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加護なしハズレ闇侯爵の聖女になりまして~ご飯に釣られて皇帝選定会に出ています~  作者: 富士とまと


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始動

「ええ、タロイモは麦以上に乾燥を嫌うので、雨が少ないアイサナ村での栽培は難しいでしょう。ですが、ジャガイモはタロイモよりも乾燥に強いんです」

 不安げな顔を村人が見せる。

「麦を育てるのをやめて芋を作れということでしょうか?」

 ん?村人の言葉遣いが丁寧になったような気がする。

 どうやらここにいる人たちは真剣に私の話に耳を傾けてくれるようだ。

「麦は、春に種をまいて、今頃収穫を終えるでしょう?」

 確か、4~5月に種をまき、8~9月に収穫したはずだ。少し米より時期が早いんだなぁと思ったことがある。

 そして、アイサナ村にわずかに枯れずに残っていた麦も、穂を実らせていたので、そろそろ収穫の時期で間違いないだろう。

 タロイモのことはよく分からないけれど、同じような里芋なら4~5月に植え、収穫は9月から11月だったと思う。収穫まで麦よりも長い。半年以上かかるのかと思った記憶がある。

「ジャガイモは、麦の収穫が終わってから、今頃に植えるの。そして、3か月ほどで収穫できるの」

 信じられないといった顔を見せる大人たち。

「まさか……今から栽培を始めて、3か月後には収穫ができるのですか?」

「麦が全滅しても、そのあとに植えれば、冬を越すための食料が手に入るということ……?」

 こくんと頷く。

 タロイモと春小麦では栽培時期がかぶってしまうので畑ではどちらかを選択して育てるしかない。

 だけれど、秋植えジャガイモと春小麦は、栽培時期がちょうどいい具合にずれるのだ。だから、同じ畑で育てることができる。二毛作だ。

 連作障害もある程度防げるはずだ。数年に一度は土地を休めたほうがいいかもしれない。

「麦が無事に収穫できた後に、ジャガイモを作れば、麦はいざという時の備えとして備蓄に回すことができるようになります」

 村人がポテサラの挟まったサンドイッチに視線を落とした。

「そんな都合のよい芋が……それが本当なら……もし、本当なら……」

 小さく村人の女性が肩を震わせている。

「本当かどうかは、畑に植えてみて試してみて。私も、アイサナ村の畑で育つかどうかまでは分からないの」

 酸性よりだとかなんかいろいろ土にも種類あるんだよね。専門家じゃないからよくわからない。

「だから、どなたか畑を貸してください。そして、仕事の手伝いとして、種芋を畑に植えてほしいの。お願いしてもいい?」

 ぎゅっと、両手を体の前で強く握りしめた村人の一人が、ぐっと頭を下げた。

「ワシの畑を使ってくだせぇ。仕事も何でも手伝うけぇ、何でも言ってくだせぇ。……聖女様……あなたは確かに聖女様だぁ。ワシらのために力を使ってくださる」

 力なんて何も使ってないけどな?

 と思ったら、助からないと言っていたおばあさんがふらふらと近づいてきた。

「助かる……今度こそ、村は助かるんじゃな……」

 一番初めのときに見た、おばあさんの絶望感漂う表情とは違う。目に、光が戻ったような印象だ。

「それは、まだ分からないです。ごめんなさい。だけれど、少しは変わると思います。ジャガイモのほかに、もう一つ栽培してほしい物があるんです。まだ種が届いていないのと、種をまく時期はあと1か月くらい先になるので、またそのときに説明しますが……。ジャガイモに混ぜてあるマヨネーズの材料となる植物です。高級食材で、闇侯爵が食料か現金での買い取りを約束してくれています。今後需要の高まる可能性もあります。そちらも麦との栽培時期がずれているので、麦を収穫したあとに植え、麦を植える前に刈り取ります」

 ジャガイモとは栽培時期が重なるため、両方は同じ畑には植えられない。だから、両方試してみて、ジャガイモの作付面積と菜の花の作付け面積を村人が決めてくれればいいと思っている。

 初めのうちは食べられるジャガイモが多めの方がいいだろうか。菜種油の原料となる菜の花はどれくらいの価値で闇侯爵が食料やお金と交換するか分からないわけだし。目の前に食べられるジャガイモがあったほうが分かりやすく食料事情が改善していくのが分かるんじゃないかな。

「高級食材を、俺たちが作るのか?すげー!」

「本当!すごいね!カッコいいよね!なんかすごいよ!」

 子供たちはきゃっきゃとはしゃぎ始めた。

 もう、サンドイッチでしっかりお腹が膨れただろうか。

「じゃぁ、畑に移動してジャガイモを植える作業をお願いします。あの、畑を貸してくださるのは何人いますか?」

 10人前後の大人全員が手を上げた。

 まずは見本を見せるために、全員で一番近くの畑に移動する。

 枯れた麦が邪魔になっているため、引っこ抜き、土を柔らかく掘り起こす。

 それから、畝を作って植える方法と、そのまま植える方法を教えた。引っこ抜いた麦は堆肥作りに使えるだろうか。あっちの雑草とかも刈り取って堆肥を作れないだろうか。

「どれくらい収穫できるのか、3か月後に結果が出ます。畝を作るのは手間がかかりますが、その手間に見合った収穫があると思えば作ればいいと思います」

 皆が素直に頷いた。

 ジャガイモの収穫はどれくらいになるのか。1個の種芋から大きなものなら10個、小さなものなら20個くらいできると聞いたことがあるけれど、それは日本での話だ。品種改良もある程度されているだろうし、肥料などもちゃんとやったうえでのことだろう。

「では、皆さんで誰の畑にどれくらい植えるか相談して植えてくださいね。また追加で持ってきますので、奪い合う必要はありません。後はお願いします」

 お願いしても大丈夫だよね?

「なぁ、道具持ってこようぜ!」

「私はジャガイモを運んでくる!」

「まずは枯れた麦の処理からだね」

「麦はすっかり枯れてしまったけれたんじゃが……確かに、聖女様の言う通りだったの。なぜ、ワシらは働かなかったんじゃろうか……」

 うん、大丈夫そうだ。


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