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第442話 水の精霊、楽しむ/農民、動く

「ふふー♪ ここ、水がいっぱいでうれしいねー♪」


 一軒の館がある以外は周囲を海で囲まれている孤島のエリア。

 そこの環境が、文字通り水があっていたウルルは、ご機嫌で周囲の水を操っていた。


「そうそうー。『3区』だと暴発危険でおかあさんから使っちゃダメって言われてるんだよねー。久しぶりに練習してみようかなー?」


 そんなことをつぶやきながら、次々と強力な『水魔法』を発動していくウルル。

 当の本人は遊んでいるつもりでも、偶然、この区画に居合わせてしまった存在は、その『水の暴走』に巻き込まれて、ひどい目にあっているのだが、それはまた別の話。


『ウルル』

「あっ、アルル、どうしたのー? そっちは終わったのー?」


 双子同士での『遠話』が頭の中に響いて、今、作っていた渦でできた水龍をただの水へと戻すウルル。


『まあね。割とあっさりだったしね』

「うんー、ウルルもそう思ったよー」


 ――――思ったより呆気なかったかなー?


 少し大きめの波を生み出しただけ。

 ただそれだけで、その場で戦っていた『はぐれ』も迷い人(プレイヤー)たちも一緒に流されて、海へと散ってしまった。

 事前に、セージュから『大変かも』とか『強い人もいる』と聞いていたウルルだったが、ちょっと肩透かしのような感じになったのは否めない。


 もっとも。


 当の本人たちは、自分たちがそこまで強いという自覚がないわけで。

 『精霊の森』の中では、そこそこレベルだったこともあり、ちょっとだけ常識がおかしくなっているウルルたちではあった。


 普通の種族には、海の水で竜巻を起こしたり、それを龍の姿にして操ったりなどできるはずもなく。

 相対者は、水辺でのウンディーネの強さを痛感させられる結果となったのだが、それはそれとして。


「それで、何か用? 今、ウルル、久しぶりに大技の練習中ー」

『……ちょっと。あんた、グリードおじさんに止められなかった? おかあさんとかと一緒じゃないとダメって』

「でも、ここなら広いから大丈夫だよー」

『ほどほどにしなさいよ……って、あんた、大技の制御苦手じゃないのよ? 一度、『4区』の一角を水に沈めちゃって怒られたでしょ?』

「だから、練習するんだよー」

『せめて、シモーヌがいる時にしなさいよ……ああ、そうそう、そっちの話じゃなくて』

「だから、何ー?」

『そのシモーヌとおかあさんから連絡よ。ちょっと『お婆ちゃん家』まで帰ってきなさい、って』

「あ、ふたりとも戻ってきたんだねー?」


 おかあさんは強いから心配してなかったけど、シモーヌのことは気にしてた、とウルルが安堵の笑みを浮かべて。


「ねえねえ、それってアルルにだけ? ウルルには連絡なかったよー?」

『何か、つながったけど、笑い声しか返ってこなかったって言ってたわよ?』

「あれー?」


 技の練習に夢中で気が付かなかったようだ、とウルルが気付く。

 ちなみに、アルルの『遠話』は他のに比べるとわかりやすくなっているので、すぐに気付けたのだ。


「まあ、いいやー。じゃあ、『お婆ちゃん家』だねー? そのまえにセージュに連絡しておかないと」

『そっちは済ませたわよ。この『お城』に関わる急用だって伝えたら納得してくれたわ』

「おー。早いね、アルルー」

『ただ、『それならついでにビーナスも外に連れてってくれ』って、頼まれたわ』

「ふうん? 別に問題ないよねー? みかんもー?」

『みかんは別件があるんですって。まあ、前にやった要領で行けるでしょ』

「うんー、そうだねー」


 セージュたちがいそがしくて、構ってくれなかった時に、ウルルたちも色々とビーナスと遊んだりしていたのだ。

 その時に、『憑依』ができるかとかも試している。


「アルルが『憑依』すれば、ビーナスも空飛べるもんね?」

『ええ。だから、あんたは水で根っこを保護しなさい』


 それで大丈夫だから、とアルルの『声』が返ってくる。


「わかったー。じゃあ、まず合流して――――えーと、これを使えばいいんだっけ?」

『そうよ。その四角い変なの』

「これを地面に投げればいいんだよねー?」

『そうそう』


 コロコロとサイコロが転がるのと同時に。

 ウルルの姿は孤島エリアから消えてしまっていた。



◆◆◆◆◆◆



「ふむ、『城』の外へと出す、か。しばらくの間、護りが薄くなるのぅ」

「俺も出ますし、十兵衛さんもいますから」

「ぽよっ♪」

「ああ、もちろん、みかんもな」


 ビーナス、ウルルちゃんにアルルちゃん。

 3人が同時にいなくなるのは防衛として見れば、戦略的に痛いが、そこは仕方がない。ウルルちゃんたちは用事があるみたいだし、ビーナスが一度外に出て、『要件』を済ませるのは、今後に必要なことだから。


 それでも、『侵入者』の波が大分落ち着いた時を見計らって、その選択をしたのも事実だ。

 『死に戻り』の間隔が短くなったとは言え、それでも数時間は時間を稼げるのだ。

 ある意味、俺たちの情報が出回る前の今がチャンスとばかりに、各個撃破させてもらった。


 ――――正直、リクオウさんは十兵衛さんをぶつけないと厳しかったけど。


 内心でホッとする。

 というか、久しぶりに会ったけど、十兵衛さんってば、以前よりも更に戦い方が洗練してきた気がするぞ?

 身体の使い方に慣れた、ってのもあると思うけど、それよりも大きな要因はようやく戦闘に魔力を活用できるようになってきた、ってところだろうか。

 うん。

 本当にエルフの資質で『身体強化』を使えば、どういうことになるかを驚きと共に痛感されられたぞ。

 エルフと『剣術』の不適合な相性を壊すと、どういうことになるか。

 何となく、『鎧』戦でエディウスが驚愕していた理由がわかった気がする。


 もし、今、カミュと戦ったとして、結構いい勝負になるんじゃないだろうか。


 ともあれ。


 しばらく、ビーナスたちにまかせっきりだったけど、いい加減、俺も動かないとな。


 それに――――。


 改めて、『地図(マップ)』上に現れた名前へと目を遣る。


 リディアさん、ファン君、それとヨシノさんたちの名前がふられたマークが浮かんでいる。


 ――――ここ(・・)だな。


「ふむ……お主も興味を持ったかのぅ」

「ブリアン翁も、ですか?」

「うむ。少しばかり、難儀な相手のようだからのぅ」


 その目は、大丈夫かと少しこちらを心配する色が浮かんでいた。


 うん。

 相手がリディアさんか……。

 ファン君たちだけなら何とかなりそうだけどなあ。


「最悪、『死に戻る』可能性もありますが……これも大事ですから」

「うむ。期待しておるぞ」

「はい」


 そんなこんなで。

 そのまま、ファン君たちがいる区画へと飛ぶ俺たちなのだった。

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