第81話 農民、少女たちと地下から抜け出す
「うわ……うまく言えないけど、すごいね」
「……あんまり、冷静に言うなよ。俺も、傍から見たら馬鹿みたいだと思うから」
うん。
ある意味、当たり前の反応というか。
ルーガのところまで戻ったら、その姿を見て呆れられた。
すっかり脱力して、ぐんにゃりしているマンドラゴラを両手で抱えているのって、他の人から見たらどう映るのかね?
いや、かと言って、地面に下ろすわけにもいかないので、下手に背負って、根っこの部分が下についてもまずいだろうから、結局、前の方で抱きかかえるしかないんだが。
てか、今は周りが真っ暗だから意識しないで済んでるけど、上半身裸の女性みたいなのを抱えているんだよな?
……ゲームとは言え、色々ときついぞ。
何か羽織るものないかね?
「でも……やっぱり、すごいね。その子、生きてるんだ?」
「まあ、死なすわけにもいかなかったしな。とりあえず、今は落ち着いていてくれてるから助かるよ。これで、暴れられでもしたらどうしようもないしな」
大人しいというよりも、弱ってる感じだけどな。
その辺は気にしてもきりがないのでスルーだ。
というか、だ。
ルーガの姿を見て、ひとつ問題が残っていたことに気付く。
「とにかく、今はオレストの町まで戻ろうと思うんだが……ルーガはまだ麻痺状態のままなんだよな?」
正直、今、手が離せる状態じゃないから、いざ、ルーガを一緒に連れていくとなると、どうしていいのかわからないんだよな。
少なくとも完全に痺れているわけではなさそうだけど、身体の一部をちょっと動かしただけでも辛そうなのだ。
こうやって、俺と会話をするだけでも痛そうだし。
「うん、ちょっと厳しいかな……あ、そうだ」
「何かいいアイデアでもあるか?」
「その、マンドラゴラの足元の土、少しもらってもいい? 苔が付いてるから」
うん?
土が欲しいんじゃなくて、マンドラゴラの苔が、ってことか?
「どういうことだ?」
「あのね。そのマンドラゴラが生やした苔って、状態異常に効くんだよ」
「そうなのか?」
それじゃあ、もらうね、とルーガが何とかかんとか苔のあるところまで手を伸ばして、そのまま、採った苔を口へと運ぶ。
えっ!? ちょっと待て!?
「えっ!? そのまま食べるのか!?」
「もちろん、本当は加工した方がいいけど……そのまま舐めているだけでも効果はあるの」
言いながら、ガムでも食べるかのようにもぐもぐと苔を咀嚼するルーガ。
食べ物としては、あんまり美味しくはないのだが、そのまま口でよく噛み続けると、次第に効能が現れるのだそうだ。
へえ、けっこうすごいんだな、この苔。
そもそも、マンドラゴラ自体が、状態異常には強いモンスターなのだそうだ。
だからこそ、『叫び』を使ったりしても、同族への影響はないのだとか。
あれ?
それにしては、このマンドラゴラ、変なバッドステータスが多かった気がするが。
もう一度、『鑑定眼』を使ってみるか。
名前:ウィメン・マンドラゴラ(混乱状態)(◆◆状態)(虚弱状態)
年齢:5
種族:魔樹種(モンスター)
職業:
レベル:15
スキル:『叫び』『直死の咆哮』『株分け』『マーキング』『音魔法』『土魔法』『つるの鞭』『自己治癒』『モンスター言語』『眷属成長』
「あれっ!?」
「どうしたの?」
「いや……マンドラゴラのステータスが見える、ぞ?」
何でだ?
もう、さっきので捕らえたから、ってことか?
とりあえず、『狂化』状態はなくなっているようだな。
その代わりに『虚弱』ってのが追加になっているから、今のぐんにゃりした状態が『虚弱』ってことなんだろう。
てか、スキル多いな、マンドラゴラって。
やはり、こういう形とは言え、『直死の咆哮』ってスキル名を見ると、本当にぞっとするよ。
間違いなく、『即死』系のスキルを持っていたってことだものな。
ただ、もうひとつ気になったのはレベルだ。
俺が想像していた以上に低いのだ。
「レベル15……だったのか?」
このくらいのレベルなら、俺ともそうは変わらないよな?
ルーガのレベルが見えたことを考えると、このマンドラゴラのレベルが読めなかったのはおかしい。
それとも、『狂化』の状態の時は、レベルが変動しているのか?
「セージュ、他の人のステータスも見えるの?」
「ああ。そうだ、さっきは緊急時だったから、ルーガのも『鑑定眼』を使っちゃったんだ。勝手に見て、ごめん」
「別にいいよ。見られて困ることなんてないもの」
もう一回見てみる? とルーガが聞いてきたので、折角なので確認させてもらう。
名前:ルーガ
年齢:14
種族:人間種
職業:狩人
レベル:22
スキル:《なし》
「おっ! 麻痺が治ってるな」
「うん、大分楽になったかな? ありがとう、セージュ」
そう言いながら、ルーガがゆっくりと立ち上がる。
まだ、身体を動かす時に少し痺れが残っているらしいが、そっちは『麻痺』の後遺症って感じらしい。
少なくとも、自力で動くことができるぐらいには良くなった、と。
へえ、このマンドラゴラの苔って、すごいんだな。
だからと言って、もう一度、戦闘したいかって言うと、勘弁してほしいが。
今度は、『狂化』になってない普通のマンドラゴラと交渉がしたいもんだ。
「よし。それじゃあ、俺が入って来た穴から出よう。ルーガ、このまま後からついてきてくれ」
「うん、わかった」
そのまま、俺たちふたりは、この穴の外へと向かった。
「ふぅ、やれやれ……何とか、外に出てこれたな」
いや、太陽の光がまぶしいな。
穴の中でも、そんなに不自由しないって言っても、やっぱり、俺も元々もぐらじゃないし、普通に光があるとこの方が落ち着くよな、うん。
ちなみに、ここまでの間、まったくモンスターとは遭遇しなかった。
結局、この地下道って、何のためのものだったんだろうな?
けっこう、謎だ。
分かれ道もなくて、ずっと一本道だったしな。
「ふうん? ここがセージュの住んでいる町の近く?」
「そうだよ。少し歩けば、町まで戻れるな」
こんな景色初めて見た、とルーガがちょっと驚いたような表情をしている。
というか、だ。
日の光の下で改めて、ルーガの姿を見て、俺も驚いた。
蒼い色の髪、いや、それよりも更に濃い青というか、藍色に近いか? 何というか、うまくは表現できないが、髪にわずかに光沢があるせいか、まるで、星が輝いている夜、というような色の髪をしているのだ。
ステータスでも、14歳とはわかっていたが、俺よりも頭ひとつ小さいぐらいの背丈で、どちらかと言えば、少し子供っぽい印象が強いか?
ただ、服装は、狩人だけあって、モンスター素材っぽい毛皮のようなものも身につけているため、そっちの雰囲気から、大人っぽくも見える。
「うん? どうしたの?」
「あ、いや、何でもないぞ。それよりも、早いとこ、町まで行こう。また、変なモンスターに襲われても嫌だしな」
「うん、そうだね」
一瞬だけ見惚れていた、なんて恥ずかしくて言えないもんな。
そんなこんなで慌てて、話を逸らして。
俺たちはそのまま、オレストの町を目指すのだった。




