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エピローグ 01

 翌日。亜樹の家には朝早くから多くの警官が出入りして、なにやらたくさんの段ボール箱を持ち出していった。関係者特権で警官に話を聞いたところ、昨日の夜に亜樹が自首しに来たらしい。共謀罪が適用されるため逮捕は免れないが、おとなしくしていれば三年程度で外に出られるだろうとのことである。三年と聞くと長く感じるが、次の夏のオリンピックが開催されるまでと考えればあっという間だ。のんびり待ってやることにしよう。


 十月も終盤に差し掛かった。店長を失ったことで、『ビッグショッカー』は当然閉店。店が無くなったということはつまり、俺は職を失ったというわけで、無職生活は今日に至るまで絶賛継続中である。


 そろそろ働かなくちゃならん。そんなことはわかっている。ただ、まともな働き口がない。高校卒業以来、ロクな職に就いてこなかったから仕方なかったといえば仕方ないのだが。


 貯金もそろそろ底をつく。とりあえず、バイトでもなんでもいいから働かなきゃならん。


 そんなことを考えながら夕方の来田街をフラフラ歩いて求人募集の紙が張り出された飲食店かコンビニがないかと探していると、道端でばったり木場と出くわした……というよりも、なにやら企んだ笑みを浮かべているところを見るに、わざわざ俺に会いにきたのかもしれない。


 木場は挨拶より先に、開口一番「星野くんから聞いたわよ」と言い放った。


「亜樹さんが急に実家帰ることになってお店なくなったんですって? まだ無職? まあ、蓮がそんな簡単に次の仕事を探せるなんて思わないけど」


 亜樹が逮捕されたということは店の関係者の一部しか知らない。星野くんもその『一部』に含まれてはいるが、さすがに逮捕の件は隠してくれたらしい。


 俺は内心で星野くんの良識に感謝しながら「無職で悪いかよ」と返す。


「悪いわよ。勤労と納税は国民の義務よ」

「わかったよ。それで、そんなことを言うためにここまで来たのか?」

「そんなわけないでしょ。店が無くなって働き口に困ってると思ったの。アンタ、わたしに雇われなさい」

「お前な……この前も説明しただろ。俺はヒーローにはなれないから――」

「誰がヒーローになれなんて言ったの? アンタはあくまで助手。いえ、部下! 下っ端! 手下! 来田街のヒーローはこのわたしただひとり!」


呆れたのは先ほどと同じだが、今度は声も出てこなかった。なんだコイツのテンションは。変なものでも食ったのか。


 さすがに自分でも少しおかしいと思ったのか、視線をそっぽに向けた木場はぽつぽつと語り出した。


「……今回の一件で、わたしと真っ直ぐ向き合って立ってくれる誰かが、本当に頼りにできる誰かが必要だって実感したの。わたしの知る限り、とりあえずそういうヤツはアンタだけ。現場に立ってとは言わないし言えない。でも、その、手伝いって形なら問題ないはずだし、だから、その……」


 ぶっきらぼうな口調の裏にはこそばゆい感情が見え隠れする。こっちまで聞こえてくるくらい大きな心音。赤く染まる耳に前歯で噛んだ下唇。


 特別な耳を持っていなくたってわかる。気の迷いでもなんでもなく、本気で言ってくれてるんだ、こいつは。


 ……それなら答えは決まってる。それに、飯のタネにも困ってたところだ。


「知らねえぞ。前科者が問題起こしても」

「……本当? 一緒に、やってくれる?」

「嘘ついてどうすんだよ。ただし、きっちり給料は払って貰うからな」


 その時、そう遠くない距離で誰かの悲鳴が聞こえてきた。事件の予感を肌で感じる。


「勤務初日からハードになりそうね、蓮。覚悟はいい?」

「まだヒーローの時間には早いだろ。時間外労働の賃金、出るんだろうな」

「冗談。ウチはド級のブラックよ。残業代も早出代も出ない。お客様の笑顔と感謝の言葉が最大の見返り。でしょ?」


 ……早くも後悔しそうだ。とはいえもう遅い。ため息をひとつ吐いた俺は「行くぞ、木場」と〝相棒〟の肩を叩く。


「もちろん」とウインクで返した木場は、俺に先んじて道を駆け出した。


 長い夜はこれから始まる。

とりあえず終わりです

この話から地続きで繋がっている『月給24万円でヒーローやってるけど〜』の方の続きを書く予定だったのですが、なろうコンが12月からということでそちらに向けた新作を書いているため、続きの方は後ろ倒しになっています

もう少しお待ちください


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