それぞれの役割を
こちらも敵対心持って悪感情を持っちゃったら駄目だよね。直接会ってもいない話してもいない人に対して……。思い込みだけでこうだああだと思うなんて……。
落ち着こう。
「ああ、なるほどな。タダで支援し続ける必要はないって話か。闇侯爵領で油を作れば結局支援は今まで通り食料をタダで分け与えることになると……」
ぶんぶんと首を横に振った。
「確かに、それもあるけれど、そんな損得の話だけじゃないんです。アイサナ村の人たちはとても痩せていました」
私の言葉にイザートだけではなく、物知りなはずのセスも首を傾げた。
「大人も老人も子供も……みんな痩せているんです」
「いや、それは干ばつで」
ぶんぶんと再び首を横に振る。
「干ばつで食べる物が無くなるのは来年、いえ、秋以降の話でしょう?今年は昨年に収穫したものを食べているはずです。それなのに痩せている。……もう、ずっとずっと、食べるのにギリギリな生活をしているんです。だからみんな痩せてる」
そこで初めて、ああと、セスが小さく頷いた。
「干ばつがない年が豊作で余裕があれば、また来るかもしれない干ばつに備えて蓄えることができるはずですから。それすらできていないということは、毎年ぎりぎりなのでしょう」
イザートがセスに尋ねた。
「税金は」
「土侯爵は法外な税を徴収はしていません。そればかりかアイサナ村のような日照り被害などを繰り返し受ける地域はほかよりも税を優遇していたはずです」
そうかと、イザートが小さくつぶやいた。
「それでも……痩せている……か。わかった、リコ。油は貴重で高価な品だ。高く買ってほしいということだな?」
「そこまで高くなくてもいいんです。ただ、アイサナ村が今まで収穫していきた量よりも、少しは多くの麦と交換してほしい。お腹いっぱい食べられて、日照りに備えて蓄えておけるだけの量を……」
イザートが黙り込んでしまった。
「そして、闇侯爵領では油ではなく今まで通り麦を作ってほしい。せっかく連作障害を克服……いえ、年に2回も安定して収穫できるように800年以上かけて作り上げてきた栽培方法を絶やさないで欲しいし、それに……。860年前のような世界的大飢饉が起きないとも限らないから……国の穀物庫として作り続けてほしい。アイサナ村のように気候に恵まれない場所でこそ、油などの穀物以外を栽培してほしい。収穫できても出来なくても、生きる死ぬにかかわらない作物を」
イザートがふぅっとため息をついた。




