親子
「鍛冶屋のゴードンさん、2種類用意していただいてありがとうございます。私の説明が不足していたので面倒をおかけしました」
「いいえ、本来はこちらが制作を始める前にしっかりと確認をすべきことでした。ただ、その、確認しようにも……距離の問題が。ですから、確認できなかった部分について考えられることはするのは当然のことです」
距離?
「ゴードンさんはどうやって来たの?」
ここは天空にある。私はビビカにのって地上からやってきたけれど、他の人はどうやって移動しているんだろう。
「飛龍船を使ってきました。週に1度の運搬飛龍船に同乗させてもらったんです」
飛龍船なんてものがあるのか!そういえば、食料やそのほか必要なものは地上から運んでもらわないと、ここには畑も何もないもんね。聖獣以外の移動手段がなければ、生活が成り立ちそうにないから移動手段があるのは当たり前といえば当たり前なのか。
それでも週に1度というのは、あまり飛龍船は多くないということだろうか。
「飛龍便を使って手紙のやり取りも出来ますが、どうしてもそうすると制作が遅くなってしまうんで……。それで、もう一つの依頼品もいくつか用意させてもらいました」
ゴードンさんの言葉に、左側の青年がチッと小さく舌打ちをした。何か怒ってる?
出された試作品は、私が思い描いていたものとちょうどのものから、思っていたものより少し大きなものと、かなり大きなものの3つが並んでいた。
「これです、私がお願いしたかったの」
と、一番目の細かなものを手に取ると、ゴードンさんの右に座っていた青年がよっしゃと握りこぶしをつくった。
「ほらな、俺がもっと細かいのもあったほうがいいじゃないかと言った通りだろ。どうだ、親父!」
ごつんと次の瞬間青年の頭にこぶしが落ちる。
「師匠だ。それから勝手に余計な話をするな。失礼しました、聖女様」
二人のやり取りににこりと笑って答える。
私は小さいころに父親がいなくなってしまったけれど、男親ってこんなもんなのかなぁとほほえましく見る。まぁ、暴力は褒められたものではありませんが。
「いいえ。皆さんでいろいろ話あって工夫してくださったことが分かって嬉しいです。お弟子さんの意見も取り入れながら作業をしてくださったんですよね。素晴らしい師匠だと思います」
自分のやり方だけを貫き人の意見に耳を貸さない人より素晴らしい。
「はっ、親父も兄貴もちょっと褒められたからって、いい気になんなよ。闇聖女だぞ?闇聖女に褒められたって何の得にもならないじゃねぇか。それどころか逆らうことも出来ず、急に放り込まれた仕事で他の仕事をこなすために無理することになった」
右側の青年が怒りを爆発させるように気持ちを吐き出した。
無理を……?
「馬鹿、何を言っているんだ!依頼されれば、相手がだれであろうとも全力で仕事をする。それが大切だと教えてきたじゃないか!」
「知ってるよ。ろくに儲けにもならない貧しい農夫の頼みだって断らないしいい加減な仕事もしない。だから親父を尊敬してた。それなのに、ちょっと聖女から頼まれたからって、それを作るのにかかりきりになって他の仕事は俺たちに押し付けたじゃないかっ!」
ゴードンさんが立ち上がり、息子さんの胸倉をつかんだ。そしてそのまま引きずるようにして部屋の外へと放り出した。




