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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第2章 テスター交流スタート
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第63話 農民、簡易調合について教わる

【薬アイテム:丸薬】傷薬 品質:3

 傷を癒す効果のある丸薬。飲み薬。ただし、味の方は一切保証しない。



 サティ婆さんから黒い丸薬を渡されたので、よく見てみると、これが傷薬で間違いないということがよくわかった。

 いやいや、実際驚いたけどさ。

 何だよ、さっきの『調合』は。

 普通、薬師の調合って言ったら、もうちょっとこう、化学の実験みたいなものをイメージするだろ? サティ婆さんも鍋とか用意していたわけだし。

 それが、鍋に材料を放り込んで、鍋に手を触れて、『調合』って言っただけで、傷薬になっちゃうと、ほんと、何というか、困っちゃうよな。


 横で見ていたハヤベルさんも言葉を失っちゃってるし。

 うん。

 ある意味、衝撃映像だったからな、さっきの調合は。


 ただ、冷静に考え直してみると、これも『解体』スキルとかと一緒で、しっかりとスキルの補助が働くってことなんだろう。

 サティ婆さんも『簡易調合』って言っていたわけだし。


「驚いたかい? 今のが『簡易調合』だよ」

「いや……驚きましたよ。何か、薬師の仕事とちょっとイメージが違うと言いますか。まあ、とにかく、すごいとは思いましたけど」

「ふふ、そりゃあそうだよ、セージュ。あんたの言った通り、本来の薬師の技術とは大分毛色が違うやり方だねえ。まあ、時間短縮にはなるから、物は使いようなんだけどね」


 そもそも、簡単な手順でできる調合なら、『簡易調合』してもメリットが少ない、とサティ婆さんが苦笑する。


「あれ? 時間短縮はメリットじゃないんですか?」

「そりゃあ、作るのに何日もかかるような薬なら別だけどねえ。今作ったのは、普通に作ってもすぐにできるものだからね。このやり方だと、分量は減るし、品質も低くなるから、正直、あんまり頼り過ぎない方がいいやり方だよ」

「あの、サティトさん、この『簡易調合』はやはり普通のやり方ではないんですね?」


 ハヤベルさんの問いに、サティトさんも頷いて。


「そうだよ。これは、『調合』スキルを活用した方法だよ。だから、あたしとかはあんまり使わない手段だねえ。ただ、うまく活用すれば、メリットも大きいのさ。ふふ、じゃあ、『簡易調合』についての説明をしようかねえ」


 と、その前に、とサティ婆さんが、黒い丸薬を手に持って俺たちに示した。


「ふたりとも、このアイテムに触ったね? 名前はなんだったかわかったかい?」

「え? 名前ですか? 俺は『傷薬』で品質が3になってましたけど」

「はい、私もそうでしたね」

「ふふ、やっぱりね。普通に薬を使うだけなら、それでいいんだけどねえ。薬師になるなら、もうちょっとだけ、踏み込んだ方がいいんだよ。ほら、もう一度、この薬を調べてごらん」


 えっ? 何か変わったのか?

 サティ婆さんの意図がよくわからず、でも、言われた通りにもう一度、同じように、その黒い丸薬を調べてみる。



【薬アイテム:丸薬】サティ婆さんの傷薬(黒ノ丸薬/植物/レシピ3) 品質:3

 サティ婆さんによって作られた傷薬。傷を癒す効果のある丸薬で、基本は飲み薬だが、適量の水などに溶かすことで、塗り薬として使うことも可能。

 オレストの町周辺で採取しやすい植物を使用したレシピナンバー3番の丸薬。

 ミュゲの実の味が残っているため、そのまま飲むとひどい味がする。可能なら、水と一緒に飲むことをおすすめする。



「はっ!? なんだこりゃ!?」


 さっきと、名称も、説明文も全然違うぞ?

 今、俺たちに見せる前に、サティ婆さんが何かをしたんだろう。そのおかげで、薬に関しての詳しい内容がわかるようになっている。

 最初のだと、傷薬で飲み薬だってことぐらいしかわからないんだが、後の方のでは、誰が作った薬か、どういう効果があるのか、大分詳細がわかるし。

 レシピナンバーとか、聞き慣れない単語もあるしな。


「これは……サティトさん、一体何をしたんですか?」

「ふふ、驚いたかい? これがわかるかどうかが、薬師としての分かれ道ってわけさ。普通に使う分には、傷薬ってことと品質がわかれば、あんまり問題がないけどね。あたしらみたいに、薬を作る側なら、それだけじゃあ不足ってわけさ」


 そう言ってにっこりと微笑む、サティ婆さん。

 ただ、俺は、ちょっと気付いたことがあるので、そっちも聞いてみた。


「サティ婆さん、もしかして、これって、『鑑定眼』の一種?」

「おや、ふふ、いいところに目を付けたね、セージュ。本当は詳しい説明はもう少し先にしようと思ったんだけどねえ。そうだよ、今のはあたしの薬師の目利きの効果さ。たぶん、あんたたちで言うなら、『鑑定眼(薬)』とでも言うべきものだろうね」


 やっぱりか。

 昨日と今日で、俺も『鑑定眼』については、色々な種類があるってことがわかったしな。

 ヨシノさんが言っていたように、『鑑定眼』には、かなりの種類が存在しているらしいし、『鑑定眼(鉱石)』を目にしたおかげで、ジャンルが細かく分かれているってことも何となく想像がついたしな。

 もしかすると、専門職に必要な『鑑定眼』があるんじゃないか、って。

 その推測はどうやら当たっていたようだ。


「『鑑定眼』……ですか? あれ? それでしたら、私も『鑑定眼(植物)』なら持ってますけど?」

「あ、ハヤベルさん、俺も『鑑定眼(植物)』は持ってますよ。でも、それだけじゃだめなんですよ。この能力自体、植物の中ですら、すべての植物を鑑定することはできないんですから。俺も少し前に知ったんですけど、『鑑定眼』って、細かい種類がいっぱいあるみたいなんです。たぶん、この場合は、サティ婆さんが言ったように、『薬』の鑑定眼を持っていないとわからないんでしょう」

「えっ!? そうだったのですか!?」

「そう、セージュの言う通りだよ。ふふ、よく気付いたねえ。実は、薬師ギルドに所属する薬師の多くも、薬師の目利きについては知らないものが多いっていうのにね」


 一口に薬師って言っても、その力量には幅があるんだよ、とサティ婆さんが苦笑する。

 薬屋にも当たりはずれがある、って。

 ふーん。

 そういう意味なら、それができるサティ婆さんは『当たり』ってことだよな?

 我流なんて言ってたけど、薬師としては、かなりの腕前なのかもな。

 ただ、まあ、俺のこと褒めてくれたけど、それって、他の『鑑定眼』のことも知ってたとか、チュートリアルで一覧を見られる俺たちみたいな迷い人(プレイヤー)だから、あっさりと気付けたってのはあると思う。

 カミュも言っていたけど、普通は、自分のスキルとか、他人に言いふらすような真似はしないから、薬師ギルドといえども、その手の情報は共有化していないんだろう。


 改めて、俺の説明を聞いて、ハヤベルさんも感心したようにしているし。


「ふふ、とにかく、ふたりとも、この薬の詳しい情報はわかったね? それじゃあ、改めて、『簡易調合』についての説明をしようかね。この『簡易調合』って言うのはね、スキルを発動させれば、薬を生み出すことができるんだけど、それには、いくつかの条件があるのさ」

「条件、ですか?」

「そうだよ。適当に素材を放り込んで『調合』って言っても、発動しないのさ。いや、しても失敗扱いでゴミができたりとかね。そういう意味じゃあ、『簡易調合』って言っても、決して簡単なものじゃあないねえ」


 いいかい? とサティ婆さんが続けて。


「『簡易調合』を行なうために必要なのは、ひとつめが『鍋』だよ。薬師の間じゃ、『調合鍋』って呼んでるけどね、まあ、『鍋』って言っても、別に火にかけられる素材の入れ物なら何でもいいよ? ただ、大きさは少し大きめのものがいいかもね。まあ、『簡易調合』だとめったにないけど、完成品のかさが増えるものもあるからね。鍋の大きさより、完成品の方が大きいと、『簡易調合』は失敗するようだしねえ」

「なるほど、鍋ですか」


 とりあえず、特殊な鍋でなくてもいいそうだ。

 この町だったら、武器屋とかで鉄製の鍋も売っているらしいから、大丈夫、と。

 へえ、オーギュストさんのとこ、色々扱ってるんだな。

 もはや、武器屋じゃなくて、雑貨屋というか。

 いや、それで何で農具がないんだよ。

 そこはちょっとツッコミを入れておきたいぞ?

 まあ、結果として、ペルーラさんのクエストが進んだから、別にいいんだけど。


「そして、これは当たり前だけど、薬を作るための素材だね。いくら『簡易調合』でも、素材なしじゃ作れないよ」


 まあ、そりゃそうだよな。

 何もないところから、物を生み出すなんてできないだろうし。

 いや?

 ジェムニーさんが作ってる『魔素料理』はそんな感じか?

 ま、まあ、サティ婆さんが作れないって言ってるから、薬師としては無理ってことなんだろうな。


「そして、最後に三つめの条件だね。さっき、薬の説明の中に『レシピ』って表現があったのに気付いたかい?」

「あ、はい。『レシピ3』ってなってましたね」

「ふふ、そうだよ。あたしの場合は、種別ごとに自分でわかるように番号を振っているんだよ。これは、薬師によって色々と異なるねえ。まあ、とにかく、『調合』には、レシピというかね、『どういう材料で』、『どのくらいの分量で』、『どういう道具を使って』、『どういう処理を施すか』、それらの手順をまとめたレシピっていうのが存在するのさ。そして、『簡易調合』を使うのに一番重要なのは、このレシピだよ」


 なるほど。

 その、レシピを知らないと『簡易調合』は発動しない、と。

 うん、それも当然だよな。

 スキルによる補助がどういう技術なのかわからないけど、適当な材料を鍋に放り込んで、スキル使って、はい完成、じゃ、あんまりだもんな。


「つまり、さっきの『簡易調合』はサティ婆さんだからできた、ってことですね?」

「そういうことだよ。ふふ、材料だけあってもだめってわけさ。一度は自分の手で、地道に作業をして、適量の配分を見つけて、それで薬を作って『レシピ』を得る。それでこそ、薬師ってわけさ」


 そう言って、少し誇らしげに笑うサティ婆さん。

 その、『レシピ』の種類の豊富さこそが、薬師の本懐だ、って。


 うん、その辺は『解体』とおんなじなんだろうな。

 『簡易調合』じゃなくて、地道な手順で薬を作らないと、作れる薬が増やせない、って。

 もちろん、ゲーム的な話になると、新しい『レシピ』を得ることで、作れるものを増やすこともできるみたいだけど、そっちだけのやり方では、薬師としては、あんまりよろしくはないって話のようだし。


「それにね、『簡易調合』にはデメリットがあってね。どんなに良い素材を使っても、品質が低いものにしかならないんだよ。おまけに完成品の量も減るしねえ。ほら、あたしが作っても品質は3にしかならないだろう? 正直、この程度じゃ、薬師は名乗れないよ」


 あ、そうなのか。

 サティ婆さんによると、薬アイテムには品質が存在していて、それらは十段階になっているのだそうだ。数字が大きくなると品質が良くなるって感じで。

 一応ゼロもあるから、十一段階か?

 まあ、その辺はさておき、今、サティ婆さんが作った丸薬の品質3ってのは、『簡易調合』の限界なのだそうだ。

 『簡易調合』では、品質4以上になることはない。

 だから、『簡易』ってわけだと。


「ふふ、それじゃあ、次へと進もうかねえ」


 サティ婆さんの微笑みと共に。

 薬師関連のクエストは続く。

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