サンドイッチからの学び
「ほら、私だって、穴掘りの手を止めて食べてるでしょう?」
「確かに、リコの言う通りだ。書類を見るのも穴を掘るのも同じか……。それは気が付かなかった……種類が違うだけで働いてるという点では同じだ」
うんと、サンドイッチを口に入れながら頷く。
「職業に貴賤はない……か。村の人だって街の人だって……貴族も庶民も、働いている人は立派。働かない人とは比較にならないほど立派……」
懸命に枯れた麦を引っこ抜いている子供たちの姿を見る。
手も足も服も、体中が土まみれだ。疲れるだろうに、サボっている子は一人もいない。
大人たちも手を休めずに作業を続けている。
「……ああ、本当に。彼らが食料を作ってくれるから、貴族と呼ばれる者が飢えずに済む。むしろ、生きていくうえで必要なのは貴族と呼ばれる者じゃないのだろうな……」
エドの横顔を見る。
エドは庶民ではないのだろうなと、ふと思った。
服装もこぎれいだし。豪商である可能性もあるけれど、侯爵や聖女のことについてもある程度知識があるようだし。体を動かさなくても生きていられる立場にありそうだし。
「必要よ。必要のない人間なんて、人の財産や命を奪おうとする悪党だけ……」
「山賊とか?」
うっ。
思わず言葉に詰まる。
山賊は確かに悪党なんだけど……。
「ぎ、義賊なら、まぁ……必要じゃないかもしれないけど……」
思わずかばうようにしどろもどろ答える。
エドがサンドイッチに口を付けた。
パクリと。あ、貴族だとしたらサンドイッチなんてちょっと質素すぎる食事だったよね。エドは何も言わずにサンドイッチを一つ食べた。
そして、もう一つサンドイッチを手に取ると、パンをぺろりとめくりあげる。
「リコ、これ何?」
エドの表情からは、満足したのか不満なのかよくわからない。口に合わなかったのかな?
「えーっと、ポテトサラダ。その、本当はキュウリとかハムとかも入れるともっと美味しくなるんだけれど、とりあえずあるものだけで作ったから、その……」
そうなのだ。本当にジャガイモとマヨネーズと塩という、いたってシンプルなポテトサラダなのだ。お金がないときに時折作っていた我が家の味……。貧乏ポテサラだ。それでもイザートたちや村人たちは喜んでくれたんだけど……。
「美味しい。びっくりした。卵でもないし、チーズでもないし、シチューとも違う、何、これ?」
エドの言葉にほっと息を吐きだす。よかった。満足してくれたんだ。
「ほら、あの子たちが今植えている、じゃがいものサラダ。うまくいけば3か月後には収穫できるようになるはずで」
勢いよくエドが立ち上がった。
そして、手元のサンドイッチと、畑で作業している人たちを交互に見る。
「これを、作る作物を……?この時期から植えているのか?」
「じゃがいもは、麦を収穫した後に植えることができて、3か月ほどで収穫できるから。アイサナ村でも栽培できるのであれば食料問題が少しは改善できるんじゃないかと……」
エドが手で目を覆ってしまった。
「は、はは……水……じゃない。日照りの解決策は雨を降らせることだと……雨を降らせられない侯爵など役立たずだと……どうしてそう思っていたのだろう……」
ああ、闇侯爵のことかな。




