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蝶々仮面のパンドラ  作者: ギュラ ハヤト
第八章【眠りの森の美女】編
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眠りの森の美女編――第4部――



「君の知ってる遊びというのは、具体的にどんな物なのだ?」

「ん~とね、かいじゅうごっこ!」

「怪獣・・それはどうやればいい?」

「こーやってね、ギャオーッ!ってほえながら、つめできりさいたり、くちからこうせんをはくの!」

 すると、メリーは突然鋭い牙と鋭利な爪を持つ、まるで別の生物の様な顔に変化し、その口から光線を吐いてみせた。

「不可能だ。私にはそんな力は無い」

「でーきーるーのー! ここはゆめのせかいだから、そうぞうすればなんでもできるの!」

「想像すれば・・何でも?」

「うん!」

「フム・・・・・・」

 確かにここは夢の世界なのだから、通常不可能とされる事も、ここでならイメージ次第で出来るのかもしれない。

 そんな事を考えながら、パンドラは先程のメリーの模倣に挑む。

 だが牙はともかく、爪は矮小、光線にいたっては手持ち式の花火に等しいレベルに留まった。

「ギ、ギャオ~?」

「ちがう! もっとかいじゅうになったつもりで!」

「ギャオーッ!」

「ちーがーう! もっとかいじゅうのきもちになるの!」

「か、怪獣の気持ちとは? 君には分かるのか?」

「かいじゅうはね、まわりのなにもかも、すべてをはかいしつくすんだよ」

「全てを破壊し尽くす・・破壊者という事か?」

「おねえちゃん、かいじゅうしらないの?」

「あぁ。そんな名称の生物は聞いた事がないな。どういう外見なんだ?」

「んっとねぇ・・・・・・」

 メリーはそう言うと、どこからともなくスケッチブックを取り出して地面に置くと、同じく取り出していたクレヨンを手に勢い良く描き殴り始める。

「んしょ・・こんな感じ!」

 しばらくしてメリーが描き上げた怪獣は、全身が黒々としており、またシルエットは刺々しくもあった。

 また、二本足で立ち周囲の建物を切り裂いては、身体の所々を発光させ、口から吐いた光線で足元の町を破壊の渦に巻き込む様子が、パンドラにも分かる位に描き込まれている。

「・・まるで世界そのものに対する憎悪を押し固めた様な奴だな。だがこれなら出来そうだ」

 パンドラはそう言うと、【蝶・効・果(バタフライエフェクト)】を用いて、その場から消えるのではなく、身体そのものを無数の蝶の群生体の様な状態に留めると、それを数倍の大きさまで強大化させた。

「こんな感じか・・ギャォォォォォッ!」

 次の瞬間、眩い光を放つ口内から放たれた光線は、地面を大きくえぐり、爆発に次ぐ爆発を引き起こしたのである。

「ひゃ~~! すごぉぉぉおぉおぉぉぉぉい!」

「や、やり過ぎた・・・・・・」

 大興奮のメリーに対し、パンドラはその光景を見ながら群生体のまま青ざめた。

「だがまぁ、裏を返せばイメージ次第でどうとでもなるという事か」

「はぁ・・お腹すいた」

 メリーはそう呟くと、おもむろに一本の木に近づき、何と次の瞬間、口を頭の数倍にまで広げ、その木を一口で噛み千切った。

「!」

 一瞬、眼を見開くパンドラだが、直前に牛頭馬頭の二体を今よりも大きな口で一飲みしていた事を思い出す。

 ところが、終始美味しそうに木を食べていたメリーが、何故か葉の部分を意図的に残している事に気付いた。

「何故葉の方は食べない?」

「そっちはマズイからイヤ!」

「ホウ・・・・・・」

 何とも子供らしい言い分だと思いながら、パンドラはその葉を手に取る。

「ではこちらは私が頂くとしよう」

 そうしてパンドラは自身の口の中へ木の葉を放り込んだ。

「フム・・コレは中々」

 ムシャムシャと葉を食べるパンドラは、異なる木に生える別の葉に手を伸ばす。

「ホウ、葉が違えば香りや味もやはり変わるか」

『パンドラ大丈夫かい? 見てるコッチがお腹痛くなりそうだよ・・・・・・』

 インカムデバイスからトーマスの不安そうな声が響いた。

「問題ない。本来人間が取る食事と同様の味と食感が確認出来る」

『へぇ・・・・・・』

「そんなに興味あるなら、ニコラを連れてこちらに来たらどうだ?」

『じゃあ、お邪魔しようかな』

 そう言うと、インカムデバイスの通信もそこで終了する。

「さて、これはどうだ?」

 パンドラは地面に僅かに埋まっている岩に眼をやると、それに両手の指をフォークの様に突き刺した。

 そして岩を地面から引っこ抜くと、メリーの様に頭部の数倍まで口を広げ、一口かじりつく。

「フム、少し硬いがこれもまたウマい」

『ボク、パンドラが何かを食べるとこ初めて見たかも・・』

 ムーンアークのメインブリッジで様子を見ていたキタカゼが一言呟いた。

『余も無いな』

『右に同じく~!』

『私も無い』

「当然だ。本来、人間の食事にあたる行為を必要としていないからな。食べようと思えば食べられるが」

「かけっこするー!」

 突然のメリーの宣言に、パンドラは食事の手をそこで止める。

「かけっこ・・人間が互いの走力を競うやつか?」

「そう! あのとうまで!」

 そう言ってメリーは、遠方にそびえ立つ一つの塔を指差した。

「アレか・・良いだろう」

『待った待った!』

 そこへ空を飛ぶアンドロイド、ニコラに乗って、トーマスが合流する。

「おにいちゃんだあれ?」

「私の連れで科学者のトーマスだ。コッチはその助手のニコラ」

「ハジメマシテ、ニコラトイイマス」

「どーも。話は聞いていたよ。かけっこするなら尚更コレが必要だね」

 そう述べたトーマスが一足のブーツを差し出した。

「・・何だこのブーツは? 何やら通常の物より硬そうに見えるが・・・・・・」

 パンドラの言う通り、そのブーツは形状こそロングブーツそのものであったが、材質が明らかにレザー等ではなく、装甲の様な素材で出来ている。

「あぁ。君の波導エネルギーをより効率的に、より高威力で放てるよう、伝導率を高める為の特殊装甲で造ってある。これには君の脚を使うあらゆる運動をサポートするシステムを備えている他に、加速制動機構も搭載してあるから、フォースウィングを展開出来ない様な狭い場所でも〝蝶〟高速での移動が可能だ」

「ホウ。だが、このままでは脚が入りそうに無いな」

「足首の所にあるボタンを押して」

 トーマスに言われたパンドラは、指示通り、足首部分に配置されていた三角形のボタンを押した。

 すると、持っていたブーツの装甲が突然、複数に分割され、一回り程大きくなったのである。

「脚を入れたらもう一回ボタンを押してね」

 言われた通り、パンドラがもう一度ボタンを押すと、分割されていた装甲が再び一つになり、元の状態に戻った。

「加速と制動のシステムはどう起動させればいい?」

「音声認識。アクセレートで加速開始。アクセルアウトで制動がかかる」

「成程。かけっこには相応しいな」

「ヒャー! かっこいー!」

「それじゃあ僕がスタートの合図を出すね。いくよ? 三、二、一・・スタート」

「どーん!」

「アクセレート」

 《Accerate(アクセレート)

 次の瞬間、パンドラはフォースウィングを展開していないにも関わらず、ブーツからの電子音声の直後、音速を超える速度で走り出し、膨大な衝撃波によって周囲のあらゆる物を吹き飛ばしていく。

 たった一人、同時に走り出したメリーを除いて。



《眠りの森の美女編――第5部へ続く――》

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