頼りになる
「あの、精霊の加護がないハズレ侯爵だって言われてるけど、人としてはちょっと大ざっぱで繊細さに欠けるところとかはあるけれど、悪い人じゃないよ?その、使用人に対しても横柄な態度取らないし、領民のために力を尽くそうと仕事ばっかりしてるし」
エドがふぅっと息を吐きだす。
「あー、いや、そういうことではなく……その、リコはイザートの恋人じゃないの?聖女でしょう?」
「こ、恋人~?!ち、違う違う、全然そんなんじゃないっ」
イザートの顔がバンッと脳裏に浮かび、「好きだよリコ」「私もよイザート」「はい、あーんして」「あーん」なんて、カフェでパフェを食べさせ会っている映像が流れる。
いやいや、ないない、ないないから!
イザートなんてあれよ?あーんじゃなくて、パンを口にぐいっと押し込むような人だよ?
私なんて、女扱いどころか、かろうじて人間。山賊の娘扱いなんだからね?
……イザートだって、さすがに好きな人相手なら、もうちょっと違う態度取るよね?
「ふぅーん、そうんんだ」
「そうなんだて、あの、もしかして聖女って、侯爵の恋人が普通はなるものなの?聖女としての力があるとかが選ばれる理由なんじゃないの?」
そういえば、小説とかでは聖女は王子と婚約するとか婚約者がいる皇太子が、聖女が見つかったら婚約破棄して聖女と結婚するとか……なんか、そういうのいっぱいあったかもしれない。
聖女というものは、そういう立場なわけ?
「いや、そういうわけじゃないけれど、聖女は侯爵の魔力を体に通して歌として精霊に届けるから、魔力が通りやすい体……家族だとか心が通じ合っている相手だとか、その、体の関係があるとかが、その……」
ああ、なるほど。
「ご存知の通り、闇侯爵は精霊の加護が無いから、魔力がどうのとか関係ないから、誰でもよかったみたい」
なんせ、行きたくないとグダグダ森をうろついてるときに拾った、山賊みたいな女でもよかったんだから。
私も、ご飯につられて付いてきちゃっただけで、イザートに惚れたわけでもなんでもない……。
「なるほど!そうか!そうだよね!なら、うん、仲良くしよう!」
エドが手を前に差し出した。
差し出された手をぐっと握りしめる。
握手。
それから、再びエドは邪魔にならない場所に座った。
「友達なのに、手伝えなくてごめん」
「ううん、話し相手になってくれてるだけでもすごく助かってる。だって、1人で黙々と穴を掘り続けるのって楽しくないもの」
「話相手……か。それくらいしか役に立てないのもなさけない……なぁ。リコに……頼りないって思われてそう……はぁ……」
エドが大きなため息をついた。
「頼りないなんて思ってないよ。エドはさ、こうして話をしながら、私の知らないことを教えてくれるでしょ?さっきの聖女は侯爵の魔力を体に通してっていう話とか。知らないことを教えてくれる人は頼りになるよ」
スコップで穴を掘り進め、どれくらいたっただろうか。直径1メートル、深さは40センチほどになった。
太陽は頭上高い位置にある。
「そろそろお昼かな?」
休憩しようかとスコップをさして、お弁当の入った籐籠を手に取って、エドの隣に座る。
「エドも食べない?」
籠の中身が見えるようにかぶせてあった布を取り外してエドに差し出す。
「ん?パン?いいの?」
エドが籠に手を伸ばして、パンを一枚つまもうとした。
「あ、違うの、これはサンドイッチ。2枚のパンが一つになってて、間に具が挟んであるから」
私の手は土で汚れているので、かぶせてあった布でサンドイッチをつまんでエドに差し出した。
「サンドイッチ?へぇー。おかずが挟んであるの?これなら手で食べられるし、書類を見ながら食べたりもできるから便利だね」
「なに?エドってば、イザートみたいなこと言うのね?食事のときはちゃんと仕事の手を止めないとだめよ?」
エドが苦笑いする。
間が空きましたが、ぽつぽつと更新していく予定です。
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