第55話 農民、フレンド通信を受け取る
食事を待っていると、俺の頭の中で、ぽーんという音が鳴り響いた。
『他の迷い人より、フレンド通信を受けとりました』
『送信者:テツロウ』
『通信をつなぎますか? はい/いいえ/後からかけなおす』
おっ!?
テツロウさんからのフレンド通信だ。
あ、そういえば、今朝、サティ婆さんの家を出てから、十兵衛さんと待ち合わせるまでの間に、フレンドコードがらみで、ちょっとテストみたいなことをやってみたんだよな。
というか、テツロウさんから今みたいに連絡があったというか。
ステータス画面の機能で、フレンドコードを使って、同じ町の離れた場所にいる者同士が連絡を取り合う、ってやつだ。
さすがと言うべきか、テツロウさんってば、その手の新しいことに関しても色々と検証するのに、まったく躊躇していないんだよな。
そういう意味では、セミプロゲーマーの鑑って感じだ。
一応、その時に確認できたことは、だ。
フレンドコードを交換した者同士は、今みたいな感じで『フレンド通信』ってやつを送ることができるようになる。
その機能は大きく分けるとふたつで、ひとつは『遠話』機能。早い話が携帯電話とかと同じことができるってことだ。
距離が離れた相手とも、ステータス画面を通して、連絡を取り合うことができるのだ。
今のところは音声だけみたいだな。
ただ、例の『じっけんちゅう』の項目とは別に、『ちょうせいちゅう』って項目もあって、そっちには画面のようなものもあるので、もしかすると、テレビ電話みたいに映像を送ることとかも実装される可能性はあるのかもしれない。
そっちに関しては、アナウンスとかも一切ないので、単なる憶測だけど、テツロウさんやクラウドさんたちもそんなことを言っていたし。
そして、もうひとつの機能は、即座にやり取りができない場合、まあ、戦闘中とか、トラブルの真っ最中とか、あるいは、相手がログインしていない場合だな。
そういう場合のために、メールを送る機能があるのだ。
『けいじばん』の個別メールみたいな感じだな。
一応、音声吹き込みになっているので、メールを開くと、その時の口調とか声色までも伝わってくるので、単なる書面よりは感情とかが伝わりやすくなっているようだ。
文章が読める留守番電話って言ってもいいな。
一応、このメール機能は、ログアウトしていても見れるらしくて、昨日、十兵衛さんがカミュから受け取ったメールってのも、この機能を利用しているらしい。
『遠話』がつながる条件は、お互いがログインしていること。
お互いの距離が離れすぎていないこと。
そして、今の俺みたいに現れたウインドウで、『はい』を選択すること。
この三つのようだ。
一応、テツロウさん、『けいじばん』経由で、フレンドコードのテストをしてみたらしいんだが、やっぱり、他の町にいる迷い人とは、『遠話』をつなぐことができなかったのだそうだ。
ただ、メール機能については、『けいじばん』同様に可能だったらしくて、そっちに関しては、『まさかできるとは思わなかった』って笑ってたけどな。
俺もびっくりだし。
というか、よく色々と考え付くよな。
そもそも、『フレンドコード(じっけんちゅう)』に気付いたのもテツロウさんだし。
さておき。
そんなわけで、テツロウさんから連絡が来たので、『はい』を選択して、『遠話』に出る。
『もしもし、セージュか? こちらテツロウ。ちょっと話があるんだが、今、時間大丈夫か?』
「はい、こちらセージュです。ええ、大丈夫ですよ。ちょうど、食堂で料理を待っているところですね。ほら、ジェムニーさんって名前のナビさんがいる、『大地の恵み亭』です」
『おっ! 今、ジェムニーさんのとこにいるのか? そいつは好都合だ。なら、俺もそっちに行くから合流してもいいかなー? ちょっと、セージュにも聞いてもらいたい話があるんだよ』
今近くにいるから、『大地の恵み亭』に向かう、とテツロウさん。
「それは構いませんけど……話ってなんです?」
『ああ、ちょっと『料理人』を目指しているテスターさんと会ったんだ。で、そっち関係での相談だな。確か、セージュって、『農民』だったんだよな? だからだな。今、ちょっと、『けいじばん』の料理系スレッドでも、なかなか行き詰っててな。いいアイデアがあったら聞かせてもらいたいんだと』
あ、なるほど、そういうことか。
え、でも、俺、農民としての生産系のクエストって一切やってないぞ?
『まあ、例の食堂にいるってことは好都合だよ。一緒にめしでも食いながら話そうぜ』
「わかりました。ちょっと待っててもらってもいいですか? 俺、今、他にも同行している人たちがいるので、そちらにも確認してみます。テツロウさんも、クラウドさんたちと一緒ですよね?」
『いや、黒さんとアスカっちは朝から別行動してるから、今一緒にいるのは、料理人志望のユミナさんだけだな』
へえ、クラウドさんたちとは一緒じゃないのか。
それぞれで、好きにクエストとか進めたりとかしたいから、夕方合流することにして、昼間に関しては、各人自由に動いているのだそうだ。
何となく、一緒のパーティーの三人ってイメージだったけど、まあ、そうだよな。
その方が色々なイベントとかと遭遇できそうだもんな。
とりあえず、こっちも『遠話』について、十兵衛さんたちに説明する。
三人とも、『けいじばん』をほとんど活用してないから、テツロウさんのこともあんまり知らなかったみたいだけど、他のテスターの人がやってくることは嫌ではないそうだ。
「はは、別に俺は構わねぇぞ。大勢で飯を食った方がうめぇからな」
「ぼくも新しいテスターさんのお知り合いが増えるのは嬉しいですから。怖い人とかはちょっと、ですけど」
「あ、それは大丈夫だよ、ファン君。俺よりちょっと年上だけど、人懐っこそうな感じの人だから」
「セージュさんよりも年上ということは、私と同じくらいでしょうか?」
「あー、そうですね。大学生って言ってましたから」
そういえば、ヨシノさんとテツロウさんって、同じくらいの年か。
でも、別に、ヨシノさんとしても、知り合うのは嫌じゃないそうだ。
そもそも、ファン君が嬉しそうだしな。
俺の知り合いなら、止める必要がないってことらしい。
リディアさんも『気にしない』って言ってるし、特に問題はなさそうだな。
「お待たせしました、テツロウさん。こっちは大丈夫ですので、ぜひ来てください。ちょうど、俺のクエストにも絡んでいたので、人が増えるのは大歓迎ですし」
人数が増えた方が、何か困った時に対応とかフォローとかできそうだしな。
この『挑戦状』のクエストがどうすればクリアになるのか、条件がよくわからないので、テツロウさんたちも一緒なのは、ちょっと心強いし。
『え!? セージュのクエスト絡みなのか、その食事って! 食事系のクエストなんて、まだ聞いたことがないから、ぜひ参加させてくれよ! じゃあ、そういうことだから、すぐ行くぞ!』
「あ、はい」
俺の返事を待つまでもなく、あっという間に『遠話』を切られてしまった。
あの調子だったら、すぐにやってくるだろうな、テツロウさん。
一応、念のため、人数が増えることをジェムニーさんにも伝えておく。
「うん、別にいいよー。こっちも待たせてるわけだし、ドランもね、昨日のあの後で、セージュ以外にも、自分の料理を出してみてたから、やっぱり、色々な迷い人にも味を見てもらいたいと思ってるのね」
慰めるような、それでいてどこか楽しそうな口調でジェムニーさんが笑う。
俺相手の時は、ドランさんも少しムッとしていたんだけど、その後も似たような反応が色々と返って来たせいで、多少は落ち込んでいるのだそうだ。
もちろん、もっと美味いものを、って負けん気もあるみたいだけど、そういう経緯があったので、どういう料理なら俺たち迷い人に喜んでもらえるか、真剣に考えているのだとか。
あ、もしかして、だから、店に入った時、にらまれるでもなく、まっすぐな視線で見られたのかな?
とりあえず、昨日、店を出た辺りほどはドランさんも怒ってはいないってことで、少しはホッとする。
ただ、その分、責任重大になっている感じもするが。
ジェムニーさんの話だと、俺の後に『強制クエスト』に発展したケースはなかったみたいだしな。
「セージュさん、ここでもクエストを受けていたんですか?」
「うん、まあね。カミュに誘われて食事に来ただけなんだけど、なぜかそういう流れになっちゃってさ」
びっくりです、と感心するファン君に、俺も苦笑する。
冷静に考えると、昨日から、変なクエストに巻き込まれているような気がするぞ?
まあ、ラースボアは十兵衛さんが原因だし、ここの食事はカミュが煽ったりした部分もあったし、今日のペルーラさんがらみのクエストも、ファン君たちがいなかったら、たぶん弟子入りとかしてないだろうから、どちらかと言えば、俺が、というよりも、外的要因にたまたま遭遇しただけ、っていうのが事実だと思うけど。
というか、他の人のペースってどんな感じなんだろうな?
この中で一番レベルの高いのは十兵衛さんだけど、そこには届かないけど、俺とかファン君も身体のレベルは10を越えているしな。
これは、けっこうなハイペースだと思うのだ。
それとも、ひたすらモンスターを倒し続けている人は、もっと上なのか?
その辺は、比べてみないとよくわからないけど。
はっきりしていることは、俺のやってるクエストって、『けいじばん』とかで話せないものが多いから、どうしても、そっちで意見交換しにくいってことだ。
自分の手札をさらせないのに、人の情報だけくれ、ってのも何か嫌だし。
まあ、ラルフリーダさんがらみのクエストが落ち着いてからの話だな。
それまでは、『けいじばん』への吹き込みも控えめな感じになりそうだ。
「でも、ひとりだと、緊張感だけの食事になっただろうから、ファン君たちが一緒で助かったよ? 下手をすると、このお店出入り禁止になっちゃうところだったし」
「そうなんですか?」
そうなんですよ、ヨシノさん。
たぶん、ひとりだったら、もっとドキドキしていただろうな。
今はそうでもないけど。
ドランさんが、どんな料理を持ってきてもドンと来いって感じだし。
よし、と気合いを入れなおして。
俺は、料理ができるのを待つのだった。
主人公以外のプレイヤーも色々やってますよ、というお話です。
メインはセージュ視点ですけど、他の人も色々頑張ってることに触れられたらいいな、と思っています。




