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23 復讐②


 戦闘開始と同時、ライラが光を収束し、無数の光線として射出する。


「《煌き雨(プリズム・レイン)》」


 狙いはアベルとロジェ……ではなく、その後ろに控えるユミナだ。

 シンシアを除く三人の中で、一番厄介なのが彼女であるため、ライラには事前にユミナを最初に潰すよう命令してある。


 光線がユミナを襲う。

 しかし彼女が杖を一振りすると、紫色の障壁が発生してそれらを防いだ。


「ライラは精霊魔術で太陽を遮りつつ攻撃。ルーシアはアベルたちを倒すのを優先。アリアはルーシアの援護を」


 太陽光を遮る《光の天蓋(ルクス・カーテン)》の制御に意識の半分以上を注いでいるライラは、その場から動くことはできない。

 そのため、ルーシアにはアベルとロジェの二人を抑えてもらう必要がある。


「了解。私に……任せて」

「ああ、期待してるよ」


 シンシアはまだ動かさない。

 彼女は切り札である。ここぞという場面で裏切らせる予定だ。


「――《太陽神授・灼熱の王(フェイク・ソレイユ)》」


 ライラに対抗するようにユミナが詠唱を終え、大魔術を発動する。

 彼女の頭上に巨大な火球が発生した。ルーシアが眉を顰める。肌が焼けるように熱い。ルーシアから感じ取れる力が徐々に減少していく。


 ……魔術によって擬似的に太陽を再現したのか。


 勿論それは本物の太陽などではなく、ただの魔術によって生み出された巨大な火球に過ぎない。

 しかし魔術的な定義において太陽であると見立てられるその火球から放たれる光は、明らかに|吸血鬼であるルーシアの力を削いでいる。


 とはいえ、本物の太陽と比べると感じられる力は小さく、ルーシアの力は半分以上残っている。本物ならば三割を切ると考えると、まだ余裕はある方だ。


 しかし……あの疑似太陽をどうにかしない限り、ルーシアは本来の力を完全に発揮することはできそうにない。


 吸血鬼(ヴァンパイア)にとっての太陽の光とは呪いである。

 太陽を司る神によって種族全体に課せられたそれは、ユミナの生み出した模造の太陽に宿る太陽神の威光、その断片からの影響を避けられていない。


 ――だが、それを加味しても、ルーシアはアベルとロジェの二人を圧倒していた。


 人外の身体能力、膨大な魔力、不死身に近い再生能力――それらが《多重・使い魔強化》の支援魔術によって更に強化されているためだ。

 力が半減してなお、ルーシアは《勇者》と《剣聖》を同時に圧倒していた。


「……雑魚、雑魚、雑魚! この程度で――ご主人様の使い魔である私に勝てるとでも?」

「黙れッ! 黙って、死ね――ッ!」


 アベルが闇の中でも白く輝きを放つ大剣を振るう。

 死霊種への対策なのか、その大剣は死霊種が弱点とする聖なる鉱石――聖銀(ミスリル)製の聖剣だ。


 剣先が僅かにルーシアの柔肌を切り裂く。

 ほんの少し掠っただけにも関わらず、聖なる力によってルーシアの肌が赤く焼け爛れる――が、支援魔術によって強化された人外の再生能力は受けたダメージを即座に回復、ルーシアは怪我を無視し、アベルに向かって《影爪(シャドウ・クロウ)》を振り下ろした。


「クソッ」


 アベルが堪らず後方へ退避する。

 剣で受けるのは無理だ。吸血鬼の怪力で振るわれるそれと激突したら、拮抗することすら難しい。


 戦略上、ルーシアはただ影魔術(シャドウ・アーツ)によって生み出された鉤爪を無造作に振り回しているだけで優位に立つことができる。

 アベルやロジェは、その破壊を具現化したような漆黒の暴風に近付くことすらできない。


 彼ら二人は遠距離攻撃の手段を持たない。それらはユミナやシンシアの役目だった。

 しかし、こちらと内通しているシンシアは気付かれない程度に方向を逸らしたりと攻撃を手加減している上、ユミナはライラの対応に手を取られていてそれどころではない。


「《紅炎(プロミネンス)》」

「《煌き雨(プリズム・レイン)》」


 ユミナの頭上の火球が膨らみ、幾条もの炎が発生しライラへと迫る。

 ライラの背後から放たれた無数の光が炎を撃墜していく。


 凄まじい光景だ。

 魔術師同士の戦いは基本的に派手になるものだが、最上位の魔術師同士ともなると筆舌に尽くしがたいほどの光景が展開される。


 炎と光が激しく衝突し、余波が熱風となって吹き荒れる。僕は耐熱の支援魔術を自身へ施した。


「しかし……警戒してるな」


 この場において一番厄介なのはユミナだ。

 彼女さえ崩せればルーシアも力を完全に取り戻せる上、ライラもアベルたちへの攻撃に集中できるため、真っ先に早めに潰したいところだが……。


 シンシアを動かしても、ユミナは倒せないだろう。

 彼女は味方であるはずのシンシアにも警戒を向けている。やはり脳筋のアベルやロジェはともかく、彼女までは騙せなかったか。


 ルーシアを向かわせようにも、ユミナの疑似太陽の魔術が生命線であると理解しているアベルたちはそれを防ぐように立ち回っている。

 影に潜って近付くのも無理だ。太陽の光はユミナの周囲にルーシアの影を寄せ付けない。


「まあいい。どの道……前衛を倒せばユミナ一人ならどうとでもなる」


 ルーシアが《影爪》を振り下ろす。

 余波として発生した衝撃波がアベルたちを襲うが、二人は紙一重で回避。

 だが、それによって二人が分断されたその瞬間にルーシアは大地を蹴り、ロジェに向かって突撃した。すかさずアリアが風の魔術でアベルへと攻撃を仕掛け、援護に入ろうとしていたアベルを押し留める。


 ロジェの持つ武器はアベルの聖剣とは異なり、死霊種に対して有効な効果はない。

 本来はシンシアによって祝福が施されており、死霊種に対して有効打になるはずだが――シンシアが祝福の量を密かに弱めているため、大した効果を発揮していなかった。


 ルーシアの足元から影の刃がロジェへと迫る。

 同時に一層加速。ロジェが飛来する刃を全て切り払い、防ぎ、回避するが、加速したルーシアの蹴りがロジェの胴に叩き込まれる。凄まじい衝撃。胃液を吐きながらロジェが吹き飛ぶ。


 先日は気絶で済ませたが――今回は一切の容赦なく殺す。


 倒れるロジェを庇うようにアベルが動く。

 全身から魔力を放出し、牽制として放たれているアリアの攻撃魔術を強引に無効化すると、そのままルーシアへと斬りかかった。ロジェへと振り下ろされようとしていた《影爪》が、ルーシアの右腕ごと宙を舞う。


「無意味なことを……」


 腕を切断されたルーシアは、しかし痛みを感じている様子すらなく、アベルたちを嘲笑した。


 ルーシアと対峙するアベルの背後で。

 切り離された白く細い右腕の《影爪》が蠢き、刃の形となり――蛇のように動き、ロジェの心臓を貫いた。


「これで……一人目」

 

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