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第67話 農民、テスター三日目の朝に、昨日のことを振り返る。

「さてと……今日は、サティ婆さんに頼まれていた素材の採取に行ってみるか」


 一夜明けて、テスター生活も三日目に突入した。

 昨日は結局、あの後は、サティ婆さんの家で、夕食のスープを作るのを手伝って、ハヤベルさんが初心者向けのクエストを終えて戻ってくるのを待って、一緒に夕食を食べて、そのままの流れで就寝となった。

 俺の場合、色々あって、あのクエストに半日近くかかったんだが、受け取ったクエストのうち、ひとつかふたつを達成して戻って来るだけなら、そんなに時間はかからないのな。


 ハヤベルさんは、パクレト草をたくさん採取して、それでクエストをクリアしたのだそうだ。

 ついでに、襲い掛かって来たぷちラビットも撃退して、そっちも達成したらしい。

 夕食の席で、うれしそうにパクレト草を並べていたのが印象的だったな。

 ぷちラビットの方の『解体』に関しても、俺が事前にやり方を伝えておいたので、そっちにもチャレンジしたのだそうだ。

 一緒についてきてもらった冒険者の人にも少し手伝ってもらって、何とか、初めてながらもスキルを使わない解体に成功したのだとか。

 というか、ハヤベルさん、そもそも『解体』のスキルを持っていないので、選択の余地がほとんどなかったんだけどな。後は冒険者ギルドにそのまま引き取ってもらう方法だけだけど、そっちは解体の費用とかで持っていかれてしまうので、あんまり美味しくないし。

 まあ、何だかんだで、討伐料と素材買取りで少しはお金を得ることができたようで何よりだ。


 で、だ。

 その際、ちょうどいいタイミングだから、とサティ婆さんが、パクレト草の処置の仕方のひとつを教えてくれた。

 昨日の『調合』の時にも使った、『乾燥させたパクレト草』。

 それを作るための方法だな。


『素材を乾かすためにも、いくつか方法があるんだよ。一番簡単なのは、自然に乾燥させる方法だね。晴れた日に、日当たりのよいところに干しておけば、ゆっくりと水気が飛んでいくからね』


 やっぱり、こっちの世界でも天日干しは基本らしい。

 薄く切ったアルガス芋とかも干して、干し芋にしておけば、携帯食料としても食べられるようになるから、って。

 この町の場合、アルガス芋が欲しければ、畑の作業を手伝うクエストを受ければ、その報酬として、芋を手に入れることもできるのだそうだ。

 畑に関しては、すべて、町長であるラルフリーダさんの管轄になるので、八百屋みたいな店はなくて、たまに商業ギルド経由で、畑で作った野菜を売りに出す、市のようなものを開いているとのこと。

 分担としては、畑の管理は町長、作業する人の斡旋や収穫などを町長から報酬をもらって冒険者ギルドが、そして、販売に関しては商業ギルドが行なう、そういう形で分業がなされているのだそうだ。

 俺も、サティ婆さんからの又聞きだから、詳しい報酬の流れとかはわかりにくいけど、とにかく、収穫物に関しては、町長の手を一度経由する形になるって話だ。


 つまり、畑に関する相談はラルフリーダさんに、ってことだよな。

 結局、昨日のミスリルゴーレムの件についても、まだ返答がないみたいだし、もし、そっちの話が進んだら、その時にでも、話を聞いてみようかな。


 さておき。

 サティ婆さんが、その時に別の『乾燥』の方法を見せてくれた。

 話に出てきた天日干しとはちょっと違う、魔法を使うやり方について、だ。


『物を乾かすやり方としては、火魔法を調整して、あぶるってやり方もあるけどねえ。あれは、よっぽど強い火魔法の資質がないとなかなか難しいんだよ。火が強いと燃えてしまうし、弱火でじっくり、なんて魔法の使い方をしたら、普通ならあっという間に魔力が枯渇しちゃうからねえ。だから、あたしが使っている方法は、こっちだよ』


 そう言って、サティ婆さんはパクレト草の横に、水玉を発生させた。

 これは、カミュが前に使っていたのを見たことがあった。

 水魔法で、水玉を発生させる術だ。

 魔技の分類では『水玉(ウォーターボール)』っていうやつらしいな。


 その際、サティ婆さんが水玉を生み出すのと同時に、パクレト草が萎れて……水気を失っていくのが見えた。


『水魔法のコントロールを磨いていくと、どこかにある水、ではなくて、対象を固定した状態で水を奪って、水玉を発生させることができるのさ。ここで注意しておくべきことは、対象がもうすでに魔素の循環を行なっていないこと、だね。まあ、要するに、魔法的な意味で死んでいる状態に限るってことさ』


 その時は、見ていた俺もハヤベルさんもびっくりしたけど、水魔法を使って、『乾燥』を引き起こすことも可能とのこと。

 ただし、サティ婆さんの言葉にもあるように、この方法は、魔素が循環している『生き物』に関しては、行使することができないのだそうだ。

 生体に流れる魔素によって、魔法が弾かれてしまう、とか、そういう理屈らしい。


 そもそも、サティ婆さんによれば、この手の使い方ができるようになるまで、水魔法を鍛えるのもそれなりには大変なのだそうだ。

 水魔法のコントロールと、ターゲットを絞ること、どちらか一方だけでも簡単ではないって。


『ふふ、まあ、こういう方法もあるって、頭の片隅にでも残しておきな。今でなくても、いつか役に立つときが来るかも知れないよ』


 あくまでも、薬師の修行の先にあることだ、ってことらしい。

 結局、ハヤベルさんが採ってきた、残りのパクレト草については天日干しにすることになったんだけどな。

 すぐに『調合』の材料にしないのなら、『乾燥』させないと品質というか、状態がどんどん悪くなってしまうから、って。

 もっとも、もう夜が近かったので、風通しのいい部屋で陰干しって感じだけど。

 そのついでに、俺が持っている素材の残りも、一緒に干させてもらった。

 一応、『乾燥』させれば、まだ大丈夫って。


『いよいよ状態が悪くなったら、別の使い道があるからね。簡単に素材を捨てないようにねえ』


 そう言って笑うサティ婆さんの表情が印象的だった。

 薬師たるもの、素材の可能性ってものを大切にしないといけないってことらしい。


 で、夕食では例の野菜スープを食べた。

 モンスターの肉が一切入っていないのに、どこか旨みを感じる不思議なスープなんだよな、サティ婆さんのスープ。

 俺も簡単な下ごしらえとか、鍋を見張ったりはしたけど、肝心の味付けに関しては、結局、全部、サティ婆さんの手によるものだったので、何を使っているのかまではわからなかったのだ。

 一応、料理の話もあったから、それとなくチェックはしていたんだが、時折混ぜる粉末の素材とかが、何なのかまでは教えてもらえなかった。

 俺が持ってる『鑑定眼』では判別できなかったし。


 どうやら、その辺のものも、薬師の修行などとも絡んでくるらしく、サティ婆さんもにこにこと笑っているだけで、話を逸らされてしまったしな。


 まあ、美味しいから、それだけでも十分と言えば十分だけどさ。

 間違いなく、この中で食べたものの中では一番だ。

 食べると、おなかが満たされるだけじゃなくて、少し元気が沸いてくるような、そんな感覚まであるしな。

 不思議なスープだよ。

 ハヤベルさんも、昨日宿屋で食べた料理よりも美味しかった、って驚いてたしな。

 何気に、この町で一番料理がうまいのって、サティ婆さんじゃないのか?

 そういう意味では、この家に泊めてもらっている俺とハヤベルさんは役得だなあ。

 ほんと、この出会いに感謝だよ。


 後は、サティ婆さんの家でそのまま寝て、現実の方へと帰って、そっちでも夕飯を食べた。

 今日のメニューは、どこの国の料理だかよくわからなかったが、それでも、やっぱり美味しく頂けた。

 たぶん、東南アジアのどこかの料理だとは思うが。

 ちょっと酸っぱくて辛かったし。

 老人ホームでも、こういう料理を出すんだな? とか思っていたのだが、やっぱり、同じような料理ばかりだと飽きるから、だそうだ。

 それに、日本食が食べたければ、そっちの専門店もあるので、そっちに行けばいい、ってことらしいし。

 ちなみに、意外と高齢の人にも、和食以外の料理って評判がいいらしい。

 肉好きの人も多いしな。

 そういうことは、この『施設』の中で生活して初めて知ったことだ。

 何となく、長生きする人って、和食の身体に良さそうなものが好きってイメージがあったしな。でも、それは勝手な思い込みってやつらしい。


 なお、『施設』のオペラ風食堂で出会えたのは、カオルさんだけだった。

 何でも、十兵衛さんは、ちょっと前にごはんを食べ終えて、リハビリを終わらせてから休んでしまったらしい。

 ちょっと、こっちの身体が疲れたから、って。

 もしかすると、VR酔いの一種かも知れないな。

 何だかんだ言っても、十兵衛さんって、戦闘中とか、かなりのスピードで動き回っているし、その上、こっちの身体と大分大きさが違うし。

 それなりに疲れてしまうのかもしれないな。


 そして、ラウラの方は、こっちもちょっと前に戻って来て、早めに夕食を済ませたら、また『PUO』のゲーム内へと戻ってしまったのだそうだ。

 ラウラもカオルさんに伝言を残してくれていたようで、それによると『ちょっと特殊イベント発生中で、夜まで続きそうだから、夕食の時間に戻って来れないかも』ということで、早めに食事だけ済ませた、ってことらしい。

 アーガス王国で特殊イベントか。

 ただ、詳しい話は話せなかったみたいだな。

 例の秘密系のクエストと同じような性質のイベントらしい。

 案外、俺の知らないところでも、いつの間にか、その手のクエストがこっそり行われているのかもしれないな。

 そういう意味では、『けいじばん』を使っても、あんまり情報が集まらないのかもしれない。

 そもそも、それぞれのクエストの発生条件がよくわからないんだよな。

 何というか、その都度のタイミングでNPCがらみのイベントが発生しているっぽいから、再現できるかどうかってのが微妙なのだ。

 サティ婆さんの薬師クエストみたいな件もあるから、先駆者が情報を残すのも大事なのは間違いないだろうけどな。


 そんなこんなで、夕食を食べて、食後の時間を使って、十兵衛さんが言っていた『施設』内のジム設備へも行ってみた。

 プールなんかも、高層ビルの上の階とは思えないくらい広くて、かなりテンションがあがってしまったので、そのまま、しばらく泳いだりもした。

 さすがに夜の時間帯だけあって、『施設』に入居している人はあんまりいなかったけど、泊まり込みでお仕事をしているスタッフさんなんかが、勤務交代後にやって来ていたりもしたようだ。

 何人かと話もしたけど、お医者さんって男の人もいたしな。

 その辺は、福利厚生の一種なのかね?

 よくわからないけど。


 後は、器具を使ったトレーニングとかもやってみた。

 というか、ここ高齢者向けの『施設』なんだよな?

 器具の充実具合が半端ないんだけど。

 まるで、どこぞの金色のジムでも目指しているかのようだ。

 トレーナーというか、インストラクターか? その手の手伝ってくれる人とかも常駐しているみたいだしな。

 ジムとか来たことがなかったので、それなりに疲れたけど充実していて楽しかった。

 一応、十兵衛さんが言っていた武道場みたいなところも見つけたけど、その時は見学だけで済ませておいた。さすがに十兵衛さんが一緒でもないと、ちょっとどういうトレーニングをすればいいのかよくわからないし。


 で、後は『けいじばん』を軽くチェックして、そのまま休んで二日目終了だ。

 後は色々あって今に至る、と。


 まあ、色々というか、朝起きて、リアルの身支度とかを色々済ませて、そのままログインしたわけだが、その直後に、初日や二日目の時とは異なることが起こったというか。

 

 その説明も含めて、そのまま続く。

ちょっとだけ、ダイジェスト風味です。

この辺りはテンポアップしていかないと、数話かかりますので(苦笑)。

一応、この辺りから3章スタートです。

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