施しではなく
「聖女さまぁ~!全部終わったよぉ~!」
遠くから子供の声が聞こえてきた。
「あ、じゃぁ、リコまたね!」
ミーニャちゃんが駆け寄ってくると、エドが走り去っていくのは同時だった。私は、いつの間にか1mほど掘り進んだ井戸から地上へと全身を使ってよじ登る。
明日は梯子もいるなぁ。あと、やぐらみたいなのを立てて滑車を使って土をしたから上へと引き上げるようにもした方がよさそう。
……正直穴が深くなれば深くなるほど一人の作業は厳しいな。もし土が崩れて生き埋めになったらという心配もある……。まぁ、今日みたいにエドがいてくれれば、さすがに生き埋めになったら助けを呼んでくれるだろうけど。あ、ビビカが異変を察知して駆けつけてくれるかな?
滑車。動滑車はいつ手に入るだろうか。ゴードンさんに一度会って話をした方がいいかな。
嬉しそうな顔のミーニャちゃんが私の手をとって、畑へと引っ張って行く。
「ほら、見て。うねのね、あそこからあそこまでミーニャが埋めたの!」
「俺はこっちだ。畝のないところにじゃがいも植えたぞ」
子供たちが口々に自分の仕事の成果を見せてくれる。
「ありがとう。明日はまた別の食事を持ってくるから、明日も手伝ってくれる?」
籐籠のサンドイッチをすべて手伝ってくれた子供たちと10名ほどの大人に渡そうとしたけれど、大人たちは、畑でまだ枯れた麦の処理をしていた。
「ありがとうございましたー!無理はしないでください!明日もお願いしたいので」
大きな声を出すと、村人の一人が手を止めてやってきた。
「お礼を言うのはこちらです。ありがとうございます」
深々とおじぎをされた。
「いえ、あー、私はじゃがいもを持ってきただけで。皆さんが頑張ってくれて……」
「当たり前のことをしているだけです。ワシらは、自分たちの畑を耕して、自分たちの畑で作物を育てるという当たり前のことをしているだけです……」
ん?
「あれ?そうなのかな?」
そういわれればそうか。
「そうです。それなのに、食事を用意してくださり、その上お礼の言葉やいたわりの言葉……」
別の村人が歩いてきた。ミーニャちゃんのお母さんだ。
「すいません……それなのに、村の人たちがひどいことを……」
目に涙が浮かんでいる。
「いいえ、大変な思いをしているんです。皆さんから見れば私は確かに恵まれていて、何か言いたくなる気持ちも分からなくはないので……えーっと、これ、残った物は、皆で食べてください」
籐籠に入ったサンドイッチはまだ半分以上残っている。なんせ200人分以上作ってもらったのだから。
「え?よろしいのですか?」
「もちろん、タダでとは言いません」
にこりと笑うと、ミーニャちゃんのお母さんが申し訳なさそうな顔をする。
「彼らは……明日も仕事をするかどうかわかりません……」
「ああ、そうね。食べたら働いてというのは朝の話。夜は残り物がもったいないから食べてってことで。皆さんは、働いてくださったので、朝も夜も食べられる。彼らは働かないから朝は食べられない、それでいいかな?働いてないのに食べるということが不満なら渡さなくても構わないです。皆さんに任せます」
手伝ってくれた10人の大人が顔を見合わせている。
食べさせたい人間がいるものの、働いた者と働いていない者が同じように食べられることがすっきりしない人もいるようだ。
意見が分かれもめられてもと思って、言葉をつづける。
「で、もし皆に食べてもらうなら、この美味しいものの材料を今畑に植えているということ、3か月後には収穫が見込めるということなど、説明してもらえると助かります」
「ああ、なるほど。そうですね。食べれば……気が代わるかもしれません。分かりました。なるべく多くの村人に食べてもらって、説得します」
ほっと息を吐きだした者もいる。これで、サンドイッチは無駄にならずに済みそうだし、もしかしたら明日はもう少し作業する人が増えそうだ。




