようなことがあるなら、さっさとキースと交代してちょうだい」
「まだ何かやる気か!?」
ぎょっと目を見開いたサイラスに、わたくしは呆れたようにため息をつく。
「当り前じゃない。わたくし達は本物を手に入れなきゃならないの。レジーにもバカにされたくないし」
「……シャーリー、お前、レジーに対抗しているだけじゃないか」
「フンッ! 女にも負けられないものがあるのよ」
ちょっと呆れた様子のサイラスから自分の手を引っ張り、腕を組んで横を向く。
「帰ったらたっぷり時間をかけて湯あみするわ。何かあっても邪魔しないでよね」
「ああ、ああ。たっぷり時間をかけて洗うといいさ」
☆☆☆
モーテルってば顔だけでなく、もちもちで赤ちゃんのような極上の肌の持ち主なのね!
「なんて気持ちがいいのかしら」
「ふふふ。くすぐったいですわ」
うっとりするわたくしの前には、たっぷりの泡でさらに滑りが良くなったモーテルの白い背中がある。
肩からすぅっと下に手を滑らせると、なぜか幸せな気持ちになる。
「あ、そこは! 最近ちょっと年のせいか引き締めが難しくなりまして」
モーテルが恥ずかしがっているのは、腰の部分。
「誰だって座れば腰は柔らかくなるわよ。でもモーテルの柔らかさは絶品だわ!」
「ああ、そんな。恥ずかしいですわ」
……あれ、どうしてこうなったのかしら。
ちょっとだけ我に返ったのだけど、確か最初はモーテルが体を洗ってくれるっていうからお願いしたんだった。
だって今日はとにかく磨きたかったの。あの不快な感触やにおいを消すために。
そして最初はわたくしは全身を洗って、そうそう、マッサージを施されたの。
暖かなオイルを滑りに使ってもらっていたら、そこで気が付いたんだわ。モーテルの上質な肌に!!
とっさに何も言わずにモーテルの手を握りしめたら、驚いた彼女がオイルをこぼしてしまって、それでどうせならとわたくしが一緒にと誘ったんだったわ。
これで良かったのかしら、とモーテルの肩を揉みながら考える。
「……」
まぁ、いいか。
「あ、モーテルってばここ固いわ!」
「あ、そこはっ!」
「疲れているのね。せっかくの肌が台無しだわ」
「はぅっ……!」
「大丈夫よ。わたくしマッサージはたくさん受けてきたから、なんとなくわかるのよ」
「あぁっ!」
妙に色っぽい短い吐息を漏らし、モーテルはなすがままに揉まれた。
まあ、わたくしってばマッサージの才能もあるみたい。
それから時間をたっぷり使って、納得いくまで自分を磨いてから部屋に戻ってくると、待機していたメイドが二人顔を赤らめて立っていた。
そして、わたくしの後ろには顔を上気させたモーテル。
「……!」
――勘違いなさらないでっ! わたくし何もやましいことはしておりませんわよっ!!
読んでいただきありがとうございます。
次も場面は動く予定です。
シャナリーゼ頑張ります!!




