表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
482/494

第449話 農民、再会する

「やっぱり、さっきまでの態度は演技だったのか」

「うーん……完全に演技ってわけじゃないんだけどね」


 威圧的な雰囲気が消えて、以前と変わらない様子のルーガと言葉を交わす。

 座っていいよ、と言われたし、他に腰を下ろせるようなものもないので、そのまま、ルーガの寝台で隣り合わせて座っている状態ではあるけど。


 ……うん。

 こういう経験はあんまりないので、ちょっとだけドキドキする。


 とは言え、今は状況が状況なので、割と真面目な感じでルーガと情報を交換しているんだけどな。


「つまり、記憶が戻ったってことでいいのか?」

「うーん……戻った……のかなあ? 本当にわたしの記憶? って疑問に思う内容のことの方が多いんだけど」


 そう言って、首を傾げるルーガ。

 どうも、振り返っても自分が経験したこととは異なる記憶があるらしい。


「さっきの言葉遣いとかは、記憶の通りだよ? ああいう感じでしゃべるとノヴェ……じゃなかった、ノーヴェルさんが喜んでくれるの」

「そうなのか? いや、そもそも、ノーヴェルさんって何者だったんだ?」

「わたしが『魔王』やってる時の身の回りのお世話とかしてくれてたみたい。記憶の中でもそんな感じの風景もあったよ。でも、その時はもっと動物っぽかったけど」


 ふーん?

 ルーガの話だと、ノーヴェルさんって、ルーガのペット兼侍女って感じの立ち位置だったようだ。

 結局のところ、ルーガをさらって、『(ここ)』に連れてきたのも、ノーヴェルさん自身の記憶が戻ったことが大きいようだ。

 『魔王城』を見て思い出したのか、それともまた別の要因なのかは、ルーガも聞かされていないみたいだけど。

 少なくとも、ルーガに敵意を持って行動したわけではなさそうだな。


「相変わらず、刺すような感じで見られたけどな、俺」


 さっきは一応、デュークさんが矢面に立ってくれたので、あの程度で済んだけど、相変わらずのノーヴェルさん節って感じだったもんな。

 そう、俺が言うと、ルーガが微妙な表情を浮かべた。


「……うん? どうした、ルーガ?」

「あのね、ノーヴェルさんがそんな感じなの、理由がわかるの。それに関する記憶も戻ったから」

「そうなのか? あの男嫌いの理由か?」

「うん……その記憶のせいで、わたしもこれが本当にわたしの記憶かな? って疑問に思ってるんだけど……セージュ、驚かないで聞いてね」

「まあ、それはいいけど」


 念を押してくるルーガに少し気圧されながらも、その話の続きを促す。


「あのね、セージュ。『魔王』のわたしって、自分の子供がいっぱいいるらしいの」

「子供……? それって――――」

「うん、そういう政策だったんだって。荒廃しつつある『魔王領』をひとつにまとめるためのやり方。力で制するのも手段のひとつとして用いたけど、それだけだと反発が大きくなるからって」


 つまり、そういうこと、とルーガがぽつりとつぶやく。


 一瞬、ぽかんとした後で、その言葉に意味に気付く。

 ノーヴェルさん。

 男嫌い。

 ――――そういうことか。


 歴史上でもよくあったこと。

 絶大な権力者に周囲が求めること。

 大奥しかり、後宮しかり。

 お世継ぎ、つまり――――。


「後継者の問題か」

「うん、そうだったみたい」


 困ったような苦笑したような表情を浮かべるルーガ。


「でも……本当にこれは、わたしの記憶、とは思えないんだよね。だって……」


 そう言って、ルーガが自分の身体へと視線を落とす。


「だって、わたし、まだ自分が子供だと思ってるもの。だから――――」

「…………未来の記憶」

「えっ?」

「いや、違うな……そうじゃなくて」


 思い出せ、思い出せ。

 エヌさんとの会話、そして、涼風さんとの会話を。


「『欠片』を組み合わせれば、本人になる……? いや、違う、あの時に涼風さんが言っていたのは――――」


 俺がルーガの居場所についてたずねた時、その答え。



『今、ルーガがどこにいるかわかりますか?』

『どちらの話だね?』

『えっ……? どちらの?』

『君の問いには、『どちらの世界』のルーガ君かを示す言葉が抜けているぞ? まあ、今回に関しては偶然にも同じ答えになるから別に良いが、質問をする際は少し気を付けた方がいいぞ』



 そうだ。

 その時の涼風さんの真意。

 あの時、確かに彼女は言っていた。

 ルーガと、その『魔王』をやっている人が別人だと。そういうニュアンスが混じっていた。


 なので、そのことをルーガにも伝える。


「……つまり、この記憶って?」

「おそらく、そっちの『魔王』さんの記憶だろうな。エヌさんが『存在の再現(コピー)に失敗した』と言っていた。逆に言えば、記憶だけのコピーが『欠片』に残っていたってだけの話だろ」


 考えろ、考えろ。

 だとすれば、ルーガは『魔王』じゃない。

 前にクリシュナさんも言っていた。

 『魔王』のスキルを持っている、イコール、『魔王』ではないって。


 だからこそ、今、俺の目の前にいるルーガが『魔王』になる必要は――――。


「ない」

「えっ?」


 そして、それを望んでいるのは誰か? ――――ルーガの爺さんだ。


 新しく得た情報から、考えを整理していく。

 そして、改めて、ルーガの方へと向き直って。


「ルーガ、ひとつ確認しておきたいんだが」

「何、セージュ?」

「お前自身は『魔王』になりたいのか?」


 大事なのはそこだった。

 もし、そうであるのなら、俺はそれを手伝ってもいいし。

 だが、もし違うのであれば、そうならないように一緒に足掻いてもいいし。

 ここで大事なのはひとつだけ。

 ルーガがどう思っているか、その意志。


 だから。


 俺はどう転んでもいいように、ここまで色々と動いてきたのだから。


 少しの間、考える素振りを見せるルーガ。

 だが、その合間に一瞬だけ、ビクッとした感じで身体を震わせる。

 目に宿るのは怯えの感情、か?


 ややあって。

 ルーガがぽつりと言葉を絞り出す。


「……なりたくない」


 小さい声。

 だが、その言葉には間違いなく、彼女の本心が宿っていた。


あれ(・・)が『魔王』なんだったら、わたし、なりたくないよ……」


「お爺ちゃんは望んでいるし……それが一番、いいことだってわかってるけど……でも……」


 ――――なりたくない、と。


 その言葉を聞いて。

 俺の腹が据わった。


「わかった。じゃあ、そういうことで俺も動こう」

「……でも、いいの? ノーヴェルさんから聞いたよ? セージュ、お爺ちゃんを手伝ってるんでしょ?」

「別にそういうわけじゃないぞ?」

「えっ?」


 驚くルーガに、俺はクエスト内容を見せる。



『クエスト【◆◆(魔王)系クエスト:ルーガの配下になる】を達成しました』



「これって……?」

「だから、俺は別に『魔王』の配下になったわけじゃないぞ? ルーガを助けたいと思ったから、こっちの道を選んだだけだって」


 だから。


「ルーガが『魔王』であろうと、『魔王』でなかろうと、俺にとってはどうでもいいことなんだよ。大事なのは―――(ルーガ)―なんだから」

「――――えっ!?」

「何でもない」


 やっぱり、まだ口にするのは恥ずかしい。

 だから、真っすぐなルーガの視線を逸らすように、前の方を向いて。


「それよりも、だ。今度こそ(・・・・)、逃げない。あの時はルーガの想いも聞いていなかったしな。だからこそ、今度は――――」


 触れるのは隠し持った『銃』。

 思い起こすのは――――。


「――――立ち塞がる相手を倒すだけだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ