初ポーション
それからすぐに皇帝選定会場である闇侯爵邸の前に付いた。涙が出る前についてよかった。
「おかえりなさいませ、イザート様、リコ様」
4名ほどの侍女と執事のセスが頭を下げて待っていた。
「ああ、今から仕事をする、セスは頼んだ資料を執務室に運んでくれ。それからお茶を頼む。菓子は必要ない」
指示をうけ、顔を上げた侍女たちの顔を見て、イザートが動きを止めた。
あ……が、頑張って特訓してたのね?
4人の侍女の顔は、見事に……おてもやん……化粧お化けに仕上がっていた。
やたらと塗りたくればいいってもんじゃないんだよね。化粧って、塗りたくってもなおナチュラルに見える化粧が一番難しいっていうくらい、塗ってるのに塗ってない感じが出せて一流。と、本に書いてあった。
「きゃぁーっ、その顔、どうなさったのですか!」
「顔が、顔がぁぁぁ」
へ?
なぜか、悲鳴を上げたのは侍女たちの方だった。
ちょっと、私の顔を見てぎょっとするなんて、失礼じゃないですかね?
「頬が赤く腫れています。どうなさったのですか?」
ごめんなさい。失礼だったのは私の方だったみたい。心配してくれたのね。
「まさか、イザート様が無体を……」
侍女がイザートを疑わし気な目で見た。
「なっ、どうして俺を疑うんだ」
セスが小さく息を吐きだした。
「リコ様とイザート様の人徳の違いでしょうかね?」
イザートが私に助けを求めるような目をむけた。
あれ?ずいぶんセスさんの感じが代わった気がする。こんな風に憎まれ口を言うような人じゃなかったよね?
「医務室に行き、打撲用のポーションを用意して差し上げなさい」
「はいっ!」
セスが侍女の一人に指示を与えてから私の顔を見た。
「リコ様にお怪我を負わせた人の処分が必要でしたら、私が承ります」
「あー、いや、そういうのではないので」
相手は水聖女様だ。処分とかそういう話ではないし、誰にも言うつもりはない。もし水侯爵が皇帝になった場合、大聖女となる人だ。
悪いイメージを持って皇帝宮に帰ってはやりにくいだろう。
「自分で処理するつもりならばおやめください」
それって、私が不当に使用人を処罰するのを疑ってる?まぁ、確かにすでに3人辞めさせてる前科があるんだけども。
「リコ様が恨みを買う必要はありません」
「へ?」
それって、あれ?私のために、セスが処分を買って出てくれるって言う話?
「あ、ありがとう……」
あれ?セスってイザートや私に対してあまり良い感情を持っていなかったんじゃないの?驚いて間抜け面でお礼を言うと、セスが無表情に答える。
「執事としての仕事をこなすまでです。一度認めた主のためならば命をかけて尽くすのは当然です」
命って、突然思いけど、何それ。あの一見で認めてもらえたってこと?もしかしてはじめは試されていた?
仕えるべきに値する人間か試されていたの?
ぺこりと綺麗なお辞儀をして去っていくセスの背中をぼんやりと目で追う。
「リコ様、打撲用のポーションの用意ができました」
メイに促されて自室へと戻ると、テーブルにはお茶とお菓子が用意されていた。それとは別に、小さな瓶が用意されていた。
叩かれた頬は確かにまだ熱を持っているけれど、一晩寝ればほとんど分からなくなるくらいなのことで、薬を使うほどでもないと思っているんだけれど。
「これが、ポーション……」
薬草に光の精霊の加護を受けた光侯爵たちの魔法がかけられたものがポーションだと本に書いてあった。全然薬なんて必要ないんだけど、でもちょっとだけポーションの効果は気になるんだ。
「飲めばいいの、かな?」
日本で読んだ本には、飲むポーションと傷口などに振りかけるポーションがあった。
「はい。頬の赤身と痛みはぶつけてできたものですよね?でしたらこの打撲用ポーションですぐによくなります。虫歯で赤く腫れているならば効果はありませんが……」
メイがこぶしを握り締めながらポーションの効果を保証する。
打撲用と何度も言っているけれど、物語に出てきたポーションって、怪我でも病気でも何でも直しちゃうイメージあったけど、そうじゃないのか。どちらかといえば、日本の薬の効果が高い物って感じなのかな?
薬も、打撲用、切り傷用、肩こり用とかいろいろあるもんね。風邪薬だって、咳、喉、鼻とかに分かれてたりもする。




