表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/24

第19話 ノブに相談

 陽菜は俺の顔を見て、下を向いて、横を向いて、なんだか落ち着かない様子だ。結局、陽菜は先輩が大丈夫なのか心配しているということか?


「陽菜は、もう余計な口出しはしないほうがいいってわかってるんだけど…」

 陽菜はまた口を開いた。それから俺の顔を見ると、

「陽菜もよくわかんないんだけど、でも、きっと陽菜がっていうより、ハル君がどうしたいかなのかなって」

「え?なんで、俺?っていうか、俺がどうしたいかってどういうこと?」


 思わず咄嗟にそう聞いていた。本当にいきなりのことで、陽菜が何を言いたいのかわからない。ただ、自分のことを陽菜という時の陽菜は、かなり焦っているってことだ。それだけはわかる。さっきからそわそわしているし。俺がきつく言ったわけでもないのに、陽菜はそのさきの言葉を言うかどうかを躊躇している。怖がっているようにも見える。


「何?陽菜が言いたいことがわかんないんだけど」

「ハル君が本当に先輩のことを大事に思っているなら、そばにいてあげて力になってあげたらいいって思うし。でも、そんなに思っていないのなら、変な噂が流れないようにそばにいないほうがいいと思うし…」

「………俺がそばにいて力になる?俺がそんな先輩の力になれるって思うわけ?」


「うん。だって、ハル君はなんていうのかな。一緒にいて安心って言うか、落ち着くって言うか、そういうの持っているから」

 うそだろ。どっちかって言えば、その逆だろ?今も陽菜は落ち着かない様子でいるじゃないか。


「あ、待てよ。俺がそばにいることで、俺と先輩が付き合っているだのって、そんな噂が広まることになるかもしれないんだろ?」

「うん」

「それは先輩にとって、いいことじゃないんじゃないのか?先輩は俺より、友達とかが欲しいかもしれないんだろ?」


「いっそ付き合っちゃえばいいんじゃないのかな。噂ではなくって、本当に付き合う」

「はあ?それでも、高校1年の男子をたぶらかしたとか言われるかもしれないんだろ?」

「そこをハル君が守ってあげる」

「あ~~。わけわかんないこと言うなよ。だいたい、付き合うかどうかは先輩が決めることじゃん。俺なんかと付き合う気なんかないだろうし…」


「わかんないよ。真剣にハル君が思えば、先輩も真剣に考えてくれるかもしれないよ?それに、私、応援するし」

 またか…。目をキラキラさせて、応援するって言ってきたけど、どうして陽菜はそういうことばかり言ってくるんだ?それに、なんだって首をつっこみたがるんだ。


「余計なお世話だって、自分でもわかっているんだけど…。でも、ハル君は私の大事な幼馴染だし、先輩もきっといい先輩だし…」

「だから、二人が付き合ったほうがいいと思うってこと?だけど、先輩が好きなのは俺じゃなくて先生なら、本当に大きなお世話だろ?先輩に迷惑なだけじゃん?」

「先輩、古谷先生のこと、もう諦めているかもしれないし。諦めていなくても、そこをハル君の力で…」


「もういいよ、陽菜。俺は先輩と付き合う気なんてサラサラないから」

「………」

 陽菜は黙ったが、目は何かまだ言いたげだった。


「変な噂がたっても迷惑だろうし、屋上にももう行くのやめるから」

「え?で、でも…」

「先輩だって、一人で食べたいかもしれないしな」

「そうなのかな」


「寂しそうだと思うなら、陽菜が一緒にいてやれば?女子なら変な噂も出ないだろうし、いいんじゃないの?」

「…。ハル君は、それでいいの?」

「俺は別に」

 そう言いつつ、内心は残念がっている。


 先輩と屋上で話せるようになったこと、喜んでいたから。それも、話せるだけでいいと思っていた。だけど、話せるだけの間柄って、いったいなんなんだ。友人か?先輩後輩の仲か?

 わからない。はたから見れば、それも付き合っているとか見られるのか?そういうの面倒だ。


 面倒?いや…。どっかで先輩に迷惑をかけて嫌われたくないとか思っているのかもしれない。


 陽菜が帰ってから、俺は一人でベッドに寝転がって考えていた。

 昼休み、屋上に行けなくなっても、公園に行けばいいんじゃないのか。


 あそこなら、朝早くから同じ高校のやつが来ることはないだろうし…。

 そんな考えが浮かび、なんだか情けないような気になった。先輩と噂されるのは困ると思いながらも、先輩と離れることも残念がっている。どうにか、なんとかして、先輩との縁をつなぎとめておきたいと願っている。


 悶々とした。自分で何をしたいかも、よくわからなくなった。

 このままの関係を続けたいのか。もっと先輩との距離を縮めたいのか。先輩と話せるだけでいいとか言っていたけれど、それすら、やめたほうがいいのか。


 どうしたいんだ?俺は。どうしたらいいんだ?


 悶々としたものは、ずっと消えなかった。翌日は昼休みに屋上に行かず、食堂の片隅で一人で弁当を食べた。朝の散歩も週末になっても行かなかった。

 手嶋が先輩が当番だと言っても、図書室に行くこともできなくなった。なんで散歩に来ないのか、屋上に来ないのか…なんて、先輩が聞いてくるわけもないだろう…とか思いつつ、聞かれた時の理由に困るからだ。


 悶々は続いた。このまま、もしかしたら、先輩との縁も切れるのか…。

 それと同様、俺は陽菜とも一切口を利かなかった。なぜか陽菜も俺の方に来ることもなく、陽菜からも話しかけて来ることはなかった。


「喧嘩?」

 金曜日の帰り道、俺の横を勝手に歩いている手嶋が聞いてきた。

「え?」

「安藤さんと喧嘩でもしたわけ?」

「いや、別に」


「じゃ、なんで話もしないわけ?」

「さあ?」

「さあって…」

「俺ら、別にそこまで一緒にいるわけでもないし。陽菜は五十嵐たちと一緒にいるようになったんだから、わざわざ俺の方に来ないってだけだろ」


「仲いい幼馴染なんだろ?あ、そっか。家に帰れば、家を行き来したりしているのか。いいな」

 いいな?なんだ、それは。

「そういうのもない」

 きっぱりとそう言うと、手嶋がな~んだ…と、声だけはつまらなそうなのに、なぜか口元は緩ませていた。


「陽菜ちゃんと何にもないっていうなら、あれかな。俺もチャンスがあるってことか?」

「……」

 陽菜とこいつは付き合いたいのか?陽菜は体が丈夫じゃないし、そういうのは…。と言いかけたが、俺は黙っていた。それこそお節介ってやつだ。だけど、もし、本気で付き合うことを考えているとしたら、やっぱり、その辺はちゃんと話さないとならないんだよな。


 モヤ…。ここでも、なぜかモヤモヤした。手嶋なんかが、陽菜のことをちゃんと大事にできるとか思えない。ああ、なんなんだ、これは。まるで俺は陽菜の保護者かよ…。


 土曜、朝起きると快晴だった。先輩は散歩に行っているだろう。俺が公園に行かなくなったのは、単なる寝坊か…、早起きも3日坊主か…くらいに思っているかもしれないよな。俺ばかりが悶々としているんだろうな。


 あ~~~~~!でも、この、悶々はどうにかしたい!

 と、そこにまたラ昼過ぎ、ゲームしに行く」とノブからラインが送られてきた。

「ノブが来るのか…」

 一緒の高校の手嶋にも、他の奴にも先輩の話がしにくいが、ノブなら話してもいいかもしれないな…。あいつがどう言ってくるか、まったく見当もつかなかったが、俺はノブ相談することにした。


 昼過ぎ、ノブがチャイムを鳴らし、ドアを開けると険しい顔をして立っていた。俺のことも睨んでいるように見える。

「何?機嫌が悪い?」

 俺もついムッといてノブにそう聞いた。


「ん~~」

 ムスッとしたままノブが家に上がってくると、リビングにドカッと座った。

「陽菜も誘ったら、行かないって言われた」

 それで機嫌が悪いのか?

「体の調子が悪いのかと思って電話したら、様子がおかしかった。お前、何か陽菜にした?」


「何もしていない。ただ、最近あまり話していないだけで」

「あいつ、嘘がつけないだろ。予定はないけど、出かけるかもしれないし、とか、元気だけど、家にいるかも、とか。支離滅裂になってた」

 なるほど。そりゃ、ノブも気になるよな。ほんと、あいつは、嘘をつくのが下手なんだよな。


「ま、いいや。今日は俺の部屋来ない?話したいことあるし」

「話?陽菜の事か?」

「まあ、ちょっと陽菜も関連しているって言えばしている。とにかく、相談に乗ってくんない?」

「相談?!」

 ノブが目を丸くした。なんでだ?


「お前が俺に相談って、初めてじゃね?」

「そう…だっけ?」

 俺はすっとぼけて、さっさと先に階段を上った。

「何?何?深刻な悩み?」


 ノブは部屋に入る前から、うるさく聞いてきた。

「いいから、ここ座って。いや、どこでもいいから座って」

 一度床を指さしたが、こいつは床に座った試しがないことを思い出した。案の定ベッドの上にあぐらをかいてノブは座った。


 俺は勉強机の椅子に座り、ノブの方に向き、何から話すか考えだした。

「まさか…と思うけど、陽菜がクラスで何かあって…とか?」

 ノブが真剣な顔をして聞いてきた。

「いや、陽菜は関係ないって言えば関係ない」


「なんだよ、いったい」

「図書委員の先輩…」

「3年生だったっけ?」

「そう。瀬野先輩…」


 いきなりノブは静かになった。そして、俯いてはあっと息を吐いた。

「まさか、コイバナ?」

「……」

 今度は俺が黙った。少し照れくさくなったが、ノブの顔がやけに沈み込んだ気がして、それが気になり始めた。


「聞く気ないとか?」

「いや…。お前が相談とか珍しいし、ちゃんと聞くけど」

 ノブは顔を上げ、真剣な顔つきをした。

「コイバナっていうか…。そんなたいしたもんじゃない。ただ、ずっとモヤモヤしていて、どうしたらいいのか自分でもわからなくなっているだけで」


「告白するかどうかの悩みとか?」

「そ、そういうんじゃない。う~~ん。順を追って話す。陽菜に言われてから、モヤモヤしたのは確かで…」


 俺は、気になっている先輩と屋上で昼を一緒にしていたことと、朝、公園で犬の散歩をしている先輩と数回会っていたこと。先輩が古谷先生を好きらしいこと。その古谷先生と噂が流れて、古谷先生が学校を辞めさせられそうになったこと。それらのことを一気に話した。その間、ノブは特に何も声を発することはなかった。


 それから、陽菜に言われたこともそのまんまノブに話した。そして、屋上に行くのも公園に行くのも図書室に行くのもやめて、今は先輩に会っていない事。だけど、それが果たしていいことなのか、俺はどうしたいのか、いまだにわからなくて悶々としていること。そこまで話して、一回黙り込んだ。


「で、何?相談って」

 ノブがようやく声を発した。

「え?だから、どうしたらいいかわからなくて」

「そんなの、俺に聞かれてもわからない。それより、なんでそんなことで、陽菜との仲がおかしくなっているわけ?」

「……は?」


 そこ?気になるのはそこなわけ?っていうか、先輩のことを俺は相談しているんだぞ?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ