壱与と十六夜
以前もこういうの書いたのですが、もういっちょ、エピローグちゃれんじしてみました(笑)。
邪馬台国女王卑弥呼がこの世を去って、男王が即位するも倭国大乱により、国々に争いは絶えなかった。
かねてより卑弥呼もそれは予言しており、その現状を目の当りにした邪馬台国の臣下は、女王の言葉通り、わずか13歳の巫女壱与を女王へと担ぎあげた。
それから3年、彼女や臣下たちの活躍により大乱は平定され、再び平和な日々が訪れていた。
そして秋を迎え、実りの時がきた。
夜中、虫の鳴き声で目を覚ました壱与は寝室を抜け、神殿をでて裸足のままで夜の道を歩いた。
ただただぼんやりと、夢遊病のように。
神殿のある聖域から集落を抜けて、稲穂が頭を垂れる田へとやって来た。
「・・・・・・」
彼女はゆっくりと稲穂の中へと入っていく。
風が抜け、稲穂が揺れる。
稲は壱与の胸あたりまで伸びていた。
空には満天の月と星々が煌めいている。
稲の中心で彼女は歩みを止めた。
それからじっと、豊穣の稲穂を見つめ続けた。
彼女の長い髪が風に吹かれたなびく。
次第に滂沱と溢れ流れる涙、何故だろう何故、私は泣いているのだろう。
壱与はふとそう思ったが、それはどうでもいい事だった。
泣くのが心地よいのだ。
これまで感情を押し殺し、緊張と恐怖の連続、少女は歯を食いしばり続けた。
だから、今はただ泣いている。
心のままに。
ズッと鼻をすすると、鼻水でツンと傷みが走る。
彼女は思わず笑った。
だけど、涙は止まらない。
夜陰に慣れた目で、揺れる稲穂を見ているだけなのに嬉しい。
幸せとは得難いものだと彼女は思っていた。
これが幸せ?
ふとそう感じると、収まりつつあった涙が息を吹き返す。
「ははははは」
声をだして笑う。
そして稲穂を眺め続ける。
田を走る風が気持ちいい。
ずっと、ずっと、このままで。
薄らと白みがかった空から、赤い朝陽がのぼり、稲穂を金色に染めた。
彼女はまだ見続けている。
揺れる稲穂を。
もうすぐ朝だ。
今日がはじまる。
壱与は袖でごしごしと涙を拭いた。
それから、
「よし」
と一言、呟いて、背を向けた。
そこには十六夜がいた。
女王壱与の巫女、姉であり、そして友である。
十六夜は微笑む、壱与も微笑み返した。
「いつからいたの?」
「さっきですよ」
「ふふふ、嘘」
ふたりは金色の稲穂の海を渡る。
原由子さんの「花咲く旅路」を聴く度、一時、この光景がずっと浮かんできていました。




