12 《覇者の翼》との遭遇
ようやく地上へと辿り着く。時刻はすでに夜だ。そのまま街へと戻る。
疲れてはいたが、迷宮の入り口で休憩するよりも、早く街に戻って宿で休みたかった。
街の前にまで辿りついたところで、ルーシアに訊ねる。
「ルーシア、姿を消したりってできる?」
「姿を消すのは無理ですが……影の中に隠れることなら」
「じゃあそれで」
妖精であるアリアや、聖職者のシンシアはなんとか耐えていたが、死霊種の放つ負の瘴気は一般人には毒だ。
ルーシアに限界まで抑えさせれば街中を歩いても問題はないだろうが、使い魔としてギルドに登録するまでは下手な騒ぎを起こさないに越したことはない。
ルーシアが水中に潜るように、僕の影の中に入っていく。
それを見届けた後、僕たちは街の中に入った。もう夜も遅いが、まずはギルドに行って、ルーシアを使い魔として正式に登録してしまおう。
そうして街の冒険者ギルドの前に辿り着いたところで、ちょうどギルドから出てきたところのアベルたちと遭遇した。
「嘘……レイン!?」
「……なッ、レイン、お前……生きてたのか!」
「死んだと思ってたのか? ああ、死んでなくて残念だったな」
驚愕の声を上げるユミナとロジェにそう返す。
最後にギルドから出てきたアベルは、僕の姿を見てしばらく呆然としていたが、やがて僕の後ろにいたシンシアに気付くと、彼女に怒声を飛ばした。
「まさかシンシアッ、お前がこいつを蘇生したのか!」
「いえ、私は何も……」
迷宮を出てからずっとシンシアが俯いている。どうしたのだろうか。
まあいい。それよりも、今は目の前のアベルだ。
「ああそうだ、先に荷物は返しておくよ」
背負っていた荷物をアベルに向かって投げる。
「――ルーシア」
「了解」
同時に、ルーシアへ命令する。
次の瞬間、僕の影の中に潜っていたルーシアが飛び出し、アベルに肉薄した。
だが、腐っても勇者と呼ばれるだけある。
アベルは奇襲に反応して即座に大剣を抜き、盾代わりにしてルーシアの蹴りを防ぐ。だが、ルーシアの攻撃はそんな程度では防げない。
人外の膂力で蹴られた大剣が粉々に粉砕される。アベルが目を見開いた。
そのまま脚を振り切り、ルーシアはアベルを思い切り蹴り飛ばす。
大柄なアベルの身体が面白いように吹き飛び、石畳を転がり、壁に激突して停止した。
「ぐっ……」
僕はルーシアを伴って、倒れるアベルに近付く。
油断はない。
アベルがSランク冒険者だとしても、ドラゴンを単騎で屠れるルーシアと比べると明確に劣っている。
僕ではアベルの攻撃に対処できないが、ルーシアなら可能だ。
「《使い魔強化》」
更に念の為、《使い魔強化》でルーシアの力を強化しておく。
ルーシアの力が支援魔術によって引き上げられる。アベルがルーシアを見上げ、急激に上昇したその力に瞠目した。
「なん……だ、その魔術は……!」
「え? ただの支援魔術だけど?」
「ふざけるなッ! 俺を馬鹿にしてるつもりか……!」
馬鹿にしているも何も……《使い魔強化》はテイマーの職業が扱える一般的な魔術だ。
使い魔にしか効果がない代わりに、その分多少は普通の支援魔術よりも効果が大きいが――ただそれだけの魔術だ。
「アベル、いつも見下していた僕に見下ろされる気分はどうだい? 別に僕が強くなったわけでもなく、ただ運良く……そう、君に落とされた迷宮の最下層で、運良く強い使い魔を従えただけの僕に負ける気分は?」
嘲笑する。
ルーシアが頬を赤く染め、興奮した様子で僕の首筋を舐めた。
「クソ……ッ、使い魔に頼りやがって、卑怯だぞッ!」
「あまり笑わせないで欲しいな」
思わず素で笑ってしまった。
テイマーである僕に使い魔に頼るなというのは、剣士に剣を使うなと言うようなものだ。馬鹿馬鹿しい。
僕は倒れ伏すアベルを見下ろした。
僕よりも遥かに才能があり、強いはずの《勇者》。かつて僕はその強さに憧れを抱いていた。
そんなアベルが今――僕の前で無様に転がっている。
「安心しなよ。心底から殺してやりたいが……今は殺しはしない。街中でルーシアに殺しなんかさせたら、ギルドもルーシアを使い魔として認定しないだろうからね」
テイマーの使い魔には制限がある。当然だ。
使い魔と称して街中に制御できないドラゴンなどが連れ込まれた日には大変なことになる。
ただでさえ死霊種は生きとし生けるものの敵対者とされる種族であるため、認定の基準は相応に高い。
この乱闘騒ぎですらかなり危険だ。
ここでアベルを殺してしまったら、二度と街には入れないどころか、それこそギルド側から討伐対象にされかねない。
「シンシアに感謝しなよ。もしも彼女がアリアを蘇生してなかったら……僕はここまで自制できなかっただろうから」
「面白い!」
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