闇公爵領の農業
「例えばだけれど、アイサナ村で今度から麦ではなく油を作るとして、その油を麦で買い取るということはできるかしら?まずは麦以外を栽培して大丈夫なのか確認しないといけないけれど……」
くっとイザートが喉の奥を愉快そうに鳴らす。
「なんだ、油を作らせて、マヨネーズをたくさん食べようってことか!もちろん、闇侯爵領は食糧庫と言われるほど麦は取れるからな。毎年どこぞに無償で支援してるが、それ以外にもまるっと国中の食料を2年は支えられるだけの備蓄もあるぞ?」
国を2年?
「なっ、すごい量だけど、なんでそんなに闇侯爵領では作物が採れるの?っていうか、作物って、2年も保管してたら……」
保管、できたっけ?米はできたか。古米、古古米と味は落ちるけれど、新米とは別に長期保存した米がある。
「闇侯爵領は天候に恵まれてる。温暖で冬もそれほど気温が下がらない。雨も適度に振り干ばつ知らずだ」
まぁ、不作が無いというのは幸いだけれど、それだけでそんなに作れるもの?土地の広さが北海道やアメリカ並みとか?
「麦は、年に2回取れるんだ。だから単純に他の領地の倍の収穫がある」
イザートがどや顔を見せた。
「二期作!」
「二期作?」
「あ、いや、えっと、あー、でも、年に二回でも豊かとは限らなくない?」
二期作っていう言葉はここにはないのか。
日本でも二期作ができる地域はあった。そうだ。鹿児島や沖縄などの温かい地方で行われてるんだよね。
そうか、闇侯爵領は沖縄みたいな温かい土地ってことか。
「耕作地は年々増えているくらいだからな。1回収穫するだけで領民が生活する分は十分足りるんだ。だが、あー、何百年前だったか……」
「860年ほど前ですね」
イザートが詰まるとセスが補足する。
「そうそう、860年前、国のあちこちで不作が続いた。収穫した作物の半分を支援に回し、闇侯爵領の領民も1年耐えなければならないと思ったそのときだ。春を待たずに、今から作れば、半年後には収穫できるんじゃないか?と。当時の領主の号令で、ただでさえも貴重な麦を畑にまいた。それからだ。闇侯爵領では年に2回麦を収穫するようになった」
あれ?連作障害とかないのかな?
「その、問題はないの?段々、実りが悪くなるとか……収穫量が減るとか……」
「そこは、まぁ800年以上の中でいろいろと解決してきた話で、今は安定している」
そうか。問題があるなら続くわけないか。解決方法も、日本でもいろいろ、いや世界でいろいろと考案されてるし。私が心配することじゃないか。
「保管に関しては……あまり広く知られてはいないんだが、闇侯爵には食べ物が腐らない不思議な洞窟があって、そこに保管している」
「食べ物が腐らない洞窟?」
冷蔵庫みたいにひんやりしているとか?いや、もっと気温が低くて冷凍庫のような?




