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05 契約完了


「……んっ」


 名残惜しそうにルーシアが僕の首筋から口を離したときには、僕は既に死に掛けていた。

 身体に力が入らない。寒気が止まらない。

 思わずその場に崩れ落ちそうになる僕を、ルーシアが慌てて抱えた。


「はぁ……はぁっ」


 息が苦しい。視界がぐるぐると回る。

 

 ――吸血鬼(ヴァンパイア)の吸血は、血液を介して他者の生命力も奪い取る。

 噂には聞いていたが……これほどとは。

 あるいは、僕の生命力が人並み外れて弱弱しいだけかもしれないが。


「大丈夫……? ごめんなさい、久々の吸血だったから……」

「ああ、大丈夫だよ」


 申し訳なさそうにするルーシアの頭を優しく撫でる。

 ルーシアが気持ち良さそうに目を細めた。


 しかし――これで契約は成った。

 血を吸わせる代わりに使い魔として契約を結ぶ、という内容にルーシアが同意したためだ。


 《使い魔(ファミリア・)契約(エンゲージ)》。

 ルーシアと僕の間に魔術的な契約が結ばれる。


「これで、私はあなたの使い魔?」

「ああ、これで僕と君は一心同体だ」

「そう……」


 僕の言葉に、ルーシアが嬉しそうに微笑む。

 血も凍るような絶世の美貌が、ふにゃりと柔らかな笑みの形を浮かべる。

 整った容貌も相まって、僕はしばしその笑みに見惚れてしまった。


「それで……ご主人様? 私は何をすればいい?」


 ルーシアの言葉で我に返る。


「あ……ああ、うん。とりあえずはこの迷宮を出たいから……」

「じゃあ、周りにいる奴らを片付ければいい?」

「うん、頼むよ」

「なら……命令を。私はあなたの使い魔」


 ルーシアがその紅い瞳で僕を見つめてくる。

 僕は言った。


命令(オーダー)だ。ルーシア――周囲の魔獣を殲滅しろ」

「はい、ご主人様」


 すると、ルーシアの足元の影が不気味に蠢く。


「《影刃(シャドウ・エッジ)》」


 次の瞬間、ルーシアの影が膨張した。


 それは決して戦いと呼べるものではなかった。

 一方的な、蹂躙だった。


 ルーシアの影が無数の蛇のように分かたれる。

 影の先端が刃のような形へと変貌すると、それら影の触手が宙にゆらゆらと浮かび上がる。


 実体を持った影。

 それらはまるで鞭のようにしなりながら荒れ狂う。


 その光景はまるで嵐だ。漆黒の嵐が吹き荒れている。


 影の刃が風を切る。僕の動体視力では捕らえきれない速度。

 ルーシアの影が振るわれたことに僕が気付いたときには、既に魔獣が紙を切るかのように惨殺されている。


「……さっさと死んで」


 ルーシアが酷薄に呟く。

 

 魔獣はその巨体故に、高速で振るわれるその刃を回避できていないようだ。

 硬い装甲を持っているはずの魔獣も、ルーシアの影刃は易々と切り刻んでいく。


 血飛沫が舞い散り、悲鳴が響き渡る。

 我先にと魔獣が逃げ出していき、ようやく周囲は静寂に包まれた。


 流石はSランク死霊種(アンデッド)

 あの魔獣の群れを一瞬で殲滅するとは……想像以上に凄まじい力だ。


 Sランクのパーティーであるはずの《覇者の翼(フリューゲル)》ですら、勝てるかどうか怪しいほどに、ルーシアは強かった。


 だけど確か、吸血鬼(ヴァンパイア)は太陽の光が弱点だったはずだ。


 一部の強力な吸血鬼の場合は弱点である太陽の光すら克服しているという話だが、彼女がそうである保証はない。


 テイマーの役目は、使い魔に全力を出させることだ。

 もしも彼女が太陽の光を苦手とするのなら、僕がそこを補わないといけない。


「ご主人様……どう?」


 褒めて欲しい、と目に書いてあったので、僕はルーシアの頭を撫でた。

 随分と懐かれたものだが、僕にとっては好都合だ。


「流石はルーシアだ。君と出会えて本当に良かった」

「うふふ……」


 本当に。

 これならば――地上へ出ることも夢ではないだろう。



「面白い!」

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