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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第2章 テスター交流スタート
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第58話 農民、改めて相談を受ける

「ところで、セージュさんへのご相談って話はどうなったんですか?」


 ドランさんの作った料理を食べ終えて、少しまったりしていた俺たちに、ファン君がちょっとだけ不思議そうに小首を傾げながら尋ねてきた。

 あ、そういえば、そんな話だったんだよな。

 料理の味見優先で、すっかり忘れてたよ。

 そもそも、テツロウさんたちがやってきたのも、その相談事の件だったはずだ。


 ……何だか、ユミナさんも『大地の恵み亭』で働けるようになったし、そっちの話題は半分ぐらいは解決してそうな気もするけどな。

 そのユミナさんも、ペコリと頭を下げて。


「そうでしたね、すみません。あの、話を戻しますと、いざ料理を作ろうとしても、この町で手に入る食材や調味料の種類が少ないという話なんですよ。昨日から調べてますけど、選択肢の幅が狭いと言いますか……先程も言いましたが、主食がうさぎ肉と蛇肉なんですよね、この町って。飢えないようにアルガス芋も作っているみたいですけど、どちらかと言えば、モンスターの肉食文化の方が一般的のようですし」

「まあな。それが安上がりだしな。この町だと、野菜の方が高いな。もっとも、肉があんまり得意じゃないやつらもいるから、作らないわけにもいかないがな」


 ユミナさんの説明に加えて、そこにいたドランさんも教えてくれた。

 アルガス芋と野菜しか食べないお客さんもいるらしい。

 ただ、基本は肉がメインだ、と。

 そのまま焼いて食べるか、一緒に煮こんでスープにするか。

 後は、保存食として肉屋などで作っている塩辛い干し肉か、干し芋とかそういうのを食べたりしているのだそうだ。


「味付けは塩が多いな。肉の臭みを消すのにメイン草を使うが、そっちは香りが強いが、味付けって感じじゃないしな」

「なるほど。そういう感じなんですね」

「あー、やっぱりそうなんだなあ。でだ、セージュ。ユミナさんが言うには、だから、うまい料理を作るためには新しい食材か、味付けにつかえそうなもんを探さないといけないってことなんだってさ。多少工夫するにしても、もうちょっと調味料に幅が無いと厳しいらしいぞ?」


 さすがに塩だけじゃちょっとなあ、とテツロウさんが苦笑して。

 それにユミナさんも頷く。

 まあ、そうだよな。俺も、頭の中で料理を考えるけど、肝心の味付けが塩一択となるとちょっと頭を抱えるよなあ。

 ドランさんの料理も頑張ってる方なんだろうな。


 とにかく、それで俺にも相談なのだそうだ。

 この町、一応、畑で作物とかを作っているから、野草関係なりで、使えそうな食材があったら、育てられないか、って話で。


「畑で栽培ですか?」

「ああ、それは例えばの話だがな。そっちもそうだが、むしろフィールドの方で、向こうの野菜に近そうな野生の食材探しを協力してほしいってところだな。これ、他のテスターのみんなにも手伝ってもらってるんだが、案外、『農民』だったら、そっちを見つけるようなスキルとかもあるんじゃないかなー、って」


 なるほど。

 一応、職業にはそれぞれ、特性というか、補正もあるらしいので、そっちに期待して、俺に相談を持ち掛けてきたらしい。


「そういうことでしたら、俺も手伝いますよ。俺だって、美味しいものが食べたいですからね。『施設』の食事までいかなくても、素直に食べられるものがいいですし」

「あー、そうだよな。逆にあの落差がひどいよな。いや、ありがたいって言ったらありがたいけどさ。あ、そうそう。それで思い出したぜ。俺、ユウのやつと『施設』の食堂で会ったんだけど、その際に、セージュの話になってな。こっちで会ったら、そのことを伝えておいてくれって、言われたんだよ。ふたりとも仲がいいんだってな?」

「えっ!? そうなんですか!?」


 うわ、意外な名前が飛び出してきたな。

 というか、ユウのやつ、東京の『施設』にいたのか。

 前にテツロウさんと話した時も、何となく、やってることがユウと似てるなあ、とは思ったけど、本当に知り合いだったらしい。

 割と、ゲームの大会とかで顔を合わせる、ある意味でライバルみたいな感じらしい。

 

「スタート地点が変なとこで、しかも騎士団のイベントに巻き込まれたから、当分会えそうにないって謝ってたぞ。自分が誘ったのに、こんなことになっちゃって、ってさ。ゲームつながりの同じ高校生の友達なんだって?」

「はい、そうです。リアルではお互い会ったことはないですけどね」

「なあ、セージュの坊主、それにテツロウの坊主もか。そのユウってのはどんなやつだ?」

「あー、そうだな、十兵衛さん。簡単に言うなら、俺らゲーマーの中でも、頭ひとつ抜きんでた腕を持ってるやつだよ。セージュと同じく高校生だけど、大会で優勝したりして、自分で賞金を稼いだりできるくらいのな。一応、年下だけど、俺もユウのことはリスペクトしてるんだ。VR系のゲームの操作ではかなりすごいからな。格闘系のゲームとか、戦争系のゲームなんかじゃ、そのあり得ない速度の動きから、『瞬神』ってあだ名がついたぐらいだし。ほんと、どういう脳みそしてるんだか」

「あー、そんな感じなんですね。俺にとっては、一緒に色々と遊べる友人って感じでしたけど」


 十兵衛さんに、テツロウさんが説明しているのを聞いて、俺も少し驚く。

 いや、薄々、周りのプレイヤーとかから、そういう態度みたいなのは感じてたけど、ユウ本人と話していても、別に普通の、ゲームのうまいやつって感じの程度の印象だから、そこまで、大袈裟な風には思えなかったんだよな。

 馬鹿やれる、同世代の悪友ってとこだ。


「へえ……ってことは、強ぇのか、そいつ?」

「まあね。この『PUO』もVR系のゲームの一種だから、そうだと思う。やっぱり、慣れとかで反応速度にも個人差があるみたいだし」

「なるほどな。はは、いいな、いいな。そいつとも手合せ願いてぇぜ」

「うーん……会うのは難しいんじゃないかなあ? 確か、レジーナ王国がどうとか言ってたしさ。俺も、そのレジーナって国がどこにあるのか知らないし」

「あ、この町からはかなり離れているらしいですよ? カミュがそんなこと言ってましたから」


 レジーナ王国は、この町から南東にずっと行った先にあるんだよな?

 ここから向かうにしても、他の国とか経由しないといけないはずだ。

 というか、ユウがいるのはレジーナ王国か。

 カミュが言っていた二択のうちのひとつだったな。


「あー、そいつは残念だな。俺らとおんなじなら、手合せしても大丈夫だと思ったんだがなあ」


 口元には笑みを浮かべながらも、少し残念そうになる十兵衛さん。

 どうやら、NPCだと死に戻りがないので、手合せのターゲットを迷い人(プレイヤー)に切り替えたらしい。

 いや、辻斬りとかやめてくださいよ?

 そっちは、P(プレイヤー)K(キラー)とか、『悪落ち』って呼ばれてる道だから。

 十兵衛さんがそっち側のプレイに目覚められた日には恐ろしいことになるし。


 ただ、ユウの話を聞いて、ふと思い出したことがある。


「そういえば、このオレストの町では、ハチミツとかって手に入らないんですか?」

「え? ハチミツ、か?」

「はい。俺のいる『施設』で知り合ったテスターのひとりが、この町から南に行ったところにあるアーガス王国にいるんですけど、そっちだったら、ハチミツが手に入るって話を聞いたんですけど」

「えっ!? セージュさん、それ本当ですか!?」

「あ、はい、ユミナさん。多少は高価だって言ってましたけど、それでも、俺たちみたいな迷い人(プレイヤー)でも目につくようなところで売っているようではありましたね」


 ラウラが食べたかどうかまでは知らないけど、その存在については間違いないだろう。

 ある意味、次に向かう国のひとつではあるので、交流とかないのかな? と思ったんだけど。

 ドランさんは少し難しい顔をして。


「いや、この町、立ち位置として微妙でな。あんまり交易とかはしてないんだ。俺も元々はデザートデザートの出身だから、そっちの食材が手に入ると嬉しかったんだが……ある意味で自己完結している町だからな」

「そうなんですか?」


 あんまり行商人とかもやってこないらしい。

 というか、ドランさんってこの町の出身じゃなかったのか?

 確かデザートデザートって、『砂の国』ってところだよな。


「ドランさん、デザートデザートの出身なんですか?」

「おっ、セージュは迷い人(プレイヤー)なのに知ってるのか? まあ、それはそうだよな。俺と同じ種族だものな」

「へっ!? ドランさん、『土の民』なんですか!?」

「あれー? セージュ、気付いてなかったの? だから、ドランってば、料理にケチ付けられて怒ったんだよ。同じ種族なのに、美味しくないって態度を見せるから」


 そうだったのか!?

 ジェムニーさんから聞いて初めて知る事実。

 だから、俺だけ、強制クエストが発生したのかよ。


「まあ、その後で、迷い人(プレイヤー)ってのは、俺らとは好みが違うって知って、そういうもんか、って納得はしたがな。同族の分だけ、思うところがあったんだよ」


 はは、と笑みを浮かべるドランさん。

 いや、何かすみません。

 そもそも、俺がこの町スタートで問題ない理由も、すでにオレストの町に『土の民』がいたからってことらしいし。

 さもなければ、デザートデザートがスタート地点だった可能性もある、と。

 いや、けっこう危なかったんだな、俺も。


 それはさておき。


「ハチミツかあ……いいなあ。砂糖がない以上は、甘いものが手に入ると嬉しいんだけどなあ」

「生憎だが、行商人がこの町には来ないぞ、ユミナ」


 だから諦めるしかないとドランさんが苦笑する。

 その言葉にユミナさんも残念そうな表情を浮かべたのだが、横でファン君が不思議そうな顔をして、リディアさんの方を見て。


「あれ……ハチミツって確か?」

「ん、ハチミツなら持ってる」

「えっ? リディアさん、ハチミツを持っているんですか?」

「ん、必需品」


 なので、一定量は常に確保している、とリディアさん。

 そのまま、アイテム袋から、ハチミツの入ったびんを取り出した。

 何でも、ファン君たちが昨日料理を作った時に、そのハチミツも使わせてもらったのだそうだ。

 肉料理にハチミツを使うと味に広がりが出るから、と。

 いや、どうやら、ハチミツだけじゃなくて、他のモンスター食材とかも、色々とリディアさんは確保しているらしいのだ。

 世界中を渡り歩いて、あちこちの美味しいものを探しているリディアさんにとっては、そういうことも当たり前なのだとか。


 ただ、リディアさんの話だと、残念ながら、生鮮食品のたぐいはほとんどないのだそうだ。アイテム袋といえども、長期間入れていると、食品の劣化は避けられないらしくて、持っていられる時間には限度があるみたいなのだ。

 そうなのか?

 それは初めて聞いたよな。

 でも、時間停止が可能なアイテム袋もあるんだよな?


「あ、セージュ、時間停止のアイテム袋には別の副作用があるんだよー。強制ログアウトの時のペナルティとおんなじだね。少しずつ、生命力が奪われていくの。だから、実は、食べ物との相性が悪いのね」

「ん、ハチミツは普通のアイテム袋に入れてる」


 どんどん、品質が劣化しちゃうから、とリディアさん。

 へえ、そうなんだな?

 うん?

 ということはもしかして、強制ログアウトの時に起きている現象って、時間停止状態ってことなのか?

 まあ、詳しいことはよくわからないが、一見、万能そうなものでも、欠陥のようなものはあるってことらしい。


 だから、食品の輸送はアイテム袋を使っても難しい、と。

 案外、ゲームとして、そういう縛りを生み出しているのかもしれないな。

 何でわざわざそういう設定にするんだ? って感じのシステムも多いし。


 そんな話をしつつ、食材がらみの話はもう少しだけ続く。

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