第74話 農民、穴の中でトラブルに遭遇する
「おっ!? なんだ!?」
しばらく暗闇の中を歩いていくと、突然、『ぽーん』という音が響いた。
そして、次の瞬間、少しだけ洞窟の道の先の方が見えるようになった。
『新しいスキルを取得しました』
「えっ? 新しいスキル?」
こんなメッセージ初めて見たぞ?
あれ? カミュに『身体強化』を授与された時は何も表示されなかったよな?
もしかして、自分でスキルを覚えた時だけ表示されるのか?
いや、そもそも、何で、ステータスウインドウのメッセージが読めるようになってるんだ?
とにかく、自分のスキル内容をチェックしてみる。
名前:セージュ・ブルーフォレスト
年齢:16
種族:土の民(土竜種)
職業:農民
レベル:13
スキル:『土の基礎魔法Lv.11』『農具Lv.1』『爪技Lv.9』『解体Lv.9』『身体強化Lv.6』『土中呼吸(加護)』『鑑定眼(植物)Lv.6』『鑑定眼(モンスター)Lv.7』『緑の手(微)Lv.2』『暗視Lv.1』『土属性成長補正』『自動翻訳』
『土の基礎魔法Lv.11』――魔技『アースバインド』
魔技『岩砕き』
あ、スキルが増えているな。
これか、『暗視Lv.1』か。
なるほど、それで、完全な真っ暗から、少しだけ見えるようになったってわけか。
相変わらず、遠くまでは見通せないけど、それでも、ステータスの文字とかはしっかりと視認できるようになっているな。
てか、改めて見ると、大分、スキルのレベルがあがってきたな。
『土の基礎魔法』もレベル10を越えてきたし、他のスキルも順調に育ってるな。
……って、ちょっと待て!?
「あれ? 『緑の手(微)』のレベルがあがってる?」
今まで『農具』と一緒で、まったく成長していなかったはずなのに、何でだ?
『農具』の方は相変わらず、レベル1のままだし。
もしかして、『緑の手』って勝手に発動するタイプのスキルか?
少なくとも、俺が自分で使おうって意識したことはないし。
「まあ、考えられるのは、さっきのなっちゃんとかとの一件だよな」
虫モンスターと仲良くなったから、『緑の手』が成長したってことか?
うーん、たぶん、それほど間違ってはいないだろうけど、それにしたって、条件がよくわからないぞ?
結局、この『緑の手』って何なんだ?
「いや、こんなとこで悩んでいても仕方ないよな」
せっかく、『暗視』も覚えたわけだし、もう少し進んでみるか?
洞窟の奥へと進むべきか、それとも引き返すべきか。
俺がそのことで悩んでいると。
――――次の瞬間。
『KYAAAAAAAAAAAA――――!』
「な!? 何だ!? 今のは――!?」
洞窟の奥から聞こえてきたのは、耳をつんざくような甲高い悲鳴のような、呪いの叫びのような、凄まじい咆哮だった。
その声を聴いただけで、力が抜けていくような。
まるで、言霊を含んだかのような重い狂声。
誰かが助けを求めているのか?
それとも、モンスターが発した声なのか?
てか、明らかに人間じゃない感じの叫び声だったぞ。
さあ、どうする?
普通に考えたら逃げた方が良さそうだ。
俺自身はそんなに強くないし、今、ここには危険なモンスターを相手にできるような、十兵衛さんとか、カミュとかが同行しているわけでもないし。
単なるモンスターだけだったら、行くだけ意味がないだろう。
下手をすれば、死に戻るだけだろうし。
だが。
これは、ゲームで。
俺はβテスターだ。
だとすれば、たとえ、死に戻ることになったとしても、ここは逃げないことが大切だろう。
もしかすると、何かの隠しイベントでも引き当てた可能性もあるし、もしそうなら、俺が踏みとどまって、情報を持ち帰ることも必要になるはずだ。
さすがに、こんなところまでわざわざやってくるような物好きが、そうそういるとも思えないしな。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
緊張している時ほど笑え。
親父からの教えを思い出しつつ、俺はゆっくりと声がした方へと歩みを進めた。
結果として、出たのは鬼でも蛇でもなかった。
暗がりの中に見えるのは、床に倒れ込んでいる女の子と、そして、少し離れた場所で立っている上半身が裸のようなモンスターだった。
倒れているのはテスターか?
いや、まだ離れていてよくわからないが、どうやら、モンスターがその女の子に向かって、攻撃を続けているようだ。
『KYA!』
先程聞いたような大音量ではないが、そのモンスターが甲高い声を発するたびに、空間が震えて、衝撃波のようなものが生まれている。
てか、俺のいるところまで波が届いているな。
身体の芯まで響くような衝撃で、一瞬吹き飛ばされそうになる。
当然、そんなものを近くで受けている少女も、その衝撃で身体を飛ばされて、そのまま床へと叩きつけられている。
てか、まずいな!?
急いで助けに入らないと!
そのまま、少女へと駆け寄りながら、『鑑定眼』を使う。
名前:ルーガ(麻痺状態)
年齢:14
種族:人間種
職業:狩人
レベル:22
スキル:《なし》
名前:ウィメン・マンドラゴラ(狂化状態)
年齢:5
種族:魔樹種(モンスター)
職業:
レベル:◆◆
スキル:『◆◆』『◆◆◆◆◆』『◆◆◆』『◆◆◆◆◆』『◆◆◆』『土魔法』『◆◆◆◆』『◆◆◆◆』『◆◆◆◆◆◆』『◆◆◆◆』
【素材アイテム:素材】マンドラゴラの苔
ウィメン・マンドラゴラの能力で成長させた苔。眷属の一種で、これが生えている地面はマンドラゴラへの養分の供給源となる。
ちょっと俺自身も予想外な鑑定結果が出たな。
てか、もう突っ込まないからな!
さすがに、またかよ!? とは思ったが。
なるほど。
あっちの上半身が女性の裸みたいになってる緑色のモンスターは、マンドラゴラの雌ってことらしいな。
大分近づいてきたからわかるが、確かに、下半身……特に足の部分は地中に埋まっているように見える。
何となく、上半分が女性の裸なので、人魚とかそっち系に近いような気がするな。
これが、『PUO』の世界のマンドラゴラか。
そして、倒れていた女の子はルーガって名前らしい。
職業は狩人か。
確かに、さっきまで倒れていたところには、弓とかも落ちているもんな。
それにしても、『麻痺状態』か。
鑑定で、その手のバッドステータスもわかるようになってるんだな。
例の『狂化状態』もバッドステータスの一種だった、ってことらしい。
『KYA!』
そうこうしている間にも、例の『叫び』が発動して、衝撃波が飛んでくる。
どうやら、発動するまではある程度の間隔が必要なようだな。
一度、喰らって飛ばされた後は、しばらくは、マンドラゴラは何もしてこないようだ。
衝撃波によるダメージもそれほどではないようだ。
むしろ、飛ばされて、地面に叩きつけられたり、壁に飛ばされたりした時に、そっちで身体の痛みがひどくなるというか。
いや、俺の場合、痛覚が軽減されているんだっけな?
身体の方はそれなりにダメージを受けているのかも知れない。
ただ、そんなことを言っている場合じゃない。
『叫び』の隙をついて、そのまま、ルーガって女の子の側まで駆け寄る。
「おい! 大丈夫か!?」
「――――っ! しっ……ぱい、し……た」
俺の存在に気付いても、身体の方は痺れたままのようで、発する言葉もろれつが回っていない状態だ。
だが、まだ、生きてはいるようだな。
よし!
心の中で、ハラスメントコードすみません、と謝りつつ。
今は緊急時なので、少女の身体を抱えて、そのまま、マンドラゴラとの距離をとる。
どうやら、さっきから見ていると、このモンスターは、それほど移動はできないようなのだ。
下半身が地面に埋まっているから当然だろうが。
とにかく、それは付け入る隙だ。
遠距離攻撃はさっきの『叫び』だけのようだから、まず離れて、少女の回復を行なう。
そう決断して。
そのまま、その少女を抱きかかえたまま、戦闘からの逃げへと転じた。




