勘違いなさらないでっ! 【90話】
お約束。6月2回目。
今回は手紙から始まります。
()は手紙の受け取り主の解釈です。ご注意ください。
~ エディーナ様へ
大変ご無沙汰しております。
さっそくですが――(まあ、ようするに、あの日のパーティーであなたが言っていたお望みの太いパイプをご紹介するわ。でもね、タダじゃないの。
今あなたが嫁ぐ国の腹黒外相が、あっちこっちで良からぬことをしているのよ。
もう、本当に迷惑な話だけど。
しかもその迷惑をわたくしがかぶっているわけなのよ。本当に頭にきているわ。
このままだと、あちこちの国で問題を起こしてあなたの婚約者様が駆り出されるのも時間の問題ね。そうすると、来春の婚儀なんてやってられないはずよ。これ以上の行き遅れは嫌でしょう?
だからね、サイラスの手紙を同封しているから、それを最短でシュバード公爵様へ渡して欲しいの。そして最速で動いてほしいの。
あなたの恐妻家の片鱗を見せれば大丈夫でしょうけどね。
それでは約束は果たしたわ。あとはよろしく)
シャナリーゼ・ミラ・ジロンド より ~
☆☆☆
~ シャナリーゼ様へ
風が寒さを伝えてくる季節になりましたが――(って、いうか、あなたどこに雲隠れしたかと思えば、イズーリにいるなんて驚きだわ!
はっはーん、さてはやはり恋しくなって未練タラタラで追いかけたってわけね。
いろいろ聞きたいことはあるけど、あのタヌキ外相なにしてくれているのかしら!
あなたは知らないでしょうけど、ライルラドに来た時もなにやら怪しい薬を『秘薬』として紹介していたらしいわ。
しかもわたくしへの挨拶の際は値踏みされているようで、思い出しただけでも腹だたしいものだったわ!!
鎖国=聖なる国とでも思っているのかしらね!?
聖なる存在ならルーク教(世界の主教ともいえる)のルクアート様に決まっているじゃない。鎖国でもさすがにそこは知っていて当然のはずよね。知らないのかしら。
そうそう、ルクアート様には何度か式典でお顔を拝見する機会があったのだけど、本当に左右の目の色が違って、雰囲気もなんていうのかしら、こう、優しいのだけど近寄りがたいっていう感じだったわ。声なんてかけられても、きっと意識が飛んじゃうわぁ。
あら、話がそれてしまったわ。
で、トリアス様にサイラス王子のお手紙を送ればいいのね。
ちょっと聞くけど、レイティアーノ姫ってわたくしのトリアス様に横恋慕していて、妹の婚約者を盗っておきながら今も積極的にアプローチしているっていうアリブール姫がライバル視している妹でしょ!?
姉に婚約者を盗られて、そして今度はカモにされてって、正直頭悪いんじゃないの?
お人形じゃないんだから、ちゃんと自分の意志を持って生きることを躾といてね。
身内の問題でトリアス様の心労が増えるのは嫌なのよ。ほら、わたくしってば気遣いのできる『妻』になり『母』になりますの。ホーッホッホッホ!
では、手紙の件はまかせてちょうだい。
あなたはそちらの国で、しっかり、ぎっちり太いパイプを繋げて帰って来てね。
それではごきげんよう)
エディーナ・アニエラ・ワーゴット より ~
☆☆☆
~ エディーナ様へ
(ちょっと、未練タラタラなんてなくってよ。こちらに来たのはウィコットを守るためよ。あのわがまま公爵娘のせいですからね。この件はライアン様にみっちり説明してもらうつもりよ。
それから、だれが気遣いできる『妻』ですって? 口うるさいだけじゃない。
レイティアーノ姫のことは王家の家庭教師のせいでしょ。もっと言うなら、その家庭教師の選考に問題があるはずよ。
だいたい母親が上下関係意識し過ぎなのよ。それに謙虚さがないわ。
姉姫も正直ひがみの塊ね。かわいそうだわ。そんなに自分に自信がないのかしら。
とにかくそんな姉姫なんて、あなたの敵じゃなさそうだから心配ないわね。
今は遠距離だからもやもやしているみたいだけど、人の婚約者を盗るくらいの小者なんて人の器が知れているわね。
いいわね、あなたの嫁ぎ先はおバカばっかりで楽そう。
それと、わたくしはもう誰ともお知り合いになるつもりはないわ。
わたくしはあの腹黒外相からずいぶん嫌われているから、正直外は危ないの。
だからサイラスのお屋敷でずっと引きこもっているから、あなたのご期待には応えられないわ。ごめんなさいね。
それでは、ちゃんと訂正したわよ。余計な噂をたてないでね。
婚期が遅れないことを祈って。ごきげんよう)
シャナリーゼ・ミラ・ジロンド より ~
☆☆☆
~ シャナリーゼ様へ
(なにが『謙虚』よ。あなたほどこの言葉が似合わない人はいなくってよ!
わたくしは『口うるさい』のではなく、自分の意志を明確にきちんと言葉にできる、ただそれだけでしてよ。
無駄吠えして、キーキー喚くバカ女と一緒にしないでほしいわ。
あ、そうそう。トリアス様からお手紙が届いたの。
一緒に息子さんからのお手紙も入っていたの! すっごく読みづらいけど、一生懸命書いている必死さが伝わってきて、本当に涙が出るくらいうれしかったわ。
まあ、あなたにはこの気持ちが分からないでしょうけどね。
この一瞬だけはトリアス様より、息子のキール様へ心が傾いてしまったわ!
あ、言っときますけど『心』といっても『家族愛』よ。トリアス様への愛は不動のものなのよ!!
だって書いてあったもの。
『君との婚儀を遅らせはしない』ですって!!
きゃぁああああ! なんてステキなのかしら!!
と、いうわけで近々サイラス様のところにもお手紙が届くはずよ。
わたくし達の婚儀に関わるんですから、きちんとバッチリ最後まで気を抜かないで終わらせてちょうだい。
……失敗なんて許さないわよ。
それでは、ごきげんよう)
エディーナ・アニエラ・ワーゴット より ~
☆☆☆
「あいかわらずうるさい手紙だこと」
はあ、とため息をつきつつ「はいどーぞ」と、長椅子の横に立つサイラスへ雑に渡す。
実は、エディーナへ手紙を渡すということで一つだけ条件がついた。
サイラスはエディーナを知らないので、その文面から人格を探るというのだ。
つまり、来た手紙をサイラスの前で開けて読むことが条件。しかも、エディーナへの手紙についても、サイラスの目の前で書く。
基本的にサイラスは、わたくしが書く内容について何も言わない。
と、いうかこれは一往復限りの手紙のやりとりの予定だったはずなのに、ポンポンとやり取りをしてしまっていた。
きれいごとを並べた言葉の裏で、お互いものすごく言いあっているのだが、サイラスはそれを面白そうに眺めている。
「毎回楽しい手紙だな、シャーリー。マニエ嬢とはまた一味違うタイプだが、エディーナ嬢も末永く付き合っても退屈しないタイプのようだ。」
「マニエ様と一緒にしないでちょうだい。エディーナとはどんなに頑張っても春でお別れよ。マダム・エリアンに頼んでいる変な奇抜な髪飾りを贈ったら、それっきりお別れなの」
「できるといいがな」
「できるわよ。どうやら婚約者様との仲も、聞いていた話よりずいぶん深くなっているようだし」
クスッと笑うサイラスをムッとして睨むと、一枚の手紙が目の前にぶら下げられる。
「これが、今日届いた。――シュバード公爵からだ」
「まあ。エディーナったらやる時はやるのね!」
「……お前の中のエディーナ嬢の評価は相当低いんだな」
「苦手だったけど、今度から『そんなに好きじゃない』くらいに格上げしておくわ」
「……そうか」
苦笑しながらサイラスはエージュからペーパーナイフを差し出され、シュッと切ってから中身を取り出す。
数枚重なっている手紙を無言で読んでいくサイラスの顔は、最初は険しい顔で始まりやがてホッとした顔になるが、最後は片手で両目を覆って頭を後ろにそらして長い息を吐いた。
どうしたのかしら、とは思ったが、とりあえず黙っておく。
エージュが動き、冷めたアップルティーを温かい物と交換してくれた。
「……内容的には望んだものなんだが」
そう言いながら、サイラスは片手を下ろしてもう一度手紙に目線を下ろす。
「日程調整が必要だな。エージュ、春の軍事演習についての会議は入っていたな」
「来月には予算案提出です」
「演習日調整の根回しを頼む。シュバード公爵より挙式出席依頼がきた」
「了解致しました」
クスッとおもわず笑ってしまう。
「あらあら、予想以上に太い伝手ができたようね。結婚式に呼ばれるなんて!」
シュバート公爵が招待し、エディーナとも話せばあちらの国の中で十分効力を発揮するだろう。
これでエディーナの欲しい物もそろった。
我ながら完璧な仕事をしたわ、と微笑んでいたら、ニヤリと意地悪く笑ったサイラスに手紙を突きつけられる。
「お前も他人事じゃないぞ、シャーリー。シュバード公爵はお前にもぜひに、と仰せだ。親友の晴れ姿をぜひ見に来て欲しいそうだ」
「はぁああ!?」
うそでしょ! とガバッと前のめりになって手紙を見ると、サイラスが指差した所に、たしかにそんな一文が……。
「嫌よ!! 誰が親友なものですかっ!」
「ワーゴット公爵家には、エディーナ嬢が話をつけるそうだ」
「大至急手紙を送るわ!!」
このさいメモ紙でいいわ。紙とペンはどこ!?
「シェバート公爵もシャーリーに会いたいそうだぞ」
「嫌よ!」
即答すれば、サイラスは「おいおい」と困ったように肩をすくめる。
「俺達がずっと接触したくてできなかった相手だぞ。そう無下にするな。会っておいて損はない。絶対に」
「あるわ、大ありよ!! エディーナから何を言われているか知らないけど、わたくしは今後一切関わる気はないわ」
「招待状がくれば、お前の家は断れないはずだ。あきらめろ。それに、エディーナ嬢に『貸し』が作れるだろう?」
「うっ」
家のことを言われれば、わたくしも黙るしかない。
今までも、そして今現在最大級に迷惑をかけているし、ワーゴット公爵家からの話まで断れば、お父様もお兄様にもさらに迷惑をかけることになる。
くぅっと、悔しい気持ちを噛みしめ、どうにか押し込んで肩を落とす。
「……招待状が来たら、考えるわ。出席しても、きっと笑顔なんて出ないでしょうけど」
「俺に会った頃のように胡散臭い笑顔でいいじゃないか」
「胡散臭くてわるかったわね」
「エディーナ嬢は主賓だからな、今のうちにレイティアーノ姫と仲良くなっていれば、当日も暇しないだろう」
「仲良くなんてならないわ。それに、王族の結婚式だから、あの問題児姉姫様とやらも当然出席よね。最後まで悪あがきしそう」
「さあな、と言いたいが、よほど諦めの悪い姫のようだな」
「ほほっ! あのエディーナをどうにかしようなんて、鎖国育ちのお姫様にできるかしら」
アリブール姫とやらを前に、どこまでエディーナが猫かぶりを見せるかしら。
きっと裏でネチネチとやるに違いないわ。
手紙から察するに、夫となるシュバード公爵もエディーナを注意することはなさそうね。いいわね、エディーナ。嫁ぎ先でのうっぷん晴らしは不自由しなさそうよ。
「では、先にドレスを作ろう。春とはいえメデルデアは北国だ」
どこか嬉しそうに笑顔になるサイラス。
「ちょっと、いらないわよ」
「気にするな。婚約者にドレスを贈るのは当然の義務で権利だ」
「婚約者!? 誰がよ! わたくしは一度もうなずいていないわよ。惨敗中のクセによく言えるわね。ナリアネスのお見合い惨敗記録に並ぶんではなくて!?」
「そうなる前にお前がうなずけ」
「嫌よ」
フンッを向いても、それ以上は言ってこない。
不敬だと怒り、罵ったりもしない。
そぉっとサイラスの様子を伺うように目を向ければ、黙って楽しそうに笑っているだけのいつもの態度。
……本当に、どこまで本気なんだか。
「とりあえずドレスはこちらでも用意する。ライルラドに帰ってから用意してもいい。出来上がりの好みで着ていけばいいさ」
「鋼鉄入りは嫌よ。ドレスって重いんですからね」
「残念、新改良したもので試したかったんだがなぁ」
絶対ウソとわかるような、おどけた感じで言うサイラスを睨みつけて腕を組む。
「で、本題に戻るけど、これからどうするのかしら」
「もちろん罠にはめるさ。まあ、それはちょっと考えていることがある」
ニヤニヤと笑うサイラスは、どこから見ても悪役。
「……なんだか楽しそうねぇ」
あの腹黒タヌキが悔しがるのを想像すると、自然とわたくしも笑みが――ニヤリと浮かんだ。
「うふふ……」
「ククッ……」
たまらず、といった笑いをどちらともなく出した後、お互いを見てまた悪い笑顔で目線を下に向ける。
――お二人とも、すっっごく怖い笑みですよ。似た者同士ですか。そうですか。
心で強く思っても、絶対口に出さないエージュであった。
読んでいただきありがとうございます。
また週末に向けて更新させていただきます。
またシャーリーが「ついつい」動いていく気配がします。




