表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第2章 テスター交流スタート
59/494

第54話 農民、ログアウトに驚く

「あの、セージュさん、ちょっとの間、ログアウトしてきてもいいですか?」


 ドランさんの料理を待っていると、ファン君がそんなことを言ってきた。

 何でも、向こうでのちょっとした用事があるらしい。

 そう言えば、もうじきお昼だもんな。

 俺とかは、一日中のアルバイトだから、基本、向こうの身体がトイレが近くなったり、食事を取ったりする以外はずっと中にいられるけど、状況によっては、ちょくちょくログアウトしないといけない人とかも多いだろうしな。

 ちなみに、アルバイトに関しては、フレックスタイムというか、ある程度自由にログインできて、ゲーム時間内で六時間以上でログインしてくれれば、あとは好きにしていいってことらしいし。

 四倍速を使えば、わずか一時間半だもんな。

 まあ、短いと言えば短いけど、十兵衛さんたちみたいに高齢の人もテスターをやっている以上は、そのくらいが無難なのかもしれない。


 ただ、それは別にいいんだけど、気になったのは強制ログアウトの件だ。


「俺は別に構わないけど、このままログアウトして大丈夫なのか? 確か、聞いた話だと、強制ログアウトした時って、体力的なペナルティがあるんじゃなかったっけ?」

「え!? そうなんですか!?」


 ペナルティですか? と驚くファン君。

 そんなファン君や俺に対して、テーブルの向こうで給仕のお仕事をしていたジェムニーさんが首を横に振って。


「あー、セージュ、ファン。当日中に再ログインするなら、あんまり問題ないよ? 短時間の出入りに関しては、ある程度は調整できるしねー。こっちの世界から出て行っちゃう時間が長いと、その間だけ、ペナルティが発生するわけだし」

「え? そうなんですか?」

「うん、そう。ちなみに、ファンたちはどのくらいで戻ってくるの?」

「三十分ほどですね。いえ、早ければ、もっと短いです」

「うんうん、それだったら大丈夫だよー。だったら、今すぐ試してみるといいよ。セージュもいい機会だから、他の人が一時帰還するところを見ておくといいんじゃない? 短時間だったら、こんな感じになりますよー、ってのがわかるから」


 ふうん?

 短時間なら、こういう普通のところでもログアウトできるのか?

 一応、こっちも強制ログアウトの一種みたいだけど、日付けを跨ぐ前に戻って来る分には問題はあんまりないそうだ。

 ただ、ジェムニーさんの話だと、日付けが切り替わるぎりぎりの時間帯だと、処理が間に合わないこともあるので、戻る時間については注意するように、とは言われたけど。


 というか、三十分か。

 下手をすると食事が終わってるような気もするんだけど、どうなんだろ?

 まあ、俺的には他の人のログアウトを中から見るとどうなるのか、興味はあるし、それならそれで構わないけどな。


「わかりました。それじゃあ、ちょっと席を外しますね」

「私とファン君が戻ったら、フレンドコードで連絡しますね」


 俺と十兵衛さんが、ふたりの言葉に頷くと、そのままファン君たちはステータス画面を開いて、ログアウトボタンを使ってログアウトを行なった。


「えっ!?」

「へえ、あっちに戻っても、こっちの身体ってのは消えねぇんだな?」


 その、ログアウトをした瞬間、ふたりの身体が目をつぶったままで静止して、そのまま、淡い光に包まれてしまった。


 え、なんだよ、これ?

 今、十兵衛さんが言っていた通り、ログアウトしても身体は残ったままなのだ。

 ふたりとも立ったまま眠っているようで、何だか怖い光景だぞ?

 あまりの状態に、俺が驚いているとそうこうしているうちに、すぐに変化が訪れた。

 ふたりの身体から、淡い光が消えて行って。


「すみません、お待たせしました」

「あ、お二人とも食事が済んでも待っていてくださったんですか?」


 ファン君とヨシノさんが戻って来た。

 いや、こっちの時間でものの一分も経過していなかったんだけど?

 何だか意味がわからないぞ?


「あ、いや……待ったというか、ファン君、ログアウトしてから、ほとんど時間が経ってないんだけど。えーと……? 向こうで、用事ってのは済ませられたの?」

「えっ……? はい、やっぱり、三十分ほどかかってしまいましたけど……えっ? こっちの時間は経ってないんですか?」

「おう、ファンの嬢ちゃんが帰るってやってから、ほんの数十秒ってとこだぜ?」

「ええっ!? そうなんですか!?」

「え、でも、私たち、確かに三十分ほど中座しましたけど……?」


 俺たちの言葉にびっくりしているファン君とヨシノさん。

 いや、俺も驚いてはいるんだが。

 どうなってるんだよ、これ。


「いや、だから、短い間なら、調整できるって言ったでしょ? 三十分とか一時間ぐらいだったら、こういう感じになるよ、迷い人(プレイヤー)の帰還って」

「そうなんですか!?」


 だから、ログアウトでのペナルティはほとんどないってことらしい。

 いや、すごいな、この機能。

 たぶん、これも倍速とかそっちとかと似たようなことをやってるんだろうけど。

 どういう理屈なのか、本当にさっぱりだぞ?


「ジェムニーさん、ログアウトの間も身体はこっちに残ってるんですね?」

「うん、ただ、帰還中は結界の保護があるから、直接攻撃とかからは守られた状態にはなってるけどねー。さっきの光の膜みたいなのが保護膜だから、他の人が触れても、それ以上はどうこうできないかな」


 へえ、そうなのか?

 一応、短時間だったら、今みたいな感じでインとアウトのタイミングを微調整できるし、仮に数時間空いた場合でも、そのままの状態になるので、少なくとも、この間で攻撃されたり、盗難にあったりとかの心配はしなくていいらしい。

 もっとも、この硬直状態が長引くと、その分だけ体力的なペナルティが大きくなるのは変わらないみたいだけど。


「宿屋で寝てても、身体はこんな感じになるからねー。睡眠中、あるいは、帰還中の消耗については、外的要因とかも計算して、ペナルティが発生するようになってるだけだから」


 だから、細かい部分については、状況によってそれぞれ異なる、とジェムニーさん。

 なるほど。

 いや、けっこう、これ重要なことだよな?

 もうちょっと早めに知っておきたかったような気がするな。

 俺がそう言うと。


「うーん、でもね。わからないことを自分で見つけるのも楽しみのひとつなんだよね? ゲームって。だったら、聞かれもしないことをこっちから丁寧に説明するのって、なんか違う気がするんだよねー。うん、その辺はエヌさまからの受け売りだけどねー」


 だから、不親切な仕様になってるんだな。

 まあ、言っていることは間違ってはいないか。

 だからこそ、誰も気づかなかったことを発見するのが楽しいわけだし。


 ともあれ。

 トイレとか食事のためにログアウトするのには、あんまり気を遣わなくても大丈夫だってことはよくわかった。

 ただ、ちょっと気になったのは。


「ジェムニーさん、ログアウトの直後に繋がるってことは、こっちの……ゲームの中の時間をずらして再ログインするのはどうすればいいんですか?」

「ペナルティ覚悟って言うのなら、あっちでログインする時に、どのくらい時間を空けるかってのを要望してくれれば、対応できるよー。ただ、分刻みでの指定とかは、エヌさまの負担が大きくなっちゃうから、一日の時間帯だね。朝、昼、夕方、夜、深夜。そのくらいで『ここに繋いで』って言ってくれれば、対応はできるかなー。もちろん、間が空いた部分は、ペナルティの対象にはなるけどねー」


 なるほど。

 細かい時間指定はできないけど、そんな感じなんだな。

 この機能を使えば、夜とかのイベントとかも対応できそうだ。


「あ、そうそう。ゲームを始める時の最初の説明があったかもしれないけど、向こうの一日分以上のログインはできないようになってるから。それやるとエヌさまの負担増で、かなりリソースを食っちゃうし。なので、条件次第では、日付けを跨ぐまでは再ログインできなくなることもあるから。その場合は諦めて、次の日を待ってねー」

「わかりました」


 ゲームの世界から弾かれるようになったら、そこで本日分は終了、ってことらしい。

 その辺は、前にも聞いたよな。

 倍速は可能だけど、一日以上はできない、って。

 まあ、別に今のままでも、十分に長い時間はプレイ可能だから、そこまで気にはならないけどな。


「でも、倍速機能は便利ですよね。ぼくとか、そのままでしたら、長時間とか無理ですから」

「ですね、ファン君、小学生ですし」


 あー、それもそうだよな。

 ヨシノさんが言うのももっともな話だ。

 というか、治験不十分のゲームで小学生にテスターさせるのって大丈夫なのかね?

 外部とかに漏れたら、倫理とかそっちの方で問題にされそうだけどな。


 ただ、それはそれとして、ファン君たちにとっては、『PUO』の倍速状態ってのはありがたいものではあるようだ。

 やっぱり、それなりに、いそがしい生活なのかも知れないな。


「俺も、長時間は元の身体がしんどいからなぁ。こっちだったら、動き回っても疲れねえんだけどな」


 あっちの身体のリハビリもあるんだよ、と十兵衛さんが苦笑する。

 だから、適当なところで切り上げるって感じらしい。

 向こうでも身体を動かしておかないと鈍ってきてしまうから、と。


 うーん。

 そうなると、俺も程ほどにしておいた方がいいかなあ。

 どっちにせよ、こっちの普通の町って、夜は眠ってしまうから、夜のイベント狙いでもなければ、日が暮れた以降は宿屋に入ってログアウトしてしまえばいいわけだし。


 と、俺がそんなことを考えていると。


「ジェムニー、ごはん、まだ?」

「あー、ごめんね、リディアさん。ちょっと待っててー、今、ドランに催促してくるから」


 すっかり、お腹が空きました、ってモードに入っているリディアさんが、ポツリと食事の催促をして。

 慌てて、ジェムニーさんが厨房の方へと戻って行った。


 あー、そういえば、これ、一応クエストなんだよな。

 正直、どうしていいのか困るんだが。


 そんなことを考えながら。

 俺たちは、ドランさんの料理を待つのだった。

ログアウトの状況次第では、再ログインが不可能になります。

『けいじばん』の方も、発言の順番については、一部処理が施されたりもしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ