14 Sランクのテイマー
「ご主人様……ここで止めを刺さなくてもよろしいので?」
「いいよ。そんなことをしたら犯罪者だ」
冒険者、それも最高ランクであるSランクともなればある程度の横暴は許されるが――流石に殺人まで許容されはしない。
「ですが、あの男……アベルは、気絶する瞬間までご主人様に殺意を抱いていました」
「そうだね」
「ご主人様、よろしいので? ここで殺しておかないと、あの方たち……必ず報復に来ますよ?」
「それでいいんだよ」
そう、それでいいのだ。
相手が報復に来たところを返り討ちにすれば――たとえアベルを殺してしまったとしても、正当防衛で押し通せる。
「なるほど……差し出がましい発言を、申し訳ありません」
「構わないよ」
とはいえ、あれでもアベルたちはSランクにまで至った最高峰の冒険者だ。
対峙したときの凍えるような怖気から、ルーシアが死霊種であるということには気付くだろうし、さらに吸血鬼であるという点まで見抜く可能性もある。
あるいは、シンシアが洩らす可能性もある。一応後で口止めはしておこう。
ともあれ、どちらにせよ。
アベルたちがまともな頭を持っているのなら、こちらに襲撃してくる際には、徹底的にルーシアへの対策をした上で仕掛けてくるだろう。
ルーシアは強いが、アベルたちはあれでも《勇者》や《剣聖》、《魔女》といった称号を戴くまでに至ったSランク冒険者だ。
そうなると……万が一の可能性もある。
ゆえにルーシアの忠告は間違ってはいない。
だが、そのリスクを取ってでも、僕はアベルを合法的に殺すつもりだった。
復讐をしないという選択肢はない。
だが、あんな奴のために人生を棒に振るのは馬鹿馬鹿しい。
――太陽に、聖銀に、十字架。
吸血鬼は強力な種族であるが、同時に弱点も多い。
だが……それを埋めるのがテイマーである僕の役目だ。
そのためには――と、僕はちらりとシンシアを見た。彼女は俯いたまま立ち尽くしている。
できることならシンシアをこちらに引き込んでおきたいところだ。
聖職者の扱う祓魔術は、死霊種の天敵だ。
それは吸血鬼とて……例外ではない。
□
――レインとルーシアが冒険者ギルドの中に入っていくのを見て、野次馬たちは揃って息を吐いた。
ルーシアが消えて、ようやくその場を支配していた冷気が消えていく。
「レインに従ってたあの女、《剣聖》と《魔女》をあっという間に倒しやがった……化け物かよ」
恐れを込めて呟いたのは、Aランク冒険者の一人だ。
王都のギルドで活動する数多くの冒険者たちの中でも、最もSランクに近いとまで言われているその男ですら、ルーシアと呼ばれていた美女には恐怖を感じずにはいられなかった。
戦闘時のルーシアは、それほどまでに邪悪な気配を発していた。
最初は野次馬していた一般人も、ルーシアがその本性を顕にしてからは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。中には気絶したり失禁したりしている者さえいる。
「あれは死霊種でも相当な高位の種族だろうな……」
「高位の死霊種っていや、幻霊や邪霊、吸血鬼、死導師辺りか?」
「幻霊や邪霊は霊体寄りの種族だから違うだろ。レインが連れてたやつはもっと肉体寄りだった」
ルーシアの種族の推測が成されるも、決定的な答えには至らない。
誰かが吐き捨てる。
「《勇者》や《魔女》の奴ら、レインのことを雑魚だの何だの言ってやがったが……とんでもない化け物じゃねぇか」
そもそも、あの絶対的な恐怖を発する怪物に、一切恐怖を感じさせることなく寄り添い、使い魔として完璧に使役しているレインが異常なのだ。
テイマーが使い魔を使役するための最も一般的とされる方法は、暴力により屈服させて相手を支配する方法だ。
勿論、高い知性を持つ存在ならばその限りではないが、逆にそういった存在は基本的に、弱者に素直に従ったりはしない。
精霊種などはテイマーから魔力を供給されることを対価として使い魔契約を結ぶこともあるが、それはどちらかというと例外的だ。
特に死霊種の場合は生者に敵対的なため、なおさら対話による契約は難しい。
だから、その場にいた者たちは、レインが、Sランク冒険者を瞬く間に倒したルーシアすらをも屈服させる――そんな圧倒的な力を持っていると勘違いした。
「あれが……Sランクか」
誰かの呟き。
それが、この場にいたAランク以下の冒険者の心情を代弁していた。
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