第458話 農民、お城への道を戻る
「マスター! 何で、みかんとなっちゃんを置いてきたのよ!」
「下手に接触しようとしたら、ばれると思ったからだよ!」
全力で走っている俺とルーガの横に並走するような感じで、『浮遊』をしながらついて来ていたビーナスが文句を言ってくる。
それに対して、走りながら何とか言葉を返す俺。
もはや、ビーナスの飛ぶ速度は『浮遊』って感じじゃないので、結構、こっちも息が切れそうになるんだが、その辺はアルルちゃんの『憑依』の影響だろう。
ウルルちゃんとかも、単独だとかなり早く『浮遊』できていたので、スキルの響きとは異なり、『精霊種』のそれは『飛行』レベルに達していると思って間違いなさそうだ。
……じゃなくて。
ビーナスが怒っているのは、俺がルーガだけを連れて、隙を見て『お城』から逃げ出してきたことに対してだな。
みかんとなっちゃんを残してきたのを知って、ひどくご立腹なのだ。
「もうっ! 人質に取られたらどうするのよっ!?」
「一応、そっちはノーヴェルさんたちにも頼んであるけど……」
「それこそ怪しまれるじゃないの! もうっ!」
まあ、確かに。
ルーガが不在で、ノーヴェルさんが動けば、一発でばれそうだ。
となると、ここはひとつ、デュークさんの手腕に……って、あの人も傍観者を気取ってたからなあ……今更ながら、不安になってしまう。
とりあえず。
ラルさんへの報告も済ませ、色々とやるべきこともやったので、俺たちは今、なるべく気付かれないように『お城』へと戻っているところだ。
『身体強化』などで速度をあげつつも、ルーガの『共有』能力で、一緒にいる全員がノーヴェルさんの『認識阻害』を纏っている状態にはなっている。
少なくとも、『精霊眼』クラスの能力でもなければ看破するのは難しい、という状況であるのだが。
さすがにルーガの爺さんの能力は未知数なので、正直、そっちは読めない。
町の住人とか、他の迷い人への目くらまし程度の意味でしかないのかも知れないな。
いや、それはそれで十分すごいのだけどさ。
ちなみに、ビーナスたちにも俺やルーガの状況については伝えてある。
もう、ルーガの爺さんと衝突するのは決定的だし。
なので、方針については共有できたんだが。
ビーナスとしては、みかんたちの心配の方が大きい、と怒っているのだ。
確かにその通り。
ただ、俺も『死に戻り』で作った隙を無駄にはできなかったし、デュークさんの隠蔽がどこまで作用するかが読めなかったので、あからさまな動きはできなかったのだ。
でも、確かにそうだ。
こちらが裏切ったことが露見していれば、ふたりともかなりまずい。
となれば、取れる手段は――――。
「最短でルーガの爺さんのとこまで行って、決着をつけるしかないな」
「やっぱり……?」
横で並走しているルーガはどうしても浮かない顔だ。
ルーガも、あの爺さんが仮初めの存在だとわかっている。
ゼラティーナからの最終試練のようなものだから。
だが、それでも。
あれほどまでに人格を再現された存在である以上、どうしても覚悟を決めきれない部分があるらしい。
いや、それも当然ではあるだろう。
それはルーガ自身も抱えている悩みでもあるだろうし。
記憶が混じったせいで、自分の存在自体があやふやになってしまっているルーガにとって、やはり、どうしても揺らいでしまうのだろう。
「ねえ、セージュ……」
そこまで言いかけて、黙ってしまうルーガ。
……いや、言いたいことは何となく察することはできる。
殺し合いになる前に何とかできないか。
別の手段はないのか、ということだろう。
そう、ルーガに確認すると。
「うん……セージュなら、と思って」
うん。
ちょっと買いかぶられている気がするな。
とは言え、ルーガの心中もわかるので、改めて少し考える。
俺が爺さんを倒さないといけないと思ったのは、単純に、爺さんがルーガのことを『魔王』にしようとしている――――からだけではなくて。
あの爺さんがゼラティーナの手によって生み出された残滓のようなものだと気付いてしまったからでもある。
だからこそ、あの『毒竜』の時もそうだったけど、成仏させることで楽にする、という発想になっていたわけだ。
そもそも、当のゼラティーナ本人からも煽られたわけだし。
『魔王城』のからくり、それ自体の多くがゼラティーナの管理ということは、その意図に沿った方がうまく行きやすいのではないか、とそう考えたのだが――――。
うん。
確かに、少しばかり短絡的すぎたか、と反省する。
そもそも、今のままだと、ビーナスの暗黒面を悪用することで一矢報いる感じになりそうだしなあ……。
ふぅ、と走りながら深呼吸。
考えろ考えろ。
最善策は何だ?
どうすれば、八方丸く収まる?
――――と。
俺が考え込んでいると、ビーナスに『憑依』していたアルルちゃんが声をかけてきた。
『ねえ、セージュ。その前に状況を確認してみたら? もう少し『お城』まで近づけば、ウルルと『遠話』を繋げると思うの』
「そうなの?」
そういえば、今、ウルルちゃんはフローラさんと動いているんだよな?
確かに、少しでも判断材料が多い方がいいよな。
……よし。
「お願いできる、アルルちゃん? 能力が使えるようになったら、ウルルちゃんから情報をもらってほしい」
『わかったわ』
「ルーガ、ギリギリまで俺も考えてみるよ。少しでも良い方法を」
「……うん」
「みかんたち、無事かしら……」
そのまま、『魔王城』への道をひた走る俺たちなのだった。
◆◆◆◆◆◆
『セージュ、ウルルと繋がったわ――――猫さんを見つけたんですって』
「本当か!?」
『それと、お城が真っ二つになった、とか言ってるわよ?』
「――――へっ!?」
「真っ二つ?」
「どういうこと? 見た目は変わらないじゃないのよ?」
『ちょっと、ウルル、もっとわかりやすく説明しなさいよ――――何よ、それ?
竜さんもいるけど、そっちはウルルたちと関係ない、って』
……いや、本気で意味がわからない情報が多いぞ?
猫さんが『誰』を指しているのか、とか。
というか。
「アルルちゃん……ウルルちゃんと直接話せるようにしてくれるか、つなぐ相手をフローラさんと替えることってできない?」




