08 支援魔術
「ルーシア、出口がどっちにあるか分かるか?」
「ええ……こちらです。着いてきてください」
ルーシアの案内に従って歩く。
僕が落ちてきた場所には横穴があり、ルーシアの話では、そっちを通って正規のルートに戻れるらしい。
服装は流石に全裸のままだと目に毒なので、抱えていた荷物から適当に女物の服を取り出してそれを着させている。
恐らくは魔女ユミナの予備の服であろうその漆黒のローブは、ルーシアにとてもよく似合っていた。
「《影刃》」
現れた魔獣は片っ端から蠢く影に斬り捨てられていく。
そのため、先程とはうって変わって、今度は安全に進むことができた。
とはいえ、油断はしない。
ここにいる魔獣の攻撃を一度でも喰らえば、僕の命はないからだ。
暫く歩くと、前方に魔獣の巣が立ちはだかる。
蜘蛛、百足、蠍――無数の虫型の魔獣が徘徊していた。僕は……虫が苦手なのだ。眉を顰めた。
「ルーシア、いけるか?」
「それは……愚問――ご主人様」
ルーシアの足元から影が延びる。
地面を這うように、水が広がるように、魔獣の巣全体を包み込む。
魔獣がこちらに気付く。「もう……遅い」と、ルーシアが呟いた。
「《生命吸収》」
影を媒介して、魔獣の生命力が根こそぎ吸収される。
ばたばたと虫の魔獣が動きを止め、無傷のまま死んでいく。
対象的に、ルーシアの体内に膨大な魔力が蓄積されていくのが分かる。
《生命吸収》――生ける者の生命を簒奪する魔術。
死霊種が得意とする魔術で、僕も冒険者として活動する中で他の死霊種が使っているのを何度か見たことがあるが――その規模も威力も桁違いだ。
本来ならばこの魔術は、こんなあっという間に生命を吸い尽くして相手を殺す魔術ではないのだ。
「この先に……迷宮の主の部屋があります」
「主か……」
迷宮の主……それは、迷宮の支配者だ。
迷宮の主となるのは大体がその迷宮内で最も強い魔獣である。Sランク迷宮である《奈落の坩堝》の主が一体どんな怪物なのか、一人の冒険者かつテイマーとして興味を抱いた。
「敵は……ドラゴン」
ドラゴン……僕を襲い、アリアを殺したあのドラゴンか。
僕は問いかけた。
「勝てるか?」
「勿論。《生命吸収》で魔力も万全――負ける要素は、ない」
僕にできるのは多少のサポートと、使い魔を信じることだけだ。
「そうか、信じるよ。じゃあ……ドラゴン討伐だ」
□
ルーシアが鉄の扉を押し開ける。
その向こうの広々とした空間に鎮座しているのは、巨大なドラゴンだ。
ルーシアがその部屋の中に入ろうとすると、「ちょっと待った」とレインに声を掛けられる。
「――《使い魔強化》」
レインがルーシアに向かって魔術を発動した。
ルーシアの身体が一瞬光に包まれる。支援魔術だ。
「っ……! これ、は……」
「単なる支援魔術だよ。効果は全体的な能力の向上。まあ、使い魔にしか効果がない欠陥魔術だけどね」
「支援……魔術」
「僕は雑魚だから……これくらいのことしかできないけど。ルーシア、ドラゴン退治は任せたよ」
これ……くらい?
ルーシアは驚愕で肩を震わせた。
ルーシア自身はあまり使ったことはないが……支援魔術については一応ルーシアも会得している。
だからこそ、これは支援魔術なんて生易しいものではないことが分かった。
――異常なまでの強化率。
それは本来の支援魔術の強化率の限界を優に超えていた。
極限まで強化された動体視力は、まるで世界が止まっているかのような錯覚すら抱かせる。
魔力は十数倍にまで増幅され、身体が熱を帯びたかのようだ。
ただでさえ強靭な吸血鬼の身体能力は更に強化されており――素手でドラゴンを叩き潰すことすらできそうだ。
目の前に現れた巨大なドラゴン。
最強の吸血鬼たる彼女からしても、決して楽な相手ではないはずのそれは――今の彼女からしたら雑魚だとしか思えなかった。
――ご主人様は化け物だ。
背筋に冷や汗が流れる。
同時に、爆発するような歓喜が胸中に湧き上がる。
他ならぬ化け物の中の化け物であるルーシアがそう思うほどに、極限の域にまで達した支援魔術だった。
だが……それでこそ、吸血鬼たる私のご主人様だ。
ルーシアは恍惚に身体を震わせた。
「今の私は機嫌がいい……だから、すぐに屠ってあげる」
唸り声を上げ、こちらを警戒するドラゴンに対して――ルーシアは酷薄な笑みを刻んだ。
「面白い!」
「続きが気になる!」
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