第45話 農民、異変に遭遇する
「おい! 何が起こってる!?」
「………………………………!?」
俺と十兵衛さんが音のした場所へと駆けつけると、そこで繰り広げられていたのは、ゴーレムさん同士でのぶつかり合いだった。
十兵衛さんが近くで負傷して……腹部に大きな穴を開けているゴーレムさんに状況を問いただそうとしたが、何を言っているかまではわからない。
だが、そのゴーレムさんも焦っているのだけは伝わってくる。
明らかに異変が起きているぞ、これ。
ちなみに、ここは坑道の中間地点でもあり、空間が広くなって、大きめの部屋のようになっている場所で、そこから、更に枝分かれした坑道へと進んでいく、そのためのエリアだ。
その場所にいるのは、複数のゴーレムさんたちだ。
だが、様子がおかしい。
一体のゴーレムさんに対して、複数のゴーレムさんたちが必死で戦いを挑んでいるというか――――いや、違う!?
複数のゴーレムさんたちは、ファン君とヨシノさんを護ろうとしているのか!?
黄色とも、金色とも言える輝きを持った、他のゴーレムさんよりも一回り大きなゴーレムさん……いや、ゴーレムが、驚いて動けなくなっているファン君たちへと攻撃しようとしているのだ。
「ごめん、ちょっと遅れた」
そう言って、別の坑道の奥から現れたのはリディアさんだ。
言うが早いか、ゴーレム同士の闘争の中へと乗り込んでいったかと思うと。
「しーるど」
リディアさんがそう言って、輝いていたゴーレムに向けて手をかざすと、その巨体が、そのまま後ろの方へと押しのけられて飛ばされた。
うわ!? すごいな!?
あの三メートル以上はありそうな巨体が思いっきり宙を飛んだぞ?
やっぱり、リディアさんは強いな。
何の能力かは、相変わらず謎だけど。
「……硬い。それに、随分、重い?」
いつもと変わらぬ無表情のまま、リディアさんが首を捻る。
どうやら、何かおかしい感触があるようだ。
というか、ここまで見れば俺にもはっきりとわかる。
あの、金色ゴーレムが敵で間違いないようだ。
だったら、と俺も『鑑定眼』を使うことにする。
名前:◆◆◆◆ゴーレム(狂化状態)
年齢:0
種族:はぐれ鉱物種(モンスター)
職業:
レベル:◆◆
スキル:『身体強化』『◆◆◆◆』『◆◆◆◆』『◆』『◆◆』『◆◆◆◆◆』『◆◆◆』『◆◆◆◆』『◆◆◆◆◆◆◆』
「はっ!? 『狂化状態』だと!?」
え!? またなのか!?
何だよ、この『狂化状態』って。
いや、ラースボアの時は、特殊進化って話だったから、たまたまかと思ったがな。
立て続けに、その手のモンスターに遭遇したら、どこかおかしいって思うだろ。
もしかして、これがラルフリーダさんが言っていた不自然な点ってやつか?
ただ、はぐれ鉱物種ってのが気になる。
――――よし、今は緊急事態だよな。
ちょっと、ジェイドさんの分体のゴーレムさんも比較のために鑑定させてもらうぞ。
名前:ジェイド'21
年齢:1
種族:鉱物種・分体(アイアンゴーレム)
職業:採掘師
レベル:13
スキル:『身体強化』『身体硬化』『体当たり』『拳』『蹴り』『投げ』『情報共有』『鉱物同化』『採掘』『鑑定眼(鉱物)』『擬態』『ゴーレム語』
おっ! こっちは割と細かい部分まで鑑定できたぞ。
もしかして、俺とレベルが離れすぎていないからか?
いや、だとすれば、あっちの金色ゴーレムはどのくらいのレベルなんだよ?
「そっちの金色のゴーレムに『狂化状態』ってのが出てます! あと、スキルが『身体強化』なんかも持ってます! 他にも色々とスキルがありそうですが、ごめんなさい、俺のレベルだと、それ以上は鑑定できませんでした!」
「セージュ、種族は見える?」
リディアさんが、起き上がっては体当たりを繰り返そうとするゴーレムに対して、さっきと同じように跳ねのける能力を使いつつ、こちらに聞いてきた。
「『はぐれ鉱物種(モンスター)』になってます! てか、リディアさんは見えないんですか!?」
あれ? 確か、この坑道に入る時、鉱物種を見破ってなかったか?
「ん、『鑑定』じゃなくて『感覚』だから」
だから、詳しい情報として得ているわけではないらしい。
へえ、そうなのか、ってそういう場合じゃないよな。
今は何とか、リディアさんが跳ね飛ばしてくれてるので、膠着状態に持ち込んでいられるけどさ。
あ、待てよ?
ちょっと気になることがあった。
「リディアさん、坑道の外でぷちラビットとかにやってたみたいに、あのゴーレムを貼り付けておくことはできないんですか?」
「ん。思ったより消耗が激しい」
本当は、リディアさんも一撃で仕留めるつもりだったらしいが、思いのほか、あのゴーレムが硬かったらしくて、それで仕留めそこなってしまったのだそうだ。
「今、ちょっと空腹。全力を出せない」
なので、なるべく、力を無駄遣いしないやり方で、金色ゴーレムを抑え込んでいるらしい。
いや、お腹が空くと力が出せないのかよ!?
何だか、意外な一面を見てしまったような気がするが。
となると、けっこうやばくないか?
今も、複数のジェイドさんの分体たちで攻撃をしているけど、あの金色ゴーレムにはまったく傷がつけられないようなのだ。
「おい、セージュの坊主。あの野郎、さっき、俺たちが歯が立たなかったあの岩とおんなじ色をしてねぇか?」
「あっ! そう言えばそうですね!」
おいおい、嫌な予感がするぞ?
十兵衛さんの言うことが正しければ、あのゴーレムの素材って、さっきの十兵衛さんの武技でもまったく通用しなかった鉱物ってことだよな?
ってことはこれ、俺たちの装備だと倒しようがない、ってことにならないか?
「どうします!? 攻撃手段がないですよ!?」
「セージュさん! ぼく、『歌』を使ってみましょうか!? 能力に関して上乗せできるはずですよ!?」
リディアさんが抑えてくれている間に、何とかファン君たちも俺たちのいるところまで逃げてこられたようだ。
確かにファン君の『歌』スキルには、『攻撃強化』の効果もあったようだ。
それは、この坑道に来るまでに、十兵衛さんなども言っていた話だし。
だが、その申し出はリディアさんによって止められる。
「ダメ。今のファンだと、全力で歌わないと。それだと、向こうも強くなる」
「……あっ!?」
『歌』スキルの弊害。
それは、効果が耳に届いた全域に及ぶ、というものだ。
凄腕の『吟遊詩人』とかなら、囁きによって効果をもたらす歌を歌える人もいるらしいが、さすがに、昨日今日、冒険者になったばかりのファン君では難しい、と。
ぷちラビットぐらいだと、こっちの上乗せ分が大きかったので問題なかったけど、敵も強い場合は、逆にそちらの効果が大きくなってしまうこともある、とのこと。
「俺もなぁ、下手に打ち合うと、このなまくらだとポッキリいっちまいそうだぜ?」
「実際、私のショートソードも欠けました。想像以上に硬いです」
ヨシノさんも隙を見て、暗殺者系統のスキルで後ろから攻撃をしてみたそうだ。
だが、結局、ほとんど効果なし。
そもそも、ゴーレムの場合、鎧を着た人間と違って、脆い部分がないものな。
「俺も『土魔法』特化型だしな……『爪技』が通用しないと厳しいな」
本当、自分が役立たずで嫌になる。
穴掘りのスキルなんて、坑道で使ったら、落盤するだけだろうしな。
「………………………………」
「……えっ!? ちょっと待ってください!?」
「………………………………………………………………」
「それは……本当なんですか?」
「……」
「何を言ってるんだ? ジェイドさんの21番さんは?」
さっき俺が『鑑定』をしたゴーレムさんが、ファン君に、というか、俺たちに対して何かを話しかけているのだ。
内容については、ファン君とリディアさん以外はわからないけどさ。
とりあえず、ファン君がかなり驚いているから、かなり重要な話なのかもしれない。
「『土魔法』の使い手がいるなら、比較的簡単にゴーレムを壊す方法があるそうです」
「えっ!? そうなのか!?」
思わず、ファン君の言葉に驚いてしまう。
てか、ゴーレムさんは自分たちの壊し方なんて知ってるのか?
俺の問いに、ファン君が真剣に頷いて。
「はい。鉱物種とドワーフの秘中の秘、だそうです。本当は知られるとまずいことのようですが、今回は状況が状況なので、そうも言ってはいられない、そうです」
ファン君の言葉に、ゴーレムさんも頷く。
自分たちが管理を任されている場所から、こんな危険な存在を、そのまま、外へと解き放つわけにはいかない。
そう、ファン君が通訳してくれた。
だから、ここで倒す、と。
改めて、その手段について、ファン君が聞き出した情報を語り始めた。
そして。
俺たちは、狂化ゴーレムを倒すために動き始めた。
ジェイド'21は分体のため、『分体生成』のスキルは持っていません。
そっちはジェイド本体のみの能力です。




