第454話 農民、町長たちと話す
「つまり、あの『お城』は、コッコのお宿ではなく、『魔王の居城』という場所になったということですね?」
「そうですね。もっとも、肝心の『魔王』が不在ですけど」
俺の横に一緒にいるものな。
そう俺が付け加えると、何となくルーガが嬉しそうに見える。
やっぱり、『魔王』にされるのは嫌なんだろうな。
「ちなみに、その『お城』の不具合というのは、なぜ起きたのかお分かりですか?」
「それが……俺たちもわからないんですよ。突然、『お城』が揺れて、小っちゃくなったのはわかるんですけど……」
「うん、いきなり揺れて、びっくりしたよね」
『ちょっと待って、セージュ、ルーガも』
「……えっ!?」
「今の声って……」
『こっちこっち……ああ、面倒くさいから、一度、『憑依』を解除するわよ、ビーナス?』
「いいわよ、別に」
言いながら、現れたのはアルルちゃんだ。
いや、ビーナスを連れて行ってくれたのは知ってたけど。
ビーナスに『憑依』なんてできたのか? それは聞いてなかったな。
いや……だとしても。
「アルルちゃんだけ……なのか?」
「そうよ。ウルルはお母さんに連れていかれたもの。そうそう、そっちの話とも関係があるわ。今、あの『お城』の権限について、わたしが持ってた分はウルルに移ってるから」
「えっ!? そうなのか!?」
精霊種同士なら、権限の委譲とかもできたのか?
ああ、そういえば、フローラさんがそんなことを言ってたかも。
いや、そうじゃなくて。
「もしかして、さっきの地震って……」
「うん、お母さんが激おこな感じでウルルを連れてっちゃったもの。間違いなく、それが原因だと思うわ」
「……怒ってたんだ?」
「ええ。見た目は静かだけどふつふつと。周囲の『小精霊』が怯えるくらいよ?」
ぶるるっと身震いしながら、アルルちゃんが真面目な顔で頷く。
やっぱり、フローラさん、怒らせると怖いらしいな。
「でも、何で、そんなに怒ってるんだろ?」
「ウルルが消滅一歩手前だったからよ」
「――――へっ!?」
何で!? ウルルちゃんが消滅って、どういうことだ!?
「わたしもお母さんから詳しく聞けなかったから、よくわからないけど、セージュにウルルが憑いて行ったんでしょ? 遠くまで。それが原因らしいわよ?」
「あー……」
「……アリエッタさん?」
アルルちゃんの言葉に反応したのは、『魔法屋』を営んでいるエルフのアリエッタさんだ。
いや、何で、そっちが……あ! そうか、アリエッタさんって、確か。
そうそう、この人、『魔女』のシプトンさんと繋がりがあったんだよな?
「もしかして、事情をご存じで?」
「同一存在の矛盾についての問題だよ。エヌみたいな能力があれば別だけど、どちらかが消えるか、一歩間違えると自己を失ってどっちも消えちゃう現象のこと」
「――――へっ!?」
つまり?
もし、ウルルちゃんが『憑依』を解いていたら?
存在そのものが消えちゃってた、ってことか?
「『精霊種』なら、そっちの適性が高そうだけど……個人差があると思うから」
「いや、シプトンさんはそんなこと言ってませんでしたけど!?」
「たぶん、リスクを承知で、それでも必須だったから、じゃないかな? 一応、『予知の魔女』だし」
……アリエッタさんの説明によれば、限りなく可能性はゼロに近いみたいだけど。
まあ……確かにそんなことがわかれば、フローラさんも怒るかもな。
俺としては、結果的に無事だった、としか言えないし。
「だから、おかあさん、話をつけに行ったみたい――――あ、そうだ、セージュにも渡しておくね? はい、これ」
「これ……? 手袋?」
そう言って、アルルちゃんに手渡されたのは、ちょっと見、カラフルな手袋だった。
それぞれの指の色がわざわざ違うあたり、手が込んでると思うけど。
……でも、何で、手袋?
そんな風に俺が首を捻っていると、ラルさんが何かに気付いたように。
「もしかして、その素材は……」
「あ、気付いたの? さすがね。そうよ、これ、『精霊糸』で編んだ『手袋』よ」
「やはり……」
「……『精霊種』の門外不出の品だね?」
あ、これ、あの『糸』で編んだ手袋なのか。
いや、それだけにしては、随分とラルさんやアリエッタさんが驚いている気がするけど?
「アルルちゃん、この手袋って……?」
「これを付ければ、セージュも精霊の本体に触れるようになるわよ。ピンと来てないみたいだから、ちょっと試してみる?」
そう言って、アルルちゃんが『本体』へと戻る。
えーと?
この『手袋』をすれば、このちょっと見、煙みたいな感じの身体に触れることができるのか? ――――あっ! できた!
『ちょっと! くすぐったいわよ!?』
「あ、ごめん」
慌てて、手を引っ込める俺。
うん、まあ、確かに触れるようになったけど……それで?
「セージュさん、『精霊種』に触れることができる、ということの凄さがお分かりではないようですね?」
「いや、あの、凄いのはわかりますけど……」
そんな俺の言葉に、少し困ったような、しょうがないなあ、と言わんばかりの表情でラルさんが見つめてくる。
「『精霊種』の身体は、魔法以外で傷つけるのはほぼ不可能とされているんですよ。その身体に触れられる――――というわけです」
――――あっ。
つまり、そういうこと、か?
「もしかして、この『手袋』って……『物理無効』を?」
「そう。限りなく『精霊種』の本体に近いもので『糸』を作っている。その効果は『精霊種』の『物理無効』すら無効にする」
『だから、使用制限もあるわよ? あんまり使いすぎると壊れるから気を付けてね』
アリエッタさんの言葉に、アルルちゃんが捕捉をしてくれた。
そうか。
つまり――――『物理無効』破り。
『精霊糸』にそんな効果があったとはな。
「ですから、作り方やその所在については、秘中の秘になっているはずです。私たちも詳しい内容は教えてもらえませんし」
「そうなんですか……でも、俺たちウルルちゃんに作っているところを見せてもらったことがありますけど」
『ウルルってば……でも、まあ、セージュたちなら、まあ、ってことかも』
フローラさんも黙認してたのかも、とはアルルちゃんの談だ。
それにしても、だ。
回数制限があるとは言え、『物理無効』に対処可能か――――これ、使えるな。
「アルルちゃん、これ、借りてもいいの?」
『だから、それ、セージュ用よ? もうひとつはウルルたちが持って行ったから、自由に使っていいわよ。どうせ、取っておいても、消えちゃうし』
そうなんだ?
あれ? でも、俺のアイテム袋には『精霊糸』が残ってるけど?
『そういう風に編んでるからよ。効果がある分、溶けやすいんだって』
なるほど。
何にせよ、使えるアイテムであるのには間違いない。
ありがたく、受け取って。
そのまま、本題だったビーナスとの話へと移るのだった。




