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公爵令嬢に転生したサイコパスは毒と魔術を操って、すべてのクズにザマァする。  作者: 砂礫零
第三章 後妻と義妹と婚約者

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3-12. 海と成功は人を開放的にするもの④

【カマラ視点】

 葬送の鐘の音が、海に吸い込まれるように消えていってはまた、響きわたる。


「もう始まってしまっているようです、奥さま…… 急がせますから!」


「かまわないわよ。王都で普通に葬儀すればいいものを、わざわざこんな遠くで、なんて。そんなの考えるのが、いい迷惑なんだから」


 あせっている馬丁には、カマラの返事は聞こえなかったようだ。

 馬車がぐっとスピードをあげた。


「やれやれ…… まったく、面倒だわ。こんなところに呼びつけるなんて、お嬢さまは死んでも世話をやかせるよね。そう思わないかい?」


「ええ、ほんとうに! 尊大で欲張りで、どうしようもないかたでしたよね」


 赤い髪と夕空の色の瞳の侍女のことばに、カマラは気分よくうなずいた。

 彼女はもともとヴェロニカ付きだったが、ウィッグの管理などというつまらない仕事を押しつけられてキレた勢のひとりだ。

 いったん話を振れば、ヴェロニカの悪口が噴水のように飛び出すところが気に入って専属侍女にしたのである。


「でも奥さま、急ぎませんと。悲しんでいるふりはしたほうがお得でしょう?」


「あら? 悲しんでいるわよ、あたしは…… あの子をあんなに簡単に死なせてしまってね! 母親と同じくらい、苦しめば良かったのに…… 」


「ローザさまは、長いご病気だったそうですね」


「ふふふ…… 本当はね、病気なんかじゃなかったのよ」


「え……?」


「誰にも内緒よ? 本当はね、アーニーが毒をくれていたの。 『護身用』 ってね。でも、そんなのタテマエに決まってるわ」


「へ? どういうことですか?」


「だって…… そのとき一緒にいた、あるおかたがね、約束までしてくださったのよ? あたしがこれを使っても罪にならないよう取りはからう、ってね! それがどんな意味かだなんて、わかるでしょ?」


「そうだったんですか…… つまり、旦那さまが本当に愛されていたのは、カマラさまのほう、ってことですよね!」


「そう、そうなのよ! ローザなんてただの政略にすぎなかったのよ!」


「さすが、奥さまです……! 最初から旦那さまは、奥さまひとりを愛されていたんですね」


「そのとおりよ! 愛されてるのは、あたしだけなんだから」


 馬車はカマラのご機嫌な声をのせ、葬儀場へとひた走る ――



 

「遅うございましたのね、カマラ」


「……! ……ヴェロニカ? どうして…… 」


 葬儀場についたカマラは、出迎えてくれた人物を見て、あぜんとした。

 おどろきのあまりしばし言葉を失ったあと、やっとの思いで声をしぼりだす。


「あら…… かわいい義妹(いもうと)の葬儀を姉のわたくしが仕切るのは、とうぜんではなくて?」


「…… は?」


「おかわいそうに、カマラ…… 時間はたくさんありましたのに、いらっしゃるのが遅くて、ドリスとの最後の時間を一緒にすごせませんでしたのね…… ほんとうに、お気の毒ですわ」


「………… なにをいってるの、あんたは…… 」


 ありえない……

 カマラの声が、震える。

 ―― 死んだのは、ヴェロニカのはずなのに!


「…… ああ、ほら。あの煙が見えまして?」


 ヴェロニカは悲しげに眉を寄せた。


「いま、あの子が、あとかたもなく焼かれているところですわ…… けれどもきっと、灰になって海にまかれたら…… たくさんのお魚と、お友だちになれますわね?」


「…………!」


 カマラは、煙に向かって駆け出した。



「ドリス……! ドリス……! どうして! どうしてあたしの娘が!」


 ―― 自分とそっくりな黄色い髪が炎につつまれて、ゆれている。

 ―― ふっくらとしたほおも、腕も、足も。

 ―― 男は絶対に夢中になるから上手に使うんだよ、と教えてやった、立派な胸にも尻にも、火の舌が()いまわる。


「ドリス……!」


「奥さま、落ち着いてください」


「えええい、うるさい! あたしのドリスを返して! ドリス! うそでしょ、うそよ、こんなの……!」


 とりすがる侍女を突き飛ばし、炎のすぐそばに走り寄ろうとしたとき。

 別の腕が、カマラをとらえた。


「カマラ・トレイター。イアン第二王子を殺害したかどで、あなたを逮捕します」


「……! はなして! なんのことだい!?」


「イアン第二王子の部屋のグラスについていた毒 ―― あれをあなたが持っているのと同じものだと、何人もが証言しています」


 己をとらえた人物を見て、カマラはがくぜんとした。

 銀の髪に灰青色の瞳、怜悧な美貌 ―― ヴェロニカの友人と名乗っていた男だ。


「あんた! あんたたちが仕組んだね! この悪党どもが!」


「まあ…… カマラ。()()()使()()()がそのようなことを言っては、王族不敬罪になってしまいましてよ?」


「なにいってるんだ、あたしは公爵夫人…… 」


 彼女を連れていけ、とセラフィンが騎士たちに命じる。

 引き立てられていくカマラの目に、美しくほほえむヴェロニカの顔がとびこんできた。


「知りませんでしたの? 再婚の手続きはまだ、終わっていませんのよ、カマラ」


 そしてもう、終わることもないでしょうね……

 ヴェロニカのつぶやきはカマラの耳には届かなかったが、その唇の動きは、カマラにも見てとれた。


 ―― 永遠にさようなら、悪役メイドさん。 



※※※※※※※※

【ヴェロニカ視点・一人称】


『もっとはやく、こうすればよかったわね!』

『ママったら。あの女と邪魔者ババァ、それに娘…… 立て続けじゃバレるからって言ったの、ママじゃない』 

『そうだけどさ。邪魔者ババァを消しても、誰にもなにも言われなかったろ? 大丈夫なんだよ…… 』


 ありし日のカマラとドリスの喜びにあふれた声が、法廷に響きわたる ――

 法廷内がざわめき、カマラが 『こんなのデタラメだよ!』 と叫んで役人に注意された。


「こちらは、当家とクリザポール商会が極秘に開発しておりました 『録音装置』 を使い、侍女たちに、カマラとその娘の会話を記録させましたものですわ」


「なんと…… 『録音装置』 とは」


「風魔法と光魔法を特殊な魔導式で組み込んでいますの。いずれ、クリザポール商会から発売されるでしょう」


 小型の録音装置 ―― 以前にパーティーのための花火や幻術セットを頼んだとき、クリザポールが仕事で使っていた伝達メモの応用である。

(余談だが、幻術セットは幽霊のふりをするときにも使った)


 あのとき約束したとおり、クリザポールは母の葬儀後すぐに、試作品をいくつも届けてくれたのだ。


「試作品ができましたのが、母の葬儀の直後で…… 当家では侍女たちにテストをしてもらっていたのですが…… ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ようですわね…… 」


「嘘だよ! あたしはそんなこと言ってな 「被告人だまりなさい…… しかし、その会話が事実だという証拠は?」


「こちらにございますわ」


 私は装置をかかげてみせた。

 魔導式を唱えると、装置から、たった今のカマラのキイキイ声が響いてくる ―― 『嘘だよ! あたしはそんなこと…… 』


 法廷はふたたび騒然となった。

 カマラが口をぐっと結んで私をにらみつけるが……

 痛くもかゆくも、なくってよ?


 ―― その後、()()()()()ボイスレコードは次々と、カマラの所業を明らかにしていった。

 ()()()()()()()()()()()()()()彼女とイアン王子を毒殺したこと。

 嫉妬から私の母に毒を盛り続け殺したこと…… 

 ただし 『邪魔ものババァ』 ことアッシェライア前侯爵夫人の死については、証拠不十分で不問になってしまったが。

 罪状としては、これだけあればじゅうぶんだろう。


 毒薬の入手方法も問題になったが、カマラが盗んだ、ということでおさまった。

 私も父も()()をきりとおしたためである。

 父は 『毒はあくまで家の者の護身用。一介のメイドなどに与えたことはないし、与える意味もわからない。不心得ものを雇ってしまったことは当家に責任があるものの、当家は被害者だ』 と言いきった。ある意味、立派だ。

 ―― こんな男の愛を期待していたなんて、カマラもかわいそうに。


「嘘だよ! デタラメだ! あたしはだまされたんだ! マルガレーテさまはどうしたんだい? マルガレーテさまに聞いておくれよ!」


 カマラはしきりと叫んだが、陪審員は満場一致で有罪を決めた ―― 複数の殺人と、窃盗の罪で処刑。


 カマラの顔が、絶望にそまっていった。


 法廷で可決された処刑法は ――


『はだしで市中引き回しのうえ、鞭打ち。焼けた石を抱かせて縛り、生きたまま海に沈める』


 カマラを沈める海は、私がとくに願い出て、ドリスの灰をまいた内海にしてあげた。せめてもの慈悲だ。

 海の底で娘とふたり、お魚さんと仲良くなれるといいね。



 1ヵ月後 ―― 

 私は別荘から海を眺め、思い出にひたっていた。

 カマラの処刑に立ち会ってきたばかりである。

 カマラは市中引き回しの間は 『わるいのはヴィンターコリンズの悪党とクズ王族どもだよ! あたしはだまされたんだ!』 とどなっては役人にこづかれる、を繰り返していた。

 だが海に沈めるまえ、焼けた重石を抱かされたときはさすがに、泣き叫んでいた ―― なかなか良い声だったと思う。

 

 父は来なかった。

 いちおう聞いてみたら 「なぜみな、そのようなつまらぬもののことを聞いてくるんだ?」 と不思議そうな顔をされた。

 こういうひとなんである ―― さて。どうやって片付けようか。



「ここにいましたか、ロニー」


「セラフィン殿下」


 私が完全には振り返らずに呼ぶとセラフィンは、いそいそと寄ってくる ―― しっぽをふる大型犬(シベリアン・ハスキー)みたいだ。


 セラフィンはカマラの処刑に、私と一緒に立ち会ってくれていたのである。

 ヨハン第三王子、イアン第二王子と相次いで消えたあと、私の次の婚約者(いけにえ)は立場の弱い王弟であり年齢も同じセラフィン ―― 世間的にはそう思われているし、政略的にも確実にそうなるだろう。

 なので同じ別荘にとまっていても、なんの問題もない。

 問題はない、だが ――


 黙って隣に並ばれても、私が困る。


「あの…… セラフィン殿下。このたびは、いろいろとご協力くださいまして、ありがとう存じます」


「…… まったくですよ。とくにアレは、つらかった」


「ほんとうに、ごめんなさい。ひとを騙すようなことばかり、させてしまいまして…… メアリーからも叱られましたわ」


「違います」


 セラフィンの大きな手が、私の両腕をとらえた。


「私がつらかったのは、あなたを裏切るようなことをしていたからですよ」


「…… わたくしが、お願いしましたのに」


「それでもです」


 いつもは冷たい灰青色の瞳が、切なげにうるんでいる。

 ―― このひと、ほんとうに私のことが好きなんだ。

 ゲームの設定でベタ惚れなのは知っていたし、本人からも言われていたけれど。

 その理由をまだ私は知らなくて。

 なのに ―― 


 設定もセリフも理由もとびこえて、彼の気持ちが私のなかに入ってくる。


「見返りをいただけますか?」


「なんでしょうか?」


「私と、結婚してください」


「それでしたら、当家の家令か父にご相談くださいな。断られないと思いましてよ、()()ですもの」


「ロニー。あなたから直接、返事がほしい」


 詰んだ。

 なんとなく、そう思った。

 ―― そもそも私は女王さま気質というか、承認欲求と支配欲のかたまりというか……

 いつだって人の中心でみなを従えて輝いていたいし、そのための努力を惜しまないところがある。

 けれど、そうして身に塗り固めてきたメッキを、この男は剥がしにかかるのだ。

 マナーにダンスに語学に美貌。そんなもので飾り立てた中身は空虚なのだと…… それを知られるのがなによりも嫌なことなど、知らぬ、とでも言いたげに。


―― ほおをそめて承諾とか、その辺の純情女子のようなマネは絶対にしない、と私は決めた。

 無駄なプライドだが、私にとっては重要なことである。


 実際の私が超絶奥手 (今世) で、喪女で枯女 (前世) で、この年齢(トシ)で恋は初めてだ、などということは。

 それも押されまくってチョロッといってしまった、などということも。


 意地でも、悟らせてあげたりはしない ――


 返事のかわりに、私は彼の耳に口を寄せ、ささやく。


「また一緒に、わるいことしましょうね、ラフィー」


「光栄です」


 セラフィンが笑って、私を抱きしめる。

 私たちはいつかより、ずっと長いキスをした。


 そのあとセラフィンは、以前にした約束どおり、秘密の思い出を教えてくれたが ―― 私にはやっぱり、思い出せなかった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 毒はあくまで家の者の護身用 どう護身するん??自殺用ならわかるけど
[一言] ( ´・ω・)⊃ご祝儀
[良い点] やはり、ここのところのクズ度合いで言えば、カマラがダントツだったので、相応しいざまぁでした。 公爵のおっさん、悪い意味で逞しいけど、ざまぁに一役かっているから良し(笑) そして個人的には…
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