けっちゃく
「あっ」
私が見ていることに気が付いて、一瞬目があったけれどすぐにそらされてしまった。
「ふふふ、よかったわ。詳しい人がいて。誰も指導する者がいなければ、成長はできないものね。この調子で頼むわ」
と、声をかけると、ハッと目を見開いて金髪の侍女が私を見た。
「わ、私……いいんですか?」
「”行き過ぎた”指導もあったようですが、今後は適切な指導をしてくれるんでしょう?頼りにしているわ」
「あ、ありがとうございますっ!」
深々と金髪の侍女が頭を下げた。
ほっと、息を吐きだす。メイを陥れようとしたことは許せないけれど、闇侯爵邸に派遣されたことでいろいろと思うことがあったんだろう。
反省して、心を入れ替えてくれるならそれでいい。あ、メイには謝罪してもらわないと。
「私たちもミスを冒しましたが、今後しっかりと後輩の指導にあたりたいと思います」
花瓶事件の侍女を許したからだろう。風呂事件の侍女が頭を下げた。金髪の侍女は目に涙を浮かべていたというのに、彼女たちは薄ら笑いを浮かべている。
「セス、通常ミスを冒した侍女へはどのように接するものなの?」
セスがすぐに口を開く。
「雇い主やミスの種類によっても変わりますが、口頭注意で終わることもあれば鞭打ちといった体罰を与えることもあります。それでも改善されなければ減給やクビです」
セスの答えを聞いて、風呂事件の3人の侍女に顔を向ける。
びくりと3人が肩を動かした。
「鞭で打つなんて……酷いわよねぇ」
一人に話かけてみた。
「そうですわ。私たち侍女は馬や牛ではありません」
うんうんと頷いてから、隣の侍女に話かける。
「私、鞭打ちなどの体罰は嫌いなの。野蛮で最低な行いよね?」
「ええ。鞭で打つなど、知恵の回らない野蛮で低俗な主のすることでございます」
そうねと、頷いて最後の一人に話かける。
「私ね、抵抗できない人間を一方的に痛めつけるような行為には憤りを覚えるの。絶対に許せないんだけれど、心が狭いかしら?」
「いいえ、当然のことでございましょう。決して聖女様の心が狭いわけではありません」
ゴマを擦るような笑顔を浮かべた侍女に笑い顔を返す。
「そう、よかったわ。あなたたち3人のしたことが許せないのは、私が心が狭いからではないわね?」
3人の表情が固まった。
「抵抗できないように、2人が私の腕を押さえつけ、風呂のお湯に頭を押さえつけて息ができないように苦しめたこと。許せそうもないのよね」
集団で一人を痛めつける。そしてそれを反省もしない。
「そんなひどいことをっ」
メイがハッと口を押えた。
「服を脱ぐのを嫌がったので服を着たままお湯をかけてしまったと。説明不足で聖女様を怒らせてしまったと報告を受けましたが、もし聖女様の言っていることが本当だとすると私も報告しないわけにはいきません。侯爵様や聖女様を害する行為は重罪です」
重罪という言葉に、3人が真っ青になった。
「わ、私たち、そんなつもりじゃ……」
「そうよ、ちょっとだけ、脅すつもりで……」
「あまりにも聖女らしくなかったから、だから……」
がくがくと震えて、許しを請うように両膝をついた3人の前に立ち、見下ろす。
「どんなつもりでも、人を傷つけていい理由にならない。例え相手が自分より立場が下であろうと、いいえ、下であるからこそ、手を出してはいけない。弱い者いじめほど恥ずかしい行いはない。……ねぇ、あなたたち、聖女という立場の私にはあれくらいしかしなかっただけで、気に入らない後輩がいたら、もっとひどいことをしていじめていたんじゃないの?」
どうやら、図星だったようだ。
「あんたがやれって私に命じたんでしょう!」
「そうよ、私はつき合わされただけで、私は悪くないんですっ!」
「はぁ?次のターゲットは誰にするとか言っていたのは誰なの?」
3人は責任のなすり合いを始めた。
「失礼いたしました。あとは私が責任を持って対処いたします」
セスが護衛兵に3人を食堂から連れ出させ、その後ろをついてセスも出て行った。
どんな処罰をされようと、自業自得だから、あとは知らない……。
「さすが、山賊の女頭目だな!見事だっ!」
イザートが楽しそうに大きな声で笑い出した。
「さ、山賊の……女頭目?」
メイが息をのんだ。
「ちょっと、信じないでよ!私、その辺の庶民だから!山賊じゃないからね!」
周りの侍女たちにも訴える。
訴えたのに、なんか、本当かなぁって疑いの目をしている人がいる気がするんですけど。
「ちょっと、イザート、ちゃんと否定してよっ!私は、その辺の道端に行き倒れてたただの腹ペコ女だって!」
って、自分で言っておいてなんだけど、ひどいな、この説明も。
「あははは、そうだった、腹ペコ女だな。ひとまず、食べような。ほら、ほら」
イザートがパンをつかんで私の口に押し込んだ。
ちょっ、また!もう!食べるけど!




