蒸し器の実力
次の日の朝。
着替えて調理場に向かうと、焼きあがった新縄文土器が丁寧に灰が払われ調理台の上にのせてあった。
「まだ熱いですので気を付けてください」
あ。そうね。ゆっくり冷やさないと駄目なんだよね。実験の続きもしたいけれど……それは火が落ちてからもできるかな。
「このまま冷ましておいてくれる?続きは帰ってからすることにするから。えーっと、今日もアイサナ村に行くのだけれど、持って行く物の準備はできてる?」
「はい。ですが、これだけで本当によろしいので?必要があるならば、調理しますが」
昨日はポテサラのサンドイッチを作ってもらった。今日は、材料だけを準備してもらっている。
バターと、塩と、ベーコンだ。あとは、ジャガイモ。
「ありがとう。今日はいいわ」
ジャガイモを栽培したとしても、食べ方がよくわからないままでは魅力が半減してしまう。
貧しい村でも手に入る材料……油は高価だ。いくら菜の花を栽培して自分たち用にも手に入るようになると言っても、大半は売ってお金にするだろうし。そうすると、油じゃない、安価な材料で美味しく食べられる方法も知ってもらった方がいいだろう。
いろいろ聞いたところ、塩は安定してそれほど高価ではなく手に入るようだ。バターに関してはよくわからない。牛乳はあまり流通していないようだ。そりゃ、冷蔵庫もない運送手段も発達してない世界では、足の速い腐りやすい牛乳が市場で売られるようなことは少ないだろう。ただ、逆に山羊はそこそこいるらしい。日本でも昔はちょっと田舎に行くと飼っている家が結構あったらしい。山羊乳からもバターは作ることができる。味は……食べたことが無いから分からないけれど、すぐに加工すれば臭みも少ないと聞くけれど、どうなのかな。
「そうね、せっかくだから料理させてもらえる?」
ふふふ。ふふ。
ジャガイモといえば……。
「これはリコ様がゴードンに作らせた鍋ですね」
「そう、蒸し器。これによく洗ったジャガイモを入れて、蒸す……ふかします」
ふかしいも。ゆでたものとは違って水っぽくならずにほくほくに仕上がるんだよね。
「ふかす?蒸す?煮るでも焼くでもなく……」
一番したの鍋に水をいれて火にかける。2段目3段目の穴のあいた鍋に芋を並べて。蒸す。ふかす。
「蒸気……水が沸騰して上がってくる湯気の熱で調理するのよ」
料理長が真剣な目で、しゅんしゅんと蒸気を上げ始めた蒸し器を見ている。
「なるほど、なるほど。これは新しい」
「焦げないし、水の中に栄養が溶けだしたり煮崩れたりもしないの。他にも蒸し料理はいろいろあるのよ」
蒸しパン。焼売や肉まんなどの中華。酒蒸し、プリン、茶碗蒸し。
材料がそろわないものや、作り方を知らないものもあるけれど……。料理というほどでなく、トウモロコシやサツマイモに里芋……タロイモ、ゆでるのではく蒸すと美味しいものはたくさんある。
そろそろいいだろうかと、火が通ったか料理人の一人が串をさして確認する。
「しっかり火が通ったなら、お皿に出して、さぁ、仕上げるわよ!」
さらに丸のままのジャガイモを一つ乗せてもらい、包丁を入れる。4つに割ると、中央にバターを乗せて塩をふる。
「どうぞ、じゃがバターの出来上がりです!」
単純な料理だ。だけれど、出来立てほくほくなじゃがバターはとても美味しい。
料理長が目を丸くして皿の上のじゃがバターを見ている。
「ふふ、料理ともいえないと思うかもしれないけれど、食べてみて」
どんどんとジャがバターを作って料理人たちにも配っていく。
「熱いから気を付けてね」
料理長がフォークでじゃがいもを取り、口に運んだ。




