友達な感じ
「リコの言っていた言葉を昨日あれから考えたんだ。……自分のためにやってるって言葉。全部、やらされてるような気持になっていた僕は衝撃を受けたんだ。そういう立場なんだから、逃れられない。務めだからやるしかないって。だから、闇聖女にさせられてかわいそうって思った。でも、違った」
エドの表情は見えない。けれど、声の調子はとても私をかわいそうだと馬鹿にしているようなものではない。
そして、私のことを話ているんだけれど、それはエド自身のことを話ているようにも感じる。
「やらされてるって本人が思わなければ、やらされることなんてないって。自分がやるって決めればいいんだって……。僕も、新しい僕に変わるよ」
ぎゅっと、強い意思を示すように私の体に回ったエドの腕に力が入る。
何のことなのかはよくわからないけれど。気持ちの持ち方を変えることで、心の中に引っかかっていた何かが解決したのかな。
新しい自分に……。
ポンポンと、小さかった妹が寝るときにあやしたように背中を優しく叩く。
「一緒に、新しい自分を成長させていこうね」
とつぶやいたところで、エドがバッと勢いよく私から体を離れ、2、3歩後ずさった。
あれ?私、何かおかしなこと言ったっけ?
「い、一緒にって、あの、一緒に成長するって、その、結婚とかそういうのは……あー、あー」
え?
二人で一緒に成長していこう……あ!
抱き合ってる状態でそんなこと言われたら、勘違いもする?!
顔がカーッと熱くなる。
手を大きく両手を振って慌てて否定する。
「ち、違う、違う、あー、ほら、と、友達として、その、お互い頑張ろうって」
エドがはっとして口を押える。
「そうだ、よね……あはは、いや、そうか、友達……友達になったつもりがなかったから……勘違い……」
ああ、そういえば、友達なんて言われたって、困るか。会うの2度目だし……。
「あ、いや、友達とかちょっとなれなれしいかな?うんと、知り合い、あー、えーっと、うーん、ダウンジング仲間?」
エドが、ぷっと笑った。
「ダウンジングな仲間って……あははは、リコ、そう、僕たちはダウンジング仲間か!それ、面白いね。うん、でも、友達であり、将来はどういう関係になるか分からなくもあり、ダウンジング仲間でもあるって話ってことで……」
「あ、友達に、なってくれるの?」
だったら嬉しい。
よく考えたら、イザートは聖女として私を雇っている人だし、屋敷の人たちは使用人という立場だし……で、もちろん友達という関係になれたらいいなぁとは思っているけれど、屋敷ではそれぞれの仕事の練習をしましょうってなってるから、友達のような関係になるわけにはいかない。
「あ、うん、そうだね、僕でよければ……今は友達で。あ、いや……そうか、闇聖女だもんなぁ……」
ん?
「闇聖女だと友達になるとか無理なの?」
聖女は皆に平等に接しないといけないから、誰かと特別に親しくしちゃいけないとかいうルールがあったりするとか、ないよね?もしそうなら……この1年が過ぎたら友達になってもらうとして、あ、屋敷の人とも、1年後に友達になってほしい。
「いや、闇侯爵が妬かないか?男友達なんてさ……」
「へ?」
なんで、イザートがここで出てくるんだろう?妬く?
「イザートも友達がいないのかな?私だけ友達作るなんて嫉妬するってこと?……あ、だったら、闇侯爵のイザートとも友達になっちゃえばいいんじゃない?」
うん、それがいい。
エドが目をまん丸に開いた。
「は?……僕と、イザートが友達?」
おかしなこと言ったかな?




